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婚約破棄されましたが、その婚約指輪を作ったのはわたくしです 〜石は誓いを覚えておりますので〜  作者: 瑠璃宮あかり


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第24話:石が、足りません

 同じ石を三つ揃えるというのは、たいへんなことでございます。


 大きさが同じであればよいのではありません。色が同じでなければなりません。色が同じでも、透け方が違えば並びません。三つを横に置いたとき、真ん中だけ暗く見えるようでは、意匠が死にます。


 同じ鉱脈から、同じ時期に出た石。それを三つ。


 わたくしは、十日かけて王都中を歩きました。


          ◇


 石商は、王都に七軒ございます。


 一軒目で、二つ見つかりました。


 淡青の系統で、大きさが合っております。色も近い。ただ、三つ目がございません。


「同じ組のが、あと一つあったんだがね」


 店の主人が、帳面をめくりました。


「先月、売れた」


「どちらへ」


「組合だよ」


 二軒目でも、同じことを言われました。


 三軒目でも。


「ここひと月で、まとめて買われてね。王家の公募があったろう。良い石はみんな、組合が押さえた」


「組合が」


「会頭が直に来た。金払いはいいんだ、あの人は」


 わたくしは、四軒目、五軒目と回りました。


 どこも同じでした。


 六軒目の主人が、こう言われました。


「あんた、五番通りの人だろう」


「はい」


「悪いね。組合から、あんたには売るなと言われている」


「……そうでございますか」


「言い方は違うがね。『あの女に石を売った店とは、今後の取引を考える』と」


 その方は、済まなそうにしておられました。


「うちは、組合から仕入れているんだ。切られたら店が保たん」


「ご事情は分かります」


「……ほんとうに、悪いね」


 わたくしは、頭を下げて店を出ました。


          ◇


 七軒目には、行きませんでした。


 行っても同じだと分かっておりましたし、その店の方に同じ顔をさせるのが、申し訳なかったからです。


 部屋へ戻って、仕事台に二つの石を並べました。


 淡青。大きさは同じ。色も、光の下で見る限り、揃っております。


 二つでは、意匠になりません。


 三つでなければ、光の道ができません。


「二つじゃだめなの」


 リタが、覗き込みました。


「だめでございます」


「なんで」


「二つですと、光が石と石のあいだを一度往復して終わります。三つあると、光が跳ね続けます。……真ん中が要るのです」


「ふうん」


 リタは、二つの石を指で並べ替えました。


「じゃあ、他の色は」


「揃いません」


「無理やり揃えたら」


「並べたときに、分かります」


「誰が分かるの」


「わたくしが分かります」


 リタは、呆れた顔をしました。


「あんたが分かるだけでしょ」


「はい」


「じゃあ、いいじゃん」


「……よくございません」


 わたくしは、二つの石を布に包みました。


「そういうふうに一つ許しますと、次も許します。次に許すと、その次も許します。三年経つと、全部が『まあいいか』でできた物になります」


「めんどくさ」


「めんどくさいのです」


          ◇


 三日経っても、三つ目は見つかりませんでした。


 期限は、婚礼の三月前まで。あとひと月半でございます。座を作り、石を嵌め、彫りを入れる時間を考えますと、石は今月中に揃わなければなりません。


 わたくしは、王都の外の露店まで足を延ばしました。


 混ぜ物ばかりでした。


 四日目の夕方、部屋へ戻りますと、戸口の前に人が座っておりました。


 グリューン工房のご老人でした。


「よお」


「……まあ」


「聞いたよ。石が要るんだって」


 その方は、立ち上がって、腰を叩かれました。


「そこの娘が、触れ回っておってな」


 リタが、屋根の上から手を振っておりました。いつのまに登ったのでしょう。


「うちの蔵に、古い石がある」


「……蔵、でございますか」


「工房を畳んだときに、道具は全部売った。だが石だけは売れんかった。買い叩かれるのが分かっておったからな。十二年、置いてある」


 ご老人は、そう言って、少し笑われました。


「見に来るか」


          ◇


 その蔵は、東の川沿いの家の裏にございました。


 湿った、暗い蔵でした。石を置くには、いちばん悪い場所でございます。


 木箱を開けますと、油紙に包まれた石が、いくつも出てまいりました。


 わたくしは、一つずつ広げました。


 傷んでいるものが多うございました。湿気で内側に水が入っております。あの、灰色になった石が、いくつも。


 ……ですが。


「これは」


 箱の底のほうから、油紙が三重に巻かれた包みが出てまいりました。


 開けますと、淡青の石が一つ。


 わたくしは、ルーペを当てました。


 手が、止まりました。


「……ご老人」


「なんだ」


「これは、どこの石でございますか」


「北の山だ。四十年ほど前に出た鉱脈で、もう掘り尽くしておる」


「四十年前」


「そうだ。あの頃の淡青は、質がよかった。いまのものとは、粒の詰まり方が違う」


 わたくしは、布包みから、自分の二つを出しました。


 三つ、並べました。


 ……同じでございました。


 色も、透け方も、粒の詰まり方も。


「同じ鉱脈のものです」


「そりゃそうだ。あの頃、王都の石はほとんどあそこから来ておった」


 ご老人は、そう言われました。


「持っていけ」


「そういうわけには」


「持っていけ」


 その方は、木箱の蓋を閉められました。


「十二年、誰も来なかった蔵だ。石は、置いてあっても石にならん。……使われて、初めて石になる」


 ご老人は、蔵の中を見回されました。


「……全部、持っていってもらってもいい」


「そんなに、いただけません」


「置いておいても、湿気で駄目になるだけだ。現に、半分は灰色になっとる」


 その方は、木箱の一つを指されました。


「あれは、二十年前に買った分だ。使うつもりで買った。……使わんうちに、店を畳んだ」


「はい」


「石は、待ってくれん」


 ご老人は、そう言われました。


「人は待てる。十二年でも待てる。だが石は、置いてある間もずっと水を吸っておる。……待っているつもりで、傷めておるだけだ」


 わたくしは、その言葉を聞いておりました。


 わたくしは、三つの石を掌に載せました。


 冷たうございました。


「お代を」


「いらん」


「それでは」


「じゃあ、こうしよう」


 ご老人は、指を一本立てられました。


「あんたが作った物を、一度見せに来い。それでいい」


「……見るだけで、よろしいのですか」


「見るだけでいい」


 その方は、蔵の戸を閉めながら言われました。


「十二年、何も見ておらんのだ。目が寂しい」

お読みいただき、ありがとうございました。


【今日の石】同じ石を三つ揃えるのは、大きさや色を合わせる作業ではありません。同じ鉱脈の、同じ時期に出たものを探す作業です。……四十年前の鉱脈は、もう掘り尽くされております。残っているのは、誰かが使わずに持っている分だけです。


次回、石が揃いました。座を起こす前に、ミレイアは一つ、片づけなければならないことを思い出します。二年前の冬の話です。

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