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しまった。
会話が気になって二人を見つめていたせいで、キリアンとバッチリ目が合ってしまった。
急いで二人から顔を背ける。
「キリアンさん、どうかなさいましたか?」
「いえ、知り合いの姿が見えましたもので」
「わたくしの誕生日パーティーだからと言って、わたくし以外と話してはいけないわけではありませんわ。ご自由に歓談なさってください。わたくし以外の方にもパーティーを楽しんでほしいですもの」
「ありがとうございます。今日がオーヴァルニ伯爵令嬢にとって素晴らしい一日になりますように」
レティシアにお辞儀をしたキリアンがこっちに近づいてくる。
マズい。急いで逃げよう。
「シャーリー、あっちへ行かない?」
あたしはまたシャーリーの腕を掴むと、グイっと引っ張った。
「ん? あっちに何かあるの?」
「何があるかは分からないけれど、何かがある気がするの! 絶対に何かあるわ!」
「なあに、それ」
くすくすと笑いながらシャーリーが歩き始めたところで、キリアンがあたしたちの目の前に現れた。
どれだけの速度で歩いてきたのだろう。あまりにも到着が早すぎる。
「お久しぶりです、バヴィエール伯爵令嬢。それと……」
「シャーリー・ツォンガと申します」
シャーリーが愛想よくキリアンに答えた。
ああ、会話が始まってしまった……。
「失礼いたしました。以前にもお会いしたことがあるのに。お気を悪くされてはいませんか?」
「いいえ、私はしがない子爵令嬢ですので。覚えていなくて当然ですわ」
「そろそろドレイユ姓になるけれどね」
「もう、マリッサったら!」
あたしがシャーリーの耳元で囁くと、シャーリーが顔を赤くしながらあたしの背中を叩いた。
意外と力が強い。
「本当のことでしょう?」
「そうだとしても、はっきり言われると照れちゃうじゃない!」
「照れることなんてないのに、奥様」
「だから奥様は気が早いってば!」
あたしとシャーリーが二人でじゃれ始めても、キリアンはこの場から立ち去ろうとはしなかった。
空気を読んで離れてくれることを期待したのに。
「……キリアンさん。あたしたちに何かご用がおありですか?」
「言ったでしょう。俺はバヴィエール伯爵令嬢に興味が出たと」
「えっ!? ええっ!? 二人って、そういうこと!?」
今度はシャーリーがあたしのことをからかう番だとばかりに、ニヤニヤしながらあたしの横っ腹を突き始めた。
しかしあたしとキリアンは、残念ながらそういった甘い関係ではない。
「違うわよ。キリアンさんの言うあたしへの興味は、好意じゃなくてもっと嫌な感じのやつで……」
「嫌な感じ? そんなものを出したつもりはありませんよ」
キリアンが白々しいことを言ってくる。
あたしの手品を暴こうとしているくせに!
「あなたには嫌な空気を醸し出したつもりがなくても、あたしは嫌な空気を受け取ってるのです」
「そうだったんですか? それは申し訳ございませんでした」
「申し訳ないなんて思ってもないくせに」
「そりゃあ思っていませんよ。だって俺はあなたに対して嫌な空気なんて出していませんから。これまではさておき、少なくとも最近は」
キリアンはニコニコしながらあたしのことを見つめ続けている。何も知らない人が見たら、まるであたしとの会話の応酬を楽しんでいると思われそうなほどに。
「マリッサ、いつの間にキリアンさんと仲良くなったの?」
シャーリーがあたしたちを見比べて首を傾げた。
シャーリーはまんまとキリアンの笑顔に騙されてしまったようだ。
「仲良くないわよ。今のやり取りのどこを見て仲良くなったって判断したのよ」
「やりとりはそうだけど、キリアンさんの表情が前とは違うじゃない。柔らかいと言うか、楽しそうと言うか」
あーあ。シャーリーは完全にキリアンに騙されているみたいだ。
結婚をしたら、ぜひドレイユ侯爵には騙されやすいシャーリーを守ってほしい。
「とにかく。魔法認定試験の話以外で絡んでこないでください、キリアンさん」
「魔法認定試験の話なら、絡んでもいいんですね?」
「揚げ足取りはやめてください!」
あたしとキリアンが言い合いをしていると、シャーリーに求婚をしているらしいローガン・ドレイユ侯爵が、あたしたち……と一緒にいるシャーリーのもとへとやってきた。
シャーリーの近くに男性であるキリアンがいるのを見て、シャーリーに悪い虫が付きそうなのではないかと心配になったのかもしれない。
「やあ。シャーリー嬢もこのパーティーに来ていたんだね」
「ローガン様!」
ドレイユ侯爵が現れた途端、シャーリーの目がキラキラと輝き始めた。
それを見て安心した。
貴族令嬢の宿命ではあるけれど、幸せではない政略結婚も多いから。
シャーリーの目の輝きを見る限り、二人は気持ちの面でも上手くいっているらしい。
「お取込み中だったかな?」
「いえ、取り込み中なのはこちらの二人で、私は暇をしていました!」
いともあっさりとシャーリーがあたしを切り捨てた。
シャーリーはあたしたちとではなくドレイユ侯爵と話をする気満々だ。
「そう? それならあっちで話せるかな、シャーリー嬢」
「もちろんです!」
シャーリーはドレイユ侯爵の問いかけに即答すると、あたしに向かってひらひらと手を振った。
「そういうことだから。私はローガン様とお話をしてくるわね」
「あっ、シャーリー!?」
「そっちはそっちで楽しんでね、マリッサ」
シャーリーは完全にあたしとキリアンが良い感じなのだと誤解をしているようだ。
ということは、シャーリー的にはあたしを切り捨てたのではなく、あたしに気を回したつもりなのだろう。
ああ、まさかシャーリーの優しさを憎らしく感じる日が来るなんて……!




