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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第三章 運命の誕生日パーティー

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●10


 予想はしていたけれど、残されたあたしの前からキリアンは立ち去ってはくれなかった。

 ここからは一対一でキリアンと話さなければならないのか。

 気が重い。


「バヴィエール伯爵令嬢。魔法認定試験を受けている最中だということは、友人に話しているんですか?」


「どうしてそんなことを聞くのですか」


「触れられたくない話題を勝手に出して、あなたに嫌われたくはないので」


 嫌われたくないのなら、手品を見破ろうとしないでほしい。

 キリアンにとってはそれが仕事だから、仕方がないと言えば仕方がないのだけれど。

 それにキリアンがこんなことを言う意味が分からない。


「あたしに嫌われたところで、キリアンさんにとって損は無いでしょう? キリアンさんの仕事は、あたしに嫌われたことでどうこうなるものではありませんから」


「そうだとしても、他人に嫌われるのは良い気分がしません。それがバヴィエール伯爵令嬢なら特に」


 もし過去のあたしなら、今のキリアンの言葉に舞い上がっていたことだろう。

 過去のあたしは、我ながら単純な人間だったから。

 しかし今のあたしを単純な人間とは思わないでほしい。

 もうそんな言葉に浮かれる小娘ではないのだ。


「キリアンさんはこの前まで、あたしのことを迷惑がってましたよね? それならあたしからも嫌われた方が楽なのではありませんか?」


「何度も言っているように、前は前、今は今です。今の俺は、あなたに興味が湧いたんです」


「あたしはキリアンさんに興味を持たれるような面白い人間ではありません」


「十分面白いと思いますよ。あんな魔法もどきを使った魔法認定試験は初めてでした」


 そうでしょうね。

 魔法の存在するこの世界では、手品なんて技術は広まっていないから。

 一方で手品の普及していたパラレルワールドでは、魔法が存在していないようだった。

 きっと魔法の使えないあの世界の人々が、それでも魔法に憧れて生み出したものが「手品」なのだろう。

 ……と、それはさておき。

 魔法認定試験に関してはキリアンに口止めをしておいた方が良いだろう。

 このことが広まったら、キリアンのように、あたしの手品を見破ってやろうと近づいてくる人物が他にも出てきてしまうかもしれないから。


「その話、他の人には言わないでください」


「あなたがそれを望むなら」


 そう言って、キリアンが首を縦に振った。

 おや。意外とあっさり口止めが出来てしまった。

 対価を要求されたらどこまで許容できるだろうか、と考えていたのに。


「キリアンさんの言葉を信じてもいいのですよね?」


「安心してください。もともとあの魔法もどきの話を他人にするつもりはありませんでしたから。あなたとの会話のとっかかりとして言ってみただけです」


 ……キリアンはこう言っているけれど、あまり信じすぎない方が良いかもしれない。

 ニコニコしながら優しい言葉で処刑台までの道を歩かせてくる、レティシアのような人間もいるのだから。

 そうだ、レティシアだ。

 あたしはこの誕生日パーティーで、レティシアに闇魔法の話をされないといけないのだった。

 闇魔法グッズを受け取る日程は先延ばしにするにしても、レティシアには過去と同じ行動をとってもらわないと困るのだ。


「そろそろ失礼します。あたしはレティシアのところへ行くので。レティシアには、お祝いの言葉をもっと伝えたいですから」


「俺を避けることは自由ですが、魔法認定試験には必ず俺が行きますからね。俺とは仲良くしておいた方が得だと思いますよ」


「ご助言ありがとうございます。前向きに検討いたしますね」




 キリアンをその場に残して、あたしはレティシアのもとへと向かった。

 レティシアは多数の招待客と話をしていたので、行儀良く順番待ちをしてから話しかける。


「レティシア、みんなからのお祝いの言葉は終わった感じ?」


「ええ。全員からお祝いの言葉をいただいたわ。ありがたいことね」


 ふわりと笑ったレティシアは、微笑みながらも瞳を鋭く光らせた。


「さっきキリアンさんと喋っていたわよね、マリッサ?」


「え、ええ。見てたのね?」


 レティシアに見られていることには気付かなかった。

 別にキリアンと仲良く喋っていたわけではないけれど、レティシアの目にあたしたちはどう映っていたのだろう。

 もしかして会話に花を咲かせているように見えてしまったのだろうか。

 もしも会話内容を聞いていたら、とてもそうは思わないだろうけれど。


「いつの間にキリアンさんとマリッサは、お喋りをするような関係性になっていたの?」


 あっ。

 そうだった。会話内容以前に、過去のあたしとキリアンは二人で喋るような関係ではなかった。

 それが急にお喋りを始めたのだから、変にも思うだろう。


「ええと、あたしとキリアンさんは本来お喋りをする関係性ではないのだけれど……偶然と言うか、たまたま喋っただけと言うか……」


「ねえ、マリッサ。マリッサはまだ魔法使いとして認められていないわよね?」


 レティシアが突然、棘のあることを言ってきた。

 事実だから否定はしないけれど、あたしの年齢でまだ魔法が発現していないというのはかなりの崖っぷちで、話題に上げることすら躊躇われるものなのだ。

 それをわざわざ口に出すということは、レティシアはあたしがキリアンと喋っていたことがかなり気に食わなかったのだろう。

 しかも自分の誕生日パーティーでの出来事だから、なおさら腹が立ったのかもしれない。

 全部キリアンのせいだ。あたしはキリアンと話したくなんかなかったのに。

 あの会話のせいでレティシアの行動が変わったらどうしてくれるのだ!


「ねえ、マリッサ。魔法認定委員会のキリアンさんの相手が非魔法民というのは、とっても良くないことだと思うの」


 レティシアがニコニコしながら言葉を重ねる。

 けれどよく見ると目が少しも笑っていない。


「キリアンさんとあたしはそういう関係じゃないわ」


「でも、マリッサはそういう関係になりたいのよね?」


「…………」


 否定したいところだけれど、過去のあたしはキリアンに夢中で、それゆえにレティシアが罠にハメてきたのだ。

 安易に否定するわけにはいかない。

 あたしが黙っていると、あたしの代わりにレティシアが口を開いた。


「実はわたくし、魔法が使えるようになるすごい方法を知っているの」


 過去のレティシアと同じ文言。

 魅力的な甘い甘い悪魔の囁き。

 天使のように美しいレティシアの口から、地獄への道案内が始まった。


「本当!? それってどういう方法!?」


 あたしは過去の馬鹿なあたしと同じように、レティシアの言葉に食いついてみせた。

 するとあたしの反応を見たレティシアは、過去の彼女と同じようにくすっと笑った。

 過去のあたしは気付いていなかったけれど、レティシアの笑みには邪悪なものが見え隠れしている気がする。


「今ここでは話せないわ。それにパーティーの後も今日は家族と過ごす予定だから……来週のどこかでまたわたくしの屋敷へ来てくれるかしら?」


「あー、ごめんね。来週はずっと予定があるの」


 過去のあたしと同じ轍を踏まないように、来週に会う話は断った。

 過去のあたしはその日にレティシアから闇魔法をそうではないものとして教わって、闇魔法グッズをもらうのだから。

 同じ行動はいただけない。


「数時間で終わるけれど、それでも無理?」


「ええ。ごめんなさい」


 申し訳なさそうな顔をしてレティシアに謝罪をした。

 するとレティシアはすぐに次の案を提示してきた。


「それなら再来週は? 数時間くらい空いている時間はあるわよね?」


「再来週も時間が無いの。ありがたい提案をしてくれたレティシアには申し訳ないのだけれど」


 さすがにこれは苦しいだろうか。

 ただの令嬢が、二週間先まで予定がぎっちりだなんて。

 でもレティシアの策略をかわす方法が全然思いつかないから、少しでも長く時間稼ぎがしたいのだ。


「再来週もマリッサには予定があるのね……」


 レティシアは、あたしの話を嘘だとは思わなかったようだ。

 その代わりにとんでもない予想を立てていた。


「マリッサが忙しいのは、キリアンさんのせい?」


「へ? キリアンさん?」


「キリアンさんとデートをするから忙しいのかと思って」


「キリアンさんとデート!?」


 勘弁してほしい。

 キリアンとデートなんて、絶対にごめんだ。

 どんなタイミングで手品の話をされるか分かったものではないのだから。


「違うわよ。キリアンさんとは関係無い用事で忙しいの」


「それならマリッサは再来週までにキリアンさんとは一度も会わないのね?」


「あー……一回か二回は会うかも。可能なら一回だけにしたいのだけれど」


 レティシア対策ももちろん重要だけれど、魔法認定試験の方も重要なのだ。

 再来週までには再試験を受けておきたい。

 そのためあたしの手品を魔法だとすんなり認めてもらえたら一回、またキリアンに難癖をつけられたら再々試験を受けることになるから二回、キリアンと会うことになる。

 もちろん会うのは個人的にではなく、魔法認定委員会の認定員としてのキリアンとだけれど。


「……ふーん。マリッサにはキリアンさんと会う予定があるのね」


 不満そうにそう言ったレティシアが、急にあたしの腕を掴んだ。

 しかも木苺ジュースの入っているグラスを持った方の腕を。

 そして、その腕を勢いよく自分の方へと引っ張った。




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