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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第三章 運命の誕生日パーティー

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●8


 レティシアの悪魔の囁きをどう回避するか考えているうちに、レティシアの誕生日パーティーの日がやって来てしまった。

 レティシアに対してはなるべく過去と同じ行動を取る方針とは言っても、闇魔法グッズを持ち帰らされたら終わりだ。

 そんなのは過去のあたしをなぞっているに他ならず、つまり処刑台行きになる。

 それを上手く回避するには……どうすればいいのかは、ついに今日まで思いつかなかった。

 とりあえず今日はレティシアに悪魔の囁きをされるだけのはずだから、闇魔法グッズを受け取る日程を先送りにすれば、時間稼ぎは出来るはずだ。

 そうやって時間を稼いで、今後どうするかはまた後で考えることにしよう。




「レティシア、お誕生日おめでとう!」


「素敵なパーティーに呼んでもらえて嬉しいわ」


 誕生日パーティーに参加したシャーリーとあたしは、二人でプレゼントを持ってレティシアに祝いの言葉を贈りに行った。


「これ、誕生日プレゼント。気に入ってもらえるといいのだけど」


「あたしからのプレゼントはこれよ」


 あたしたちからプレゼントを渡されたレティシアは、嬉しそうな顔でプレゼントの箱を抱きしめた。


「ありがとう。マリッサ、シャーリー。今日はパーティーを楽しんでね」


「招待客がたくさんで、すごいパーティーね。それだけレティシアを祝いたい人がいるということね」


「わたくしはあまり豪華にしなくてもいいと言ったのだけれど、お父様が張り切っちゃって」


「レティシアのお父様はレティシアのことを溺愛してるものね」


 レティシアの父であるオーヴァルニ伯爵は、きっとレティシアのことを目に入れても痛くなどないのだろう。

 そう思うほどに、はたから見てもレティシアのことを溺愛している。


「きっとわたくしが結婚をするとなったら、お父様は三日三晩泣くに違いないわ」


 結婚よりも、愛娘が闇魔法に手を出していると知った方が泣く気がする。

 実際のところ、オーヴァルニ伯爵はレティシアが闇魔法グッズを集めていることを知っているのだろうか。

 ……知らないのだろう。

 知っていたら、そんな危険なものからは愛娘を遠ざけるはずだから。

 いや、もしかするとオーヴァルニ伯爵自身も闇の魔法使いの可能性があるのではないだろうか。

 その場合、レティシアは闇の魔法使いのサラブレッドだ。

 どちらにしてもレティシアが闇の魔法使いとして投獄されなかったのは、オーヴァルニ伯爵がレティシアの部屋の証拠隠滅を手伝った、もしくは証拠を握り潰したからだろう。

 オーヴァルニ伯爵は、レティシアのためなら私財すべてを差し出す気がする。


「あら、キリアンさんもお呼びしたのね」


「ええ。ぜひ彼にも誕生日を祝ってほしくて」


 あたしが闇魔法のことを考えているうちに、話題はオーヴァルニ伯爵からキリアンへと移っていた。

 …………キリアン?

 二人の視線の先を確認すると、次の魔法認定試験まで会うことはないと思っていた、キリアンがいた。

 キリアンもレティシアの誕生日パーティーに来ていたなんて。

 レティシアが好意を寄せるキリアンにパーティーの招待状を送るとは思っていたけれど、キリアンがパーティーに参加するタイプだとは思わなかった。

 仕事などの理由をつけて参加を断ると思っていたから、少々意外だ。

 ということは、過去の誕生日パーティーにもキリアンは来ていたのだろうか。

 過去のあたしはキリアンに夢中だったはずなのに、全然気が付かなかった。


「あっ、こっちに来るみたいよ」


 シャーリーの言葉でハッとした。

 あたしたちの目の前にいるレティシアは、このパーティーの主役なのだ。

 キリアンが挨拶に来ないわけがない。


「どうしましょう。わたくしの髪型、乱れてはいないかしら」


「大丈夫よ。今日のレティシアは誰もが振り返る完璧な美人だから、自信を持って。パーティーの主役として、彼とたくさん話をするといいわ」


 あたしはレティシアを褒めるシャーリーの腕を掴むと、軽く引っ張った。


「あたしたちは二人の邪魔をしないように遠くへ行ってるわね。行こう、シャーリー」


「えっと……それでいいの、マリッサ?」


 レティシアに聞こえないよう耳元で囁くシャーリーに、あたしからも囁き返す。


「もちろん。あたし、キリアンさんのことはもう好きじゃないの。でもレティシアには内緒ね。負けて身を引いたみたいで格好悪いから」


 本当の理由は、この心変わりをレティシアに伝えることで、レティシアの行動が過去と変わってしまう恐れがあるから。

 レティシアとはキリアンをめぐって対立したのに、その対立が無くなってしまっては、いつどんなタイミングで闇の魔法使いに仕立て上げられるか分からない。

 単に対立せずに終わるだけならいいけれど、油断をした頃に別の案件でレティシアにハメられたら、悔やんでも悔やみきれない。


「内緒にするのは別にいいけど、キリアンさんを諦めるつもりならレティシアに言った方が、無用な争いを避けられる気がするわ」


「うーん。上手く言えないけれど、これはプライドの問題なの。諦めて身を引いたら負け犬みたいになっちゃうの。だからお願い」


「負け犬って……でもマリッサがそう言うなら、内緒にしておくわね」


 シャーリーとあたしは、レティシアとキリアンから少し離れた位置まで移動をすると、遠くからレティシアの様子を見守ることにした。


「マリッサってば、諦めたと言う割に、やっぱりキリアンさんが気になるのね」


「あたしが気にしてるのはキリアンさんじゃなくてレティシアの方よ。友人だもの」


「ふーーーん?」


 シャーリーが意味ありげな声を発したけれど、その声は無視をしてレティシアとキリアンの会話に神経を集中させる。


「オーヴァルニ伯爵令嬢、お誕生日おめでとうございます」


「まあ。ありがとうございます、キリアンさん」


「貴族のパーティーにはあまり縁が無いもので……花のプレゼントで問題ありませんか?」


「もちろんです。今日からこのお花を自室に飾らせていただきますね」



 二人は当たり障りのない会話を交わしているようだ。

 キリアンからのプレゼントも、華やかだけれど求婚と勘違いはされないような、無難な花だけで作った花束だ。


「それにしてもたくさんの客人を招いているんですね。オーヴァルニ伯爵、そしてオーヴァルニ伯爵令嬢の人望の成せるわざ…………おや」




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