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屋敷にやってきた魔法認定委員会の面々を、応接室へと案内した。
今回は観客参加型の手品のため、観客もとい魔法認定員の近くで披露した方が良いと思ってのことだ。
しかし近くで披露するということは、それだけ手品のタネを見破られる可能性が高くなるということでもある。
そのため一瞬たりとも気が抜けない。
今日もお母様は心配そうな様子で、認定員たちの後ろからあたしのことを見守っている。
なお予告通り、今日の認定試験にキリアンは参加していない。
「今日は近くで魔法を使ってくれるようだな」
認定員の苦笑交じりの発言に、笑顔で答える。
「よく見えなかったから次回に持ち越し、なんてことになったら困りますから。今日で認定を決めたいのです」
キリアンが今後も自分のいない日を教えてくれるとは限らない。
むしろ彼の真面目な性格からして、何度も教えたらそれはそれで不正だと判断しそうだ。
だからチャンスはこの一度きり。
絶対に今日、決めてみせる!
「私たちも今日で判定したいところだね。こう何度も屋敷に呼び出されると、他の仕事が後回しになって残業が増えるからなあ」
「魔法認定委員会のみなさまはお忙しいですものね。ではお喋りはこの辺にして、さっそく始めますね」
あたしは用意していたキャリーケースから封筒を取り出すと、それをテーブルの上に置いた。
「ここに一枚の封筒があります。お手数ですけれど、認定員のみなさま自身の目で、この封筒に魔法が掛けられてないことを確認してください」
認定員の面々は訝しげな顔をしながらも、全員で封筒におかしなところが無いことを確認し始めた。
封筒に魔法が掛けられていないかどうか以外にも、触ってみたり透かしてみたりしているようだ。
そして一通り確認し終えると、封筒をあたしに戻した。
「問題は無いようだ」
「では次に、このコインにも魔法が掛けられてないことを確認してください」
あたしが封筒を受け取って代わりにコインを渡すと、認定員たちは封筒にやったのと同じことをコインにも行なった。
手品の基本は、トリックから観客の視線を逸らすこと。
あたしは認定員たちの視線がコインに集中している間に、認定員たちが確認したタネも仕掛けも無い封筒を、タネも仕掛けもある二重封筒にすり替えた。
「コインにもおかしな点は無いようだ」
あたしは認定員から返されたコインを手に取ると、片手にコイン片手に封筒を持って、認定員たちに見せる。
「では、封筒の中にコインを入れます」
そして全員に見えるように、コインを封筒の中へと入れた。
すでに二重底部分に入っているコインとぶつかって音が鳴らないように、慎重かつスムーズに。
「封筒をしっかりと閉じて、封筒の上からコインに増殖の魔法を掛けます。さあ増えなさい、微生物のように!」
封筒を閉じたあたしは、用意していた杖を振って魔法を掛けるフリをした。
そのあとで、封筒をハサミで切って封を開ける。
「さて、この封筒を逆さにすると……なんとコインが二枚になりました!」
封筒を逆さにして、中に入っていた二枚のコインをテーブルの上に転がす。
じゃーん!と意気揚々と披露したものの、認定員たちは驚いた様子を見せなかった。
「確かに二枚になっているな」
「しかし増殖魔法は禁止されているだろう」
えっ、そうなの!?!?
確かに考えてみると、増殖魔法でお金を増やせたら、いくらでもお金が手に入ってしまう。
「申し訳ありません。まだ魔法の講習を受けていないゆえ、知りませんでした」
あたしが頭を下げると、認定員たちが全員で顔を見合わせた。
「待て、おかしいぞ。増殖魔法を使用したら感知できるはずだろう!?」
「ああ。サイレンが鳴っていない。つまり感知に引っ掛かっていない……妙だな」
そりゃあ本物の魔法じゃないからね!?
どうしよう。こんなことでボロが出るなんて思ってもみなかった。
闇魔法以外にも禁止されている魔法があるなら、誰か先に教えておいてよ!?
何とか抜け道は無いものか……そうだ!
「もしかするとあたしはまだ魔法使いと認定されてないから、感知に引っ掛からなかったのかも?」
あたしの発言を聞いても、認定員たちは渋い顔をしている。
「認定の有無は関係ない気がするがな。増殖魔法自体が感知に引っ掛かるようになっているのだから」
「しかしこの意見には一理あるかもしれない。これまで魔法使いと認定される前の者が増殖魔法を使ったことなど無かっただろうからな」
「それはマズいな。感知魔法に穴があったとは。帰ったら感知魔法を強化しよう」
なんだか大ごとになっているけれど……本当のことを言えるわけもないので、成り行きを見守るしかない。
「バヴィエール伯爵令嬢。感知魔法の改善が上手く出来ているか確認をするために、魔法使いの認定を少しだけ先延ばしにしてはくれないだろうか」
なんですって!?
そんな話、認められるわけがない。
認定試験にキリアンがいないのは、今日が最初で最後かもしれないのだから!
「申し訳ないのですけれど、あたしは非魔法民とされるギリギリの年齢です。そのため一刻の猶予も無いのです。周りからの視線も冷たくて……魔法使いではない人生なんて、これ以上耐えられません!」
あたしはそう言ってさめざめと泣き始めた。
もちろん嘘泣きだけれど。
「うーむ。かなりの問題だから協力をしてくれるとありがたいのだが」
「ぐすっぐすっ……あたしはもう今の扱いを受け続けるなんて耐えられなくて……そんなことになるのなら、この場で胸にナイフを刺します!」
「やめて、マリッサ!」
あたしの言葉を聞いたお母様が悲鳴を上げた。
ナイスアシスト!
「そこまで言われてしまうと、協力を強制は出来ないなあ」
「仕方ない。認定試験前の別の者に、増殖魔法を使ってみてもらおう。報酬を提示すれば協力してくれる人は現れるはずだ」
「それもそうだな。バヴィエール伯爵令嬢にこだわる必要は無い、むしろいろいろな人で試す必要がある」
ふうー、危なかった。
なんかそのうちまた増殖魔法を使ってみてくれと言われそうだけれど、そのときは増殖魔法は上手く使えなくなったとでも言って逃げてしまおう。
今日のことがトラウマになってしまい……とか言っておけば、それらしい理由に聞こえるはずだ。




