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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆最終章 理想の世界

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【side キリアン】


 オーヴァルニ伯爵令嬢が闇魔法に手を染めた理由を知っているのではないかと思いバヴィエール伯爵邸を訪ねると、バヴィエール伯爵令嬢がとんでもないことを言い出した。


「決めました。あたし、この世界を変えます!」


 世界を変えることなんて、ちょっとやそっとでは出来やしない。

 近くの他人を変えることすら難しいのに、国どころか、世界だなんて。

 子どもの描くような夢物語だ。


「世界を変えるとは大きく出ましたね」


「あたしはこの世界を、持たざる者でも幸せに暮らせる世界にしたい!」


 バヴィエール伯爵令嬢はそう宣言をすると、その理想に至った理由を語り始めた。

 そのため俺は静かに彼女の言葉に耳を傾けることにした。


「たとえばあたしのように魔力が無かったり、レティシアのように……レティシアの心が折れてたというのはあたしたちの想像であって、レティシアが本当に努力が出来ない状態だったのか努力をしなかっただけなのかは定かではありませんが。とにかくあたしは、そういった人でも胸を張って生きられる世界にしたいのです!」


「あたしのように魔力が無かったり?」


 バヴィエール伯爵令嬢の放った言葉に気になる部分があったため聞き返すと、彼女は慌てた様子で両手を振って自身の言葉を訂正し始めた。


「い、いえ! それはただの言い間違いです。『たとえば魔力が無かったり』と言おうとしたら『あたしのように』が割り込んできただけです。気にしないでください」


「はあ、そうですか」


 バヴィエール伯爵令嬢は問題の部分を訂正はしたものの、それ以外については訂正するつもりが無いようだった。


「とにかく。あたしはこの優しくない世界を、優しい世界に変えたいのです!」


 優しい世界を作るためには、優しくないすべての物事に立ち向かわなくてはならない。

 そのことをバヴィエール伯爵令嬢は理解しているのだろうか。

 優しくないすべての物事を打ち倒して優しい世界を作ったとき、それを成し遂げた人間はボロボロになっていることだろう。

 バヴィエール伯爵令嬢にその覚悟があるとでも言うのだろうか。

 そもそも。


「ただの令嬢に世界が変えられるとでも?」


「それは……これから、ただの令嬢じゃなくなればいいのです!」


 ただの令嬢ではなくなる、か。

 バヴィエール伯爵令嬢の幸せを考えるなら、きっとただの令嬢のままでいた方が良い。

 貴族令嬢なんて願ってなれるものではない。その幸せな肩書きに憧れている平民はごまんといる。

 それなのに彼女は、その肩書きの優位性を活かさずに世界を変えたいと言う。

 正気の沙汰とは思えない。


「あたしはこれから偉くなって、貴族令嬢以外の肩書きを得ます。そして偉い立場から世界を変えます!」


「魔法の使えない令嬢は、偉くはなれませんよ」


「あたしは期限までに、絶対に魔法認定試験を合格してみせます!」


 バヴィエール伯爵令嬢の目には、確かな決意が宿っている。

 ……そうか、本気なのか。

 彼女は本気で世界を変えようと考えているのか。

 それなら、俺は。


「俺はバヴィエール伯爵令嬢と親しくはなりましたが、不正をする気はありません。俺もプライドを持って仕事をしているのでね。魔法認定員として、魔法ではないものを魔法とは認めません」


「不正をしていただかなくても、あたしは実力であたしの魔法を認めさせてみせます!」


「……俺は有休が溜まっているんです」


「急に何の話ですか?」


 俺の意図に気付いていない様子のバヴィエール伯爵令嬢が小首を傾げた。


「上司が有休を使えとうるさいので、来週の中頃にでも使おうと思っています」


「だから何の話ですか?」


 まだ俺の意図に気付いていないバヴィエール伯爵令嬢の首がさらに傾げられた。

 察しが悪い。

 意図に気付かれないと意味が無いため、今度は分かりやすく伝えることにした。


「俺が有休を取った日は、魔法認定員の中に俺が混ざらない、という話です」


「!!」


「俺が魔法ではないと思っているものを魔法と認定したら不正ですが、他の認定員が心から魔法だと思ったものを魔法認定するのは不正ではありません」


 やっと俺の意図に気付いた――気付いたと言うかすべて話したのだが――バヴィエール伯爵令嬢が、身を乗り出した。


「来週の中頃ですね!? 有休が取れたら具体的な日程を教えてください!」


「いいですよ。その代わり魔法認定試験が終わったら、一緒に食事でもしましょう」


「ええと、認定試験に合格したら、その日はお父様とお母様がパーティーを開くだろうから別日になってしまうと思いますけれど……それでも良ければ」


「構いませんよ。俺は有休をたくさん残しているんでね。出来る限りバヴィエール伯爵令嬢の予定に合わせます」


 ここで俺は、ふっと小さく笑った。


「もちろん、合格したら、の話ですがね」


「安心してください。絶対に合格してみせますから!!」


 バヴィエール伯爵令嬢が、令嬢らしくもなく、握りこぶしを天に掲げた。




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