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「シャーリー、実は見てほしいものがあるの」
屋敷に遊びに来てくれたシャーリーとテラスでお茶を飲みつつ、切り出した。
「見てほしいもの? どこに見に行けばいいの?」
「ここで見せるわ。シャーリーは椅子に座ったままで見てちょうだい」
あたしは自分だけテーブルから少し離れた位置に移動すると、さっそく花を咲かせる手品を披露してみることにした。
「取り出したるは、ただの枯れ枝」
そう言いながら、例の棒を取り出す。
シャーリーは真剣なまなざしであたしのことを見つめている。
「これに魔法を掛けると……さあ咲かせなさい、美しい花を!」
棒を持っていない方の手を宙に舞わせながら棒に魔法を掛けているような動きをする。
ちなみに魔法の発動には杖を使うことが多いものの、杖を使用しなくとも魔法の発動が可能だ。
あくまでも杖は、魔力を一点に集約するイメージを持たせやすいようにするための補助器具なのだ。
準備が整ったところで、棒に仕込んでいた花を一気に咲かせた。
「あら不思議。枯れ枝から花が咲きました!」
どうだ!?
ドキドキしながらシャーリーの反応を確認する。
すると。
「まあ、マリッサ! ついに魔法が使えるようになったのね!?」
シャーリーが拍手をしながら嬉しそうに立ち上がった。
どうやらあたしの手品は成功したようだ。
「しかもいきなり杖を使用せずに花を咲かせる魔法を使うなんて、マリッサは魔力が強いのかもしれないわ!」
…………あれ。
シャーリーの目が驚きで見開かれている。
この反応、もしかして杖無しで花を咲かせる魔法を使うのは普通ではない?
お母様が杖無しで使っているところを見たことがあるから普通なのかと思っていたのだけれど。
普通ではないなら、本番では無難に杖を使って魔法を掛けた演出にした方が良さそうだ。
「あー、いや、今日はたまたま調子が良かっただけよ。いつもは杖を使わないと魔法が発動しないわ」
「そっか、そうよね。魔法が発現したばかりで、杖無しでこの魔法が使えるなんてことは滅多に無いものね。せめて血の滲むような練習をしないと無理よね」
血の滲むような練習が必要なのか。
しかもシャーリーは血の滲むような練習を、ずいぶんと当たり前のことのように言っている。
……もしかして魔法を使うのって、あたしが想像していたよりもずっと大変?
まああたしは練習をしたところで、過去に非魔法民であることが確定しているから魔法は使えないわけだけれど。
あたしは棒を片手にテーブルに戻ると、シャーリーに真剣な表情で囁いた。
「あのね、シャーリー。あたしが魔法を使えるようになったことは、まだ秘密にしておいてほしいの」
「どうして? 魔法の発現は喜ばしいことよ」
本当に魔法が発現したのなら、ね。
「詳しくは言えないのだけれど、少し込み入った事情があるのよ。でも親友のシャーリーにだけは魔法を見せたかったの」
あたしの言葉を聞いたシャーリーが、ぱあっと顔を綻ばせた。
どこからどう見ても、悪だくみをしているようには見えない。
「親友なんて光栄だわ。分かった。マリッサが困るなら誰にも言わないわ。私たちは親友だもの」
「シャーリー、ありがとう」
「いいえ。私の方こそ、事情があるのに秘密を教えてもらえて嬉しいわ。信頼されるのは幸せなことだもの。ありがとう、マリッサ」
昔から良い子だとは思っていたけれど、シャーリーは本当に優しい。
だからこそ悪女と呼ばれていた過去のあたしとも仲良くしてくれていたのだろう。
「そうだ。秘密を教えてもらった代わりに、私からも秘密を教えちゃおうかしら」
「シャーリーの秘密?」
シャーリーの秘密とは一体何だろう。
一度処刑されて、パラレルワールドを覗いて、回帰をして、手品を魔法と偽っていること以上の秘密でもなければ驚かない自信があるけれど……。
「実は私、婚約を申し込まれているの」
「ええっ、婚約!? 誰と!?」
驚いたあたしはガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。
前言撤回。
シャーリーの婚約は、驚くべき秘密だ。
「婚約は、ローガン・ドレイユ侯爵からの申し出なの」
「ドレイユ侯爵家……なるほどね」
ドレイユ侯爵家に関する悪いうわさは特に聞かない。
ローガン・ドレイユ侯爵個人の性格についてはよく知らないけれど、確か年齢はそこまで上でもなかったはずだ。
結婚する相手として悪くはないだろう。
「シャーリーは婚約を受けるつもりなの?」
「ええ。そのまま彼と結婚をして家庭に入るつもりよ」
「そうなのね。おめでとう!」
あたしはシャーリーのことを、ぎゅっと抱き締めた。
友人の婚約は喜ばしいことだ。
しかも変な老人のところではなく、シャーリーと釣り合いそうな年齢の、良さげな家柄の相手だ。
ただ一つだけ気になるのは。
「でも少し意外だわ。シャーリーは強い魔法が使えるから、バリバリ仕事をすると思ってたのに」
この世界では、魔力が強ければ、女性でも重要な役職に就くことが出来る。
そのため魔力の強い女性はほとんどが仕事に精を出している。
だからシャーリーもそういう道を進むものだと思っていたのだ。
「実は、結婚して幸せな家庭を築くことが、私の夢だったの」
シャーリーがはにかみながら、そう言った。
「そうだったのね。シャーリーならきっと素敵な家庭が築けるわ。幸せな結婚になると良いわね」
「そうなるように願っているわ。それで、マリッサはどうなの?」
「どうって?」
シャーリーがはにかんだ顔を悪戯っぽいものへと変化させた。
「マリッサは魔法認定委員会のキリアンさんが好きだと言っていたじゃない」
「ああ、キリアンさんね……」
あたしが闇の魔法使いに仕立て上げられた後、キリアンはレティシアと婚約をしたと、牢獄内で聞かされた。
敵ながらレティシアは実に上手く立ち回ったものだ。
目障りなあたしを蹴落として、目当ての相手を手に入れたのだから。
悪女と呼ばれた挙句、闇の魔法使いとして処刑されたあたしとは雲泥の差だ。
それにしても、キリアンか。
今のあたしは、その名前を聞くだけで憂鬱だ。
「……はあ。あのキリアンをやり過ごさないといけないのよね」
「やり過ごす?」
「いいえ、こっちの話よ」
今から気が重い。
キリアンは平民から、魔法に関する仕事を一手に引き受ける魔法認定委員会に所属することになった、稀有な人物だ。
それほどまでに魔力量が多く、日々魔法を研究していて、魔法に精通している。
そんな相手を騙すのは、一筋縄ではいかないだろう。
彼の目を誤魔化せるくらいの、最高の手品を披露しないと。




