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屋敷内の庭園で溜息を吐く。
手品の技術を磨くと意気込んではみたものの、技術を磨く以前の問題だった。
なにせこの世界では手品用品が売っていないのだ。
あのパラレルワールドとは違って、ここは魔法が発展した世界だからかもしれない。
手品を披露したところで「それって魔法でしょ」と言われてしまうため、この世界では手品の文化が発展しなかったのだろう。
だから手品用品も自作するしかないわけだけれど……。
「手先は器用な方だと思ってたけれど、そうでもなかったのかも?」
パラレルワールドのあたしが使っていた『花を咲かせる棒』を作ろうとしてみたけれど、全然ダメ。
筒状の棒を作ることには成功したけれど、棒の中に花を入れておくと、出した際に花がくしゃくしゃになってしまう。
「花に保護魔法を掛けたらいけそうな気もするのだけれど……って、あたしは魔法が使えないから苦労してるのよ! 魔法が使えないから手品を使おうとしてるのに、手品用品を作るためには魔法が必要って何!?」
そこまで言って、はたと気付く。
「……別にすべてを自分で作る必要は無いわよね。ずっと綺麗に飾っておきたいからとでも言えば、きっとエスターが花に保護魔法を掛けてくれるわ」
花に保護魔法を掛けること自体は特別おかしなお願いではない。
まさか手品用の花にするためだとは思いもしないはずだ。
「保護魔法を掛けてもらうことでこの手品はクリア出来そうね。他の手品用品も作りたいところだけれど、水を固形にする粉は……あれは何の粉だったのかしら。粉の種類が分からないから、あの手品はあたしの世界では使えなさそうね」
あとはカードとコインを使った手品をたくさんやっていたっけ。
あれは手先の器用さと視線誘導の巧みさがモノを言いそうだった。
あの手品なら、あたしだけの力でも出来るかもしれない。
あとはハトを登場させる手品……は、やめておこう。
自分の意思を持つ動物という不確定要素は、失敗に繋がりそうだ。
それよりも手先の訓練として行なっていた、複数のガラス玉を片手で動かすやつ。
あれなら何の下準備も無く出来そうだ。
というか訓練なのだから、まずはあれをやってみるべきだろう。
早くガラス玉を手に入れなくては。
「よーし。町へ行くわよー!」
あたしは気合いを入れるために、一人で拳を天に突き上げた。
* * *
エスターとともに馬車に揺られる。
町へ行くのはずいぶんと久しぶりだ。
投獄されていたのだから当然だけれど。
「マリッサお嬢様、本日は何を購入されるおつもりですか?」
「綺麗な花とガラス玉が欲しいの。ガラス玉はこのくらい大きなやつね」
あたしが手で欲しいサイズの丸の形を作ると、エスターが難しい表情になった。
「花は分かりますが……ガラス玉ですか? アクセサリーに加工されているものではなく?」
私の答えを聞いたエスター首を傾げている。
そういえばガラス玉を購入する理由を考えていなかった。
「えっと……ガラス玉健康法って言うのが、令嬢たちの間で流行ってるらしくて」
「ガラス玉健康法、ですか?」
「ガラス玉を両手に持って、太陽の下でこうやって手を曲げて伸ばして曲げて伸ばして、ってする健康法よ」
口から出まかせで言ってみたものの、実際にやったら健康になる気がする。
だって太陽の下で運動をするのだから。
ガラス玉を持つ意味はイマイチ見出せないけれど。
「私は聞いたことのない健康法です」
うん、あたしも聞いたことない。
けれどそんなことは言えないため、必死に誤魔化す。
「最先端の健康法だから、まだ知ってる人が少ないみたい」
「知っている人が少ないということは、売っている店も少ないのではないでしょうか」
確かにその通りだ。需要の少ないものを売っている店は、あまり無い。
盲点だった。
手品用品と同じく、使い道のないガラス玉も、この世界では売っていないのではないだろうか。
「でも、絶対に無いとまでは言えないわよね。ガラス玉はどこかでは売ってる可能性があるわよね?」
「可能性はあると思いますが……探すのは大変かもしれませんね」
「じゃあ、頑張ればいいってことね!」
あたしの言葉を聞いたエスターが、引きつった笑みを浮かべた。
「今日は相当歩くと思っておいた方が良さそうですね。気合いを入れ直します」
あたしも気合いを入れよう。
何件でも店をはしごしてやるわ。
手品の有無で、非魔法民として蔑まれるか、魔法の使える貴族として貴族社会に残ることが出来るかが決まるのだから!
* * *
町を歩き回って無事にガラス玉を手に入れたあたしは、手のひらの上で三つのガラス玉を動かす練習を始めた。
パラレルワールドのあたしは簡単そうにガラス玉を動かしていたのに、なかなかどうしてこれが難しい。
上手く動かない上に、すぐに手が疲れてくる。
あたしは来る日も来る日もガラス玉を動かす練習を続けた。
そして同時並行で花を咲かせる棒を作り直した。
最初に作った棒は急ごしらえだったこともあって、とても枝には見えなかったからだ。
パラレルワールドのあたしはただの棒に花を咲かせていたけれど、この世界には枯れ枝に花を咲かせる魔法が存在するから、枝に見えた方が魔法と認識されやすいはずなのだ。
紙に枝のような模様を描いて、それを棒に貼り付ける。
ちなみに紙も町で選び抜いた逸品だ。ザラザラとしていて一番木の枝に見えるようなものを選んだ。
ザラザラした紙に絵を描くことなんて初めてだったため、何度も描き直す羽目になったけれど。
でも苦労した甲斐あって、我ながら素晴らしい棒が出来上がった。
「やっぱりあたしって手先が器用だったみたいね。それはそうか。パラレルワールドではマジシャンをやっているのだから」
マジシャンのあたしの手腕には目を見張るものがあった。
てっきりタネが仕込んであるものと思っていた手品が、実は素早い動きでコインを飛ばしているだけだったことを知ったときには、驚きで引っくり返るかと思った。
「さすがにあの手品を披露するには、まだまだ技術が足りないわ。でも花を咲かせる手品は道具さえ揃えれば何とかなりそうな気がする。棒は練習用に作ったものから木の枝に見えるものに作り直したし、花にも保護魔法を掛けてもらったもの」
……となれば、そろそろ次のステップに進んでも良いはずだ。
「やっぱり他人に見せて反応が欲しいところよね」
一説によると、実践は練習数十回分の経験値が入るらしい。
それなら花を咲かせる手品だけでも、早めに実践しておいた方が良いはずだ。
問題は相手だ。
もしも手品のタネを見破られた際に、手品の件を他人に言い触らさない人物であることが必須だ。
間違ってもレティシアのように、あたしを破滅に追いやろうとしている人間に見せてはいけない。
「両親に見せた場合は……手品が成功した場合の方が厄介ね」
娘に魔法が発現したと喜んで、すぐにでも魔法使いを認定する魔法認定委員会を呼んでしまいそうだ。
しかし魔法認定委員会を騙すには、まだまだ技術も手品用品も足りない。
今、彼らを呼ばれるわけにはいかないのだ。
「……そうだわ! シャーリーが適任ね。口の堅い性格だし、シャーリーならたとえ手品が失敗しても酷いことを言わないだろうし」
だから友人のシャーリーなら……シャーリーはちゃんと友人よね?
レティシアの件があったため一抹の不安はあるものの、シャーリー以上に信頼できる相手はいない。
シャーリーならきっと大丈夫。
……大丈夫、のはず。
* * *




