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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第二章 魔法認定試験を乗り越えろ

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●5


 手品の練習を重ねたあたしはついに両親に、魔法が発現した、と告げた。

 すると予想していた通り、数日後には屋敷で魔法認定試験を受けることになった。


 屋敷にやってきた魔法認定委員会の認定員たちの中には、当然のようにキリアンもいた。

 運が良ければキリアンは来ないのではないかと期待をしていたのだけれど、そう上手くことが運ぶわけがなかった。

 しかも屋敷にやってきたキリアンは若干不機嫌に見える。

 過去のあたしは気付いていなかったけれど、キリアンはあたしの猛烈なアピールにうんざりしていたのかもしれない。

 過去の自分の行ないのせいとはいえ、何から何までツイていない。


「魔法が発現したというのは、マリッサ・バヴィエール伯爵令嬢で間違いありませんね?」


 屋敷にやってきたキリアンが、さっそく本題を切り出した。

 早く認定試験を終わらせてとっとと帰るつもりなのだろう。


「紅茶を用意していますので、まずはお話を」


「ありがたい申し出ですが、ご遠慮させていただきます。このあと別の屋敷へも行かなくてはならないため、時間が無いのです」


 魔法認定委員会に少しでも良い印象を持ってもらおうとお母様がお茶をご馳走しようとしたけれど、あっさり断られてしまった。

 実際にこの後のスケジュールが詰まっているのか、それとも早く帰りたいために適当な理由を述べただけなのかは分からない。

 とにかく魔法認定委員会としては、早くあたしの魔法の可否を判断して、屋敷から帰りたいということだろう。

 その思惑のために雑な認定をしてくれるのであれば、こっちとしても願うところなのだけれど。


 あたしはティートローリーを押してきたエスターに近づくと、お母様の代わりに指示を出した。


「エスター、紅茶を振舞う代わりに彼らにお土産を用意してちょうだい。並べる予定だったお茶菓子を包んで人数分用意するのよ」


「かしこまりました」


 あたしの指示を受けたエスターは、ティートローリーを下げながらキッチンへと向かった。

 これでエスターがあたしの認定試験中にテラスに来ることはないだろう。




 あたしは魔法認定委員会の認定員たちを、さっそくテラスへと案内した。

 屋敷内よりもテラスでの方が、彼らと距離を取ることが不自然ではないと判断したからだ。


「ではみなさまは、そちらのテラスでおくつろぎくださいませ」


 あたしは丁寧に魔法認定委員会の面々をテラス席へと誘導する。

 その間キリアンはあたしのことを警戒した表情で眺めていた。

 あたしが無理やりキリアンの腕に自身の腕を絡ませるのではないかと考えていたのかもしれない。


 けれど、おあいにく様。

 今世のあたしはキリアンになど興味は無いのだ。

 むしろ処刑される一因であったキリアンには近づきたくもない。

 一因と言っても処刑に関してキリアンは何もしていない。しかしキリアンに執着をした結果、あたしはレティシアにハメられたのだ。

 キリアンに近づくことに慎重にもなる。


「少し距離が遠いのではないかね?」


 魔法認定委員会の面々をテラス席に案内した後、彼らからしっかりと距離を取るあたしに、認定員の一人が首を傾げた。


「確かに。もっと近くから確認をしないと判定が難しいかと」


 別の認定員も目を細めながらあたしのことを眺めている。

 この反応は想定内だ。

 だからもちろん答えも用意している。


「実はまだ魔法が不安定なのです。万が一が起こるといけませんので、みなさまには安全のために距離を取っていただきたいのです。これくらいの距離があれば、万が一が起こった場合でも、優秀なみなさまには防御や回避が可能だと思いますので」


 もちろん万が一など起こらないけれど。

 だってあたしは魔法が使えないのだから。


「うーむ。バヴィエール伯爵令嬢が魔法を使ったように見せかけて、どこかに隠れている別の人間が魔法を使う可能性もあるのでは? こう遠くては、あなた自身が魔法を使っていることを見極めづらいので疑ってしまうな」


「そのような不正が起こらないように、広い庭の中心で魔法を披露させていただくつもりですの。ほら、周りに誰もいないことは明らかでしょう?」


 両手を広げて、庭にいるのが自分一人であることを強調した。

 ちなみにお母様は、ハラハラしながらテラス席の後ろであたしのことを見守っている。


「……まあいいでしょう。発現したという魔法を披露してください」


 あたしの説明に納得したのかしていないのか、キリアンが魔法の使用を促してきた。


 ここが正念場よ、マリッサ・バヴィエール!

 華麗に魔法認定委員会の認定員全員を騙すのよ!!




「取り出したるは、どこにでもある三つのガラス玉」


 いや、どこにでもは無いけれど。

 このガラス玉を手に入れるために町を歩き回ったけれど。

 けれど今、そのことを気にする人はいないだろう。


 あたしは三つのガラス玉を左手の上に乗せると、右手で魔法の杖を握った。


 心臓の音がうるさい。

 落ち着いて。緊張してはダメ。

 何でもないことのように、やってのけるのよ。


「あたしの魔法で、このガラス玉に命を吹き込んで見せましょう。さあ動きなさい、生き物のように!」


 あたしは杖をガラス玉に近づけると、いかにも魔法を使っているように数回振る。

 そして左手を器用に使い、ガラス玉が勝手に動いているかのようにジャグリングをする。


「まあ、マリッサ! 素晴らしいわ!!」


 あたしの手品を見たお母様が、拍手をしながら歓声を上げた。

 少なくともお母様には、これが魔法に見えているらしい。


「ほう。物体を動かす魔法か。簡単な魔法だが、魔法であることには違いない」


「では認定で良いかな?」


 認定員たちの言葉に心の中でガッツポーズをしたものの、そのガッツポーズはすぐに下ろすこととなった。


「今の魔法だけでは認定できません。別の魔法も使ってみてもらえませんか? 発現したてとはいえ、一種類の魔法しか使えないわけではないでしょう?」


 キリアンだ。

 やはり一番の敵はキリアンのようだ。

 キリアンさえいなければ、認定員たちを騙せそうだったのに……!


 しかしそんな心情を顔に出すわけにはいかない。

 マジシャンにはポーカーフェイスも重要なのだ。


「分かりましたわ。では次は、枯れ枝に花を咲かせて見せましょう」


「君はまだ魔法の講習を受けていないから、連続で魔法を使うのは難しいのではないか?」


「私もそう思う。正しい魔法の使い方をマスターする前は、魔力だけで無理やり魔法を発動させているからな」


 ……認定員たちの話はよく分からないけれど、あたしは本物の魔法を使っているわけではないから何の問題も無い。


「ご心配ありがとうございます。けれどもう一回くらいなら問題はありませんわ」


 あたしは、花を咲かせるタネを仕込んだ棒を取り出した。

 ちなみにエスターに土産の用意を頼んでおいたのは、花に保護魔法をかけたエスターがこの手品を見て、何かに気付く可能性を減らすためだ。


「次に取り出したるは、何の変哲も無いこの枯れ枝。この枯れ枝に魔法を掛けると……さあ咲かせなさい、美しい花を!」


 あたしは先程と同じように右手で持った杖を振り、左手で棒に花を咲かせた。


「おおっ。見事に咲いているな」


「魔力でゴリ押しの状態で魔法を連続使用するなんて、魔力量が多いのかもな」


 よし、好感触。

 この世界には手品の概念が無いから、魔法を当たり前に使える人ほど手品に騙されやすいのかもしれない。


「ではさっそく魔法使いとして認定し、魔法使いの心得と闇魔法についての注意喚起を」


「お待ちください」


 良い流れを断ち切る人物と言えば、この人。

 キリアンだ。


「何だね。まさかキリアンは、今の魔法を他人が使ったものだとでも言うのかね? そんなことはないと思うぞ。私はバヴィエール伯爵令嬢だけではなく、彼女の周囲も確認していたからな」


「俺も今のを他人が使った魔法とは考えていません。ですが、これを魔法と認定するのは時期尚早かと思います」


「今のが魔法ではないなら、一体何だと言うのかね」


「それはまだ分かりませんが、今ここで彼女を魔法使いと認定すべきではないことは分かります。また日をあらためてこの屋敷へ認定試験に訪れましょう。今日はこれ以上時間がありませんので」


 どうやらこのあとに予定があるというのは、早く帰るための方便ではなく、事実だったようだ。

 それにしても。


「魔法使いの心得と闇魔法についての注意喚起って……?」


 過去のあたしはそんな話を教わった覚えは無い。

 だからこそ闇魔法の違法性を知らずに、簡単にレティシアにハメられてしまったのだ。


「魔法使いの心得と闇魔法についての注意喚起は、魔法使いと認定された者にする大切な説明のことです。あなたの魔法が本物なら、いずれ聞くことになるでしょう。それとは別に正しい魔法の使い方の講習も受けることになります」


 なるほど。

 闇魔法の危険性を魔法使いになった者に話すからこそ「闇魔法を使うことで通常の魔法が使えなくなる」という話が重要な事実として認識されるのだろう。


 しかし闇魔法の危険性は非魔法民にももっと周知するべきな気がする。

 使っただけで処刑されてしまうような重大な事柄なのだから。


 ……ああ、そうか。

 魔法使いは普通の魔法が使えなくなるという大きなマイナス作用があるけれど、もとから魔法の使えない非魔法民にはそれが無い。

 それゆえ非魔法民は闇魔法の話を知ると闇魔法に手を出してしまうから、あえて話さないようにしているのかもしれない。


 果たして過去のあたしは、あれが闇魔法だと知っていたら、手を出さずにいられただろうか。

 それとも。

 闇魔法と分かっていても、魔法を使おうとしただろうか。

 今となっては、もう分からない。




 魔法認定委員会の認定員たちは、エスターから土産を受け取り、屋敷をあとにした。


「……次は、もっと腕を磨いてくださいね」


 帰り際、キリアンがあたしの横を通り過ぎるときに、耳元でそう囁いた。




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