●38
オーヴァルニ伯爵邸の強制捜査から数日が経った頃、キリアンがあたしの屋敷を訪ねてきた。
聞くところによると、レティシアはいまだ黙秘を貫いているようだ。
レティシアのような未成年の令嬢が闇魔法グッズを持っていたということで、販売ルートに関しての話も引き出したいのに、ちっとも情報が落ちないらしい。
しかし闇魔法グッズの販売ルートについては過去にも判明していないため、あたしに協力できることは何も無い。
「オーヴァルニ伯爵令嬢は、どうして闇魔法に手を染めてしまったんでしょうね。彼女から何か聞いていませんか?」
藁にも縋る思いなのか、キリアンはあたしにそんなことを質問してきた。
レティシアが闇魔法に手を染めた理由、か。
あのときレティシアがあたしに話していたのは。
「不公平だから」
「不公平?」
あたしの言葉を聞いたキリアンの眉間にしわが寄った。
元から非魔法民の人間が言うならまだしも、魔力のあったレティシアがこの表現を使うことに違和感を覚えたのだろう。
そのためあたしは、あのときのレティシアの主張を要約してキリアンに伝えた。
「努力して魔法を使う自分と、努力せずに過ごす非魔法民が、同じような扱いなのは不公平。だから自分も闇魔法という努力のいらない魔法を使う……のようなことを、レティシアは言ってました」
あたしの言葉を聞いたキリアンが怪訝そうな顔をした。
「魔法使いと非魔法民は同じ扱いではないでしょう」
そう、魔法使いと非魔法民の扱いは同じではない。
非魔法民の扱いは、あたしも町で見た。
魔法使いなら、あんな扱いはされない。
しかし、あんな扱いをされていない非魔法民がいる。
まだ非魔法民と判定される年齢になっていない非魔法民……つまり、あたしだ。
「レティシアの近くにあたしがいたからだと思います。あたしは魔法が使えないのに、レティシアと同じお茶会やパーティーに出席していましたから。そのせいでレティシアの目には、魔法使いと非魔法民が同じ扱いに見えたのでしょう」
自分と違って努力をしていないあたしが同じ場所にいることが、レティシアを苛立たせた。
努力をしたレティシアと努力をしていないあたしが同じ待遇であることが、レティシアに不満を抱かせた。
そしてこんな不公平はあってはいけないと、レティシアに決意をさせてしまった。
「レティシアは、努力せずに自分と同じ待遇を受けてるあたしが気に食わないから、あたしに闇魔法グッズを持たせて闇の魔法使いとして捕まるように仕向けたのです。レティシアはあたしのことが憎い、死んでしまえばいい、と言ってました」
「どうしてそこまで。俺にだって気に食わない人間はいますが、処刑されるように陥れてやろうなんて考えたこともありません」
「……もしかすると、そこがレティシアの芯なのかもしれません」
あたしは回帰前も回帰後も、レティシアのことをしっかりと理解できなかった。
けれどレティシアがどうしてあたしに敵意を持ったのかを考えることで、彼女のことを理解できるような気がしてきた。
それにレティシアを理解することは、他の誰でもなく、レティシアに憎しみを向けられたあたしの役割のような気もするのだ。
「レティシアは、努力しない人たちを支えるために、その人たちの分も努力をするなんて、我慢が出来なかったそうです。努力しない人……努力の機会さえ与えられなかった人を支えるという考えは、レティシアの中には無かったみたいですね」
レティシアはこれ以外にも、キリアンに関することも言っていたけれど、それをあたしの口から言うことは戸惑われた。
他人の恋心を軽率に吹聴することは、褒められた行為ではない。
レティシアが捕縛されている以上、真実を隠すこともまた褒められた行為ではないけれど、闇魔法に手を染めた理由としては今話したもので十分なはずだ。
キリアンに対する恋心と嫉妬に関しては、レティシアが自分の口から言うべきことだろう。
「割とよくある理由ですね」
あたしの話を聞いたキリアンが平然とそう述べた。
「割とよくある理由なのですか!?」
「バヴィエール伯爵令嬢はまだ知らないでしょうが、魔法の勉強はそれはもう難しいものですから。嫌になる人は多いんですよ」
魔法の勉強が難しいものだということはあたしも知識として知ってはいるけれど……そこまで難しいのか。
難しい……難しかったとしても、魔力があるなら頑張れば魔法が使えるのに。
非魔法民のあたしとは違って。




