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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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●37


「こいつがオーヴァルニ伯爵令嬢か?」


「えっと……たぶん?」


 職員に背負われつつ運び出されたレティシアは、あまりにも顔が腫れていたため、レティシアだと断言できない状態だった。

 あんなに腫れるほど強く殴ったつもりは……いや、全力で殴った気がする。

 あたしがやりすぎたことに対する罪悪感を抱いていると、上司のおじさんがキリアンに指示を出した。


「キリアン、治癒魔法を」


「承知しました」


 キリアンが治癒魔法を掛けると、レティシアの顔の腫れがみるみるうちに綺麗になっていった。

 そしていつものレティシアの顔が戻ってきた。


「あっ。この人がレティシア……オーヴァルニ伯爵令嬢で間違いありません!」


「手を縛って連れていけ!」


 あたしの断言を聞いた上司のおじさんの指示で、職員がレティシアを背中から降ろして、レティシアの両手を縛り始めた。

 治癒魔法で回復したためかレティシアが暴れ始めたけれど、複数人の人間に抑え込まれては抵抗できるわけもなかった。


「お待ちください! これは一体何の騒ぎですの!?」


 そのとき、ドアの前でオーヴァルニ伯爵夫人が叫んだ。

 この騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう。


「あなたがオーヴァルニ伯爵夫人ですか? お宅のお嬢さんに闇の魔法使い疑惑が掛けられてます」


「レティシアに限って闇の魔法使いだなんて、そんなわけはありません! 何かの間違いです!」


 オーヴァルニ伯爵夫人は金切り声で、上司のおじさんに反論をした。

 しかしその反論は証拠を伴っていない。


「何かの間違いだった場合はすぐに釈放されます。その可能性は低いでしょうがね」


「可能性は低いって……証拠でもあるのですか!? レティシアが闇の魔法使いだという証拠が!」


「残念ながらあるんですよ。確固たる証拠がね」


「そんなもの捏造に決まっています! レティシアは優秀な魔法使いです。闇魔法なんかに手を出すわけがありません!」


 なおもオーヴァルニ伯爵夫人は意見を変えない。

 ドアの前で両手を広げて、レティシアを連れて行かれないように妨害している。


「ああ、そうだ。お嬢さんに魔法を使ってもらえばすぐに闇の魔法使いかどうか判明します。闇の魔法使いになっていなければ、お嬢さんは普通の魔法が使えるはずですからね。今ここで使ってみてもらいましょう」


「レティシア、魔法を使って! 何の魔法でもいいわ。物を動かす魔法でも、風を起こす魔法でも!」


 上司のおじさんの言葉を聞いたオーヴァルニ伯爵夫人が、レティシアに命令をした。

 しかしレティシアは魔法を使わない。

 レティシアには、もう普通の魔法は使えないから。


「レティシア!? どうして魔法を使わないの!? 早く無罪を証明してちょうだい!」


「……行きましょう」


 レティシアが静かで落ち着いた声で、そう言った。

 レティシアの言葉を聞いたオーヴァルニ伯爵夫人は、がくりと膝をつき、絶望に満ちた顔で泣き始めた。

 闇の魔法使いとして捕縛されるということは、それすなわち処刑が確定しているからだ。


「ああ……レティシア……」


「ごめんなさい、お母様。お父様にもよろしく伝えておいて」


「そんな……どうしてこんなことに……」


 泣き崩れたオーヴァルニ伯爵夫人を残して、あたしたちは馬車へと向かった。


 レティシアを捕縛することは、レティシアの周りの人たちを悲しませることでもあるのだということに、泣き崩れたオーヴァルニ伯爵夫人を見てあたしはやっと気付いた。


「あたしのせいで……」


 暗い気持ちになるあたしの肩を、キリアンが軽く叩いた。


「オーヴァルニ伯爵令嬢は、闇魔法を使っていたんです。遅かれ早かれ捕まっていたでしょう。それに捕まるのが遅かった場合、オーヴァルニ伯爵令嬢の闇魔法によってたくさんの人が苦しんだかもしれません。だからあなたが気に病む必要は無いんですよ」


「……ありがとう、ございます」


 馬車の走る音を聞きながら、あたしはレティシアとの思い出を振り返った。

 酷いこともされたけれど、一緒に遊んだ日々もまた、本物の思い出だ。


 さようなら、レティシア。今までありがとう。




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