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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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●34


 馬車の前までやって来たあたしは、急いで馬車の窓を叩いた。

 するとすぐにキリアンが馬車の扉を開けてくれた。


「ご無事ですか?」


「ええ、万事上手くいきました。ネズミ君も一緒です」


「では屋敷から持ち出したもののチェックを……」


「その前に馬車を出してください。一刻も早くここから離れたいので」


 あたしの言葉を聞いたキリアンが御者に指示を出し、すぐに馬車は出発した。

 馬車が動き出したことで、あたしはやっと一息吐くことが出来た。


「何があったんですか? 万事上手くいったんじゃないんですか?」


「上手くはいきましたけれど、予想外のことも起こって……レティシアの部屋には地下室があったのです」


「地下室ですか!?」


 キリアンもまさか貴族令嬢の部屋に地下室があるとは思っていなかったようで、目を見開いた。


「地下室には人間も入れる檻があって、あたしはそこに閉じ込められました」


「大丈夫だったんですか、それ!?」


「けれどネズミ君の協力のもと、レティシアをぶん殴って逆にレティシアを檻の中に閉じ込めて脱出してきました」


「大丈夫だったんですか、それ……」


「話すと長くなるのですけれど……まずはレティシアの屋敷から持ち出した闇魔法グッズを見てください」


 あたしはバッグを漁って、闇魔法の本と赤い石の嵌められたネックレスを取り出した。

 それらをキリアンに渡す。

 あたしから本とネックレスを受け取ったキリアンは、両方を入念に調べ始めた。


「これは紛れもなく闇魔法の本ですね。こちらの赤い石には闇魔法が込められています」


 少しして、キリアンがそう告げた。

 過去を経験したあたしは知っていたことだけれど、キリアンはレティシアの屋敷から本当に闇魔法グッズが出てきたことに少し驚いているようでもあった。


「バヴィエール伯爵令嬢のことを疑っていたわけではありませんが、魔法認定委員会が目を付けてもいなかったオーヴァルニ伯爵令嬢の屋敷から闇魔法の証拠を持ち出すなんて。バヴィエール伯爵令嬢は、どうやってこの事実を知り得たのですか?」


「それは……秘密です」


 あたしは自身の口元に人差し指を当てた。

 回帰したことをキリアンにも、他の誰にも言うつもりはない。

 こんな荒唐無稽な話は信じてもらえないだろうし、信じてもらえたとしてもあたし自身がどうして回帰したのか分からないのだから、説明のしようがない。


 …………。

 …………。

 …………ちょっと待って。


 レティシアは「闇魔法の中には一般には知られていない魔法がある」のようなことを言っていた。

 過去のあたしは闇魔法の本に載っていたどの魔法を使おうとしていたのだっけ。

 確か……。


「若返りの魔法」


 そうだ、過去のあたしは若返りの魔法を使おうとしていたのだ。

 あたし自身まだ十七歳だったけれど、お茶会にいた自分よりも若い令嬢の肌に透明感があったことが羨ましくて、あたしももっと綺麗になりたくて。

 けれど魔法は発動しなかった。あたしが魔法陣を描き間違えたから。


 でも……本当は発動していたとしたら?

 魔法陣を間違えたことで若返りの魔法とは別の魔法、たとえば「死ぬことで時を遡る魔法」のようなものがあたしの身体に掛かっていたとしたら?


「若返りの魔法は、確かに闇魔法の中にあります」


 無意識に呟いていたあたしの独り言に、キリアンが反応した。


「もしかして闇魔法の中には『死ぬことで時を遡る魔法』もありますか?」


 ドキドキしながら尋ねると、キリアンは首を横に振った。


「そのような魔法は確認されていません。俺自身も存在しないと思っています。もしそんなことが出来たら、不老不死になってしまいますからね。人間は、不老不死にならないように設計されているんですよ」


 そうは言われても、現にあたしは死んでから時を遡って生き返ったのよね。

 あのとき、どんな魔法陣を描いたのだっけ。


 …………あれ。


 どこをどう間違えたのか思い出せない。

 忘れたと言うよりも、描いた魔法陣の記憶だけがすっぽりと抜けているような……。


「……人間は、不老不死にならないように設計されている」


 それならあたしの黄泉がえりは、一度きりの奇跡だったのかもしれない。


「オーヴァルニ伯爵令嬢が闇魔法を使っていることを知っていたり、闇魔法の中に若返りの魔法があることを知っていたり……もしかしてバヴィエール伯爵令嬢は、闇魔法を扱う業者と知り合いだったりしませんか?」


「そんなわけないじゃないですか! もしそうなら、まずキリアンさんにその業者の話を伝えますよ!」


 変な疑惑を掛けられそうになったため、慌てて否定をした。

 するとキリアンがくすくすと笑い始めた。


「冗談ですよ。もしそうなら、闇魔法を掛けられたときにあなたは、俺ではなくその業者の方に連絡をしていたでしょうからね」


「変な冗談はやめてくださいよ。肝が冷えたじゃないですか」


 回帰前のように冤罪で投獄されたらどうしようと焦ってしまった。

 心臓に悪いから、そういう冗談はやめてほしい。


「それより、この馬車、魔法認定委員会に向かってるのですよね?」


「そうです。この証拠を提出して、オーヴァルニ伯爵邸を捜査する許可をもらわなくてはいけませんから」


「あの。その許可って、下りるまでにどのくらい時間が掛かります?」


「それなりにかかるとは思いますが。何か気になることでも?」


「実は……」


 あたしはいつの間にかキリアンの膝の上に移動していたネズミ君に目をやった。

 ネズミ君は、もう仕事は終わったとばかりに膝の上でくつろいでいる。


「レティシアの部屋にある地下室の入り口の上に、本棚を置いてまして。あの地下室が屋敷の住人にどのくらい知られてるものなのかは分かりませんけれど、すぐには見つからないかなって。それに、これ」


 あたしはポケットに入れていたカギを取り出した。


「檻のカギをあたしが持ってるので、地下室を見つけたとしてもレティシアを外に出せないなあと思いまして」


 キリアンはカギとあたしを見比べてから、プッと吹き出した。


「まさかオーヴァルニ伯爵令嬢が証拠隠滅できないように閉じ込めてくれたんですか?」


「いえ、そういうわけではなく……あたしのことを追って来れないようにしただけのつもりでした」


 けれど言われてみれば、檻の中に入っている間、レティシアは金庫に入れた闇魔法グッズを処分できない。

 屋敷内に仲間がいるなら処分してくれるかもしれないけれど……いるのだろうか。

 レティシアは侍女には地下室の場所すら知られたくない様子だった。

 だから協力を頼むとしたら父親のオーヴァルニ伯爵だろうけれど、彼は今どこにいるのだろう。どこかで仕事中なら、すぐには屋敷へ戻ることが出来ないはずだ。


「あなたにそのつもりが無かったとしても、好都合ですね。オーヴァルニ伯爵令嬢が檻の中で大人しくしている間に、屋敷内を捜索しましょう。魔法認定委員会に最速で許可を出してもらえるよう掛け合ってみます」


 良かった。割と早めに家宅捜索をしてもらえそうだ。

 実はあたしはレティシアのトイレ問題を心配していたのだ。

 貴族令嬢が檻の中で粗相をするなんて耐えられるはずもない。そんなの貴族令嬢としての尊厳が……待って。

 それってレティシアへの仕返しになるのでは!?


 よし、魔法認定委員会での事情説明は、なるべく詳細に述べよう。

 事情説明が長くなればなるほど、レティシアの尊厳が破壊される可能性が高くなるのだから。

 あたしは一度レティシアのせいで殺されているのだから、このくらいの仕返しは許されるはずだ。

 あたしは馬車の中で一人、悪い顔で笑った。




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