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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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●33


「さてと。地下室への入り口の上に本棚を動かして……こんな感じかしら」


 レティシア自身が動かしやすいようにするためか、本棚は思っていたよりもずっと軽かった。

 よく見ると本棚の中にはそれほど本は入っておらず、本の代わりにぬいぐるみが置かれている箇所が多かった。そのおかげで本棚が軽かったのだろう。


「あたしのバッグは……あった!」


 二重底の中に入れておいたおかげか、レティシアは記録魔法箱の存在には気が付かなかったらしい。記録魔法箱は取り出されることなくバッグの底に入れられたままだ。

 あたしは自身のバッグを拾うと、バッグの中に闇魔法の本と赤い石のネックレスを入れた。

 そして一緒に地下室から出てきたネズミ君に声をかける。


「あとは屋敷から逃げるだけよ。ネズミ君はバッグの中に隠れてて」


『チューッ!』


 あたしはバッグを握りしめながら、屋敷の中を悠然と歩いた。

 ここで下手に走りでもしたら、逆に怪しまれてしまうからだ。


「マリッサお嬢様、もうお帰りですか?」


 廊下を歩いていると、一人の侍女に呼び止められた。

 彼女は先程、紅茶を運んできた侍女だ。

 今日以外でも何度も見たことがあるから、レティシアの専属侍女なのだろう。


「ええ。近くに馬車を停めてあるから見送りはいらないわ」


「レティシアお嬢様はご一緒ではないのですか?」


「レティシアはあたしの貸した本に夢中だったから、あたしが見送りはいらないと言ったの。お友だちが夢中になって本を読んでるところを邪魔するほど、あたしは無粋じゃないのよ」


 レティシアが読書をしている話どころか、あたしがレティシアに本を貸したなんて話も嘘だけれど。

 けれどレティシアが夢中で読書をしていると言っておけば、侍女もしばらくはレティシアの部屋をノックはしないだろう。

 いつかはレティシアが部屋の中にいない事実に気付くだろうけれど、それまでに屋敷から逃げてしまえばこっちのものだ。


「ということで、あたしは帰るわ」


「お待ちください、マリッサお嬢様」


 侍女に帰宅を止められてドキリとする。

 しかしここで動揺を悟らせてはいけない。

 ポーカーフェイスよ、マリッサ。何でもないことのように振舞うのよ!


「なあに、どうかしたの?」


「畏れながら、背中の紐が解けてしまっています。私が結んでも構いませんか?」


 なんだ、そんなことか。

 あたしはこっそり安堵の息を吐きながら、微笑んでみせる。


「あら、気付かなかったわ。お願いしてもいい?」


「では失礼いたします」


 あたしが頼むと、侍女はさっとあたしの背中側に回り、ドレスの紐を結んだ。

 そして作業を終えると恭しくお辞儀をして、あたしの前から去っていった。


「……ふう。何事かと思ったわ。ドレスの件だけで話が終わって良かった」


 小声で呟くと、バッグの中でネズミ君が何度も頷いていた。


「あの侍女、あたしの背中の紐には気付いたのにネズミ君には気付かなかったのね」


 あたしがネズミ君にそう言うと、ネズミ君がくるっと丸まった。

 白い綺麗な毛並みのため、丸まっていると何らかの小物に見えなくもない。


「なるほど。そうやって小物のフリをしてたのね」


 手品のタネを見破ったこともそうだけれど、このネズミ、あまりにも賢い。

 あの小さな頭のどこに、物事の本質を見抜く力や咄嗟の機転を利かせる知能が詰まっているのだろう。

 最初は使い魔にネズミなんて趣味が悪いと思っていたけれど、ネズミ君を使い魔にしたいと思う気持ちが分かってきた。

 ずっと見ていると、小さくて白い見た目も可愛らしく思えてきたし。

 ……キリアン、たまにネズミ君を貸してはくれないかしら。


「って、そんなことを考えてる場合じゃないわね。早く屋敷を脱出しないと」


 脱出と言いつつも、あたしは貴族令嬢らしく優雅に屋敷を歩いた。

 するとまた一人の使用人に声をかけられ、先程侍女にしたのと同じ説明をすると、今度は屋敷の外まで使用人に見送られてしまった。

 とはいえ使用人はあたしを怪しむ様子もなく、すんなりと屋敷から出してくれた。


 よし。今度こそミッションコンプリートだ!




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