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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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31/43

●31


 そのとき、上の方から大きな音が聞こえてきた。

 何かが割れる音だろうか。

 地下室内にまで聞こえてくるということは、地上ではかなり大きな音がしていたことだろう。


「もう。なによ、こんなときに!」


 レティシアが悪態を吐いている間にも、上からはさらなる音が聞こえてくる。

 また何かが割れたようだ。


「まったく。侍女が部屋に来ちゃうじゃない!」


 レティシアが文句を言いながら階段を上っていった。

 ひとまず脅威は去ったようだ。

 何が割れたのかは知らないけれど、侍女に割れたものを片付けさせるだろうから、数分は時間が稼げたと思っていいだろう。


「キャッ!? ネズミ!?」


 地下室の入り口が開き地下室内に明かりが差し込んだところで、階段の上からレティシアの短い悲鳴が聞こえてきた。

 そうか、この騒ぎを起こしてくれたのはネズミ君だったのか。

 そしてネズミ君はレティシアが地下室の入り口を開けたタイミングで、地下室の中に滑り込んできたのだろう。

 彼は思っていたよりもずっと頼りになるみたいだ。


 地下室がまた薄暗くなった。レティシアが地下室の入り口を閉めたからだろう。


『チュッチュッ?』


 地下室内に潜り込んだネズミ君が、あたしの檻の前までやって来た。

 そのためあたしは吊るされたカギを指差しながらネズミ君にお願いをした。


「あそこに吊るされてるカギが、この檻の扉を開けるカギだと思うの。あのカギ、取れる?」


『チュチューッ』


 ネズミ君は器用に机の上に登ると、特大ジャンプをしてカギに飛びついた。

 ものすごいジャンプ力だ。


「すごいわ! そのカギをこっちへ持って来てくれる?」


 ネズミ君はカギを一旦床に落とし、自身も床へと飛び降りた。

 カチャンとカギが床に落ちる音が響いたけれど、地上に聞こえるほどの音ではないだろう。

 床に降りたネズミ君があたしのもとまでカギを運んでくれたため、あたしは自身で檻のカギを開けることが出来た。

 ちなみに檻の鉄格子の隙間はやや空いているので、あたしには無理でも、ネズミ君なら簡単に通れるようだ。


「ありがとう。これで脱出の希望が見えたわ。ピンチのときに助けに来てくれるなんて、カッコ良すぎてネズミ君に惚れちゃいそうだわ」


『チューッ』


「けれど……どうしようかしら。今出ていくのは得策とは言えないわよね」


 今レティシアの部屋の中には、きっとレティシアの他に侍女もいる。

 侍女があたしの味方をしてくれれば助けてもらえるかもしれないけれど、そうではなかった場合、二対一……レティシアの部屋にいる侍女の人数によっては複数人対一だ。

 迂闊に動くわけにはいかない。


「部屋から侍女がいなくなって、レティシアが再び地下室に降りて来たときにレティシアを何とかするのが一番だけれど、そんな上手い方法は……檻の中にあたしが入ってなかったらレティシアも警戒するだろうし……」


 するとあたしの言葉を聞いたネズミ君が、檻の中に入って丸まった。


「どうしたの? どうして自ら檻の中なんかに……って、ええっ!?」


 丸まったネズミ君は、みるみるうちに大きくなっていき、人間の女性の姿になった。


「ネズミ君、変身できたの!?」


『チュッチュー!』


「あっ。人語を喋れるわけではないのね。それに顔もネズミ君のままなのね」


 こちらを向いたネズミ君は、ネズミ君の顔そのままだった。

 つぶらな瞳に長いひげ、大きな前歯があって、とても人間には見えない。

 けれど顔を隠して丸まった状態なら、すぐにはネズミ君だとは気付けないかもしれない。


「もしかして……ネズミ君がダミーになるから、レティシアがネズミ君に気を取られてる間に倒せって言いたいの?」


『チュチュチュ!』


 まるで手品のトリックみたい、と思ったところでハッとした。


「ネズミ君、まさかそれ、あたしの披露した手品を見て思いついたの?」


『チュー!』


 ネズミ君に手品を見せておいて良かった。

 もちろんこんな展開になることを見越していたわけではないけれど……って、ちょっと待って。

 ネズミ君はあたしの手品を見て、ダミーを用意することを思いついた!?

 それって、つまり。


「ネズミ君には手品のタネがバレてたってこと!? キリアンの使い魔だけあって侮れないわね!?」


『チュッチュー』


 ……まあいい。今はそのことは脇に置いておこう。


 ネズミ君の考えた作戦は檻の中のあたしがダミーだと気付かれたら終わりだけれど、これ以上の作戦は思いつかない。

 それなら、やるしかない。


「ネズミ君はさっきみたいに丸まって、レティシアから顔と髪が見えないようにしててね。あたしとは顔面も髪色も違うから。それにレティシアから何を言われても無視をして。無視をしても問題は無いはずよ。レティシアに反抗して口を利かないだけのように見えるからね」


『チュッ!』


「奇襲に成功したらレティシアを檻の中に閉じ込めるつもりだから、レティシアが入ったらネズミ君は檻から出てね。もし奇襲に失敗したら……その場合は隙を見て元の姿に戻って、入って来たときと同じように地下室から出て行ってね。そしてもし可能なら、屋敷を抜け出して助けを呼んでくれると嬉しいわ」


『チュー……』


「心配しないで。失敗するつもりはないから」


 あたしはネズミ君にウインクを飛ばすと、鉄格子の間から自身の服をネズミ君に手渡した。

 いくら何でも全裸で檻の中にいたらレティシアに違和感を抱かれてしまうから。

 ネズミ君が手間取りながらあたしの服を着る一方で、あたしは隠れられる場所を探して地下室内をうろうろし始めた。




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