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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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30/40

●30


 話が終わったと思いきや、レティシアはまだあたしのことを恨みのこもった目でにらみつけている。

 そして深呼吸をしたレティシアが再び口を開いた。


「……ただでさえ気に食わないのに、マリッサはわたくしの欲しいものを横からかすめ取っていった。キリアンさんは、努力をしていないあなたが手に入れて良い人間ではないのに! どうしてわたくしではなくてマリッサなのよ!?」


 急に何の話だと思ったけれど、これは完全なるレティシアの誤解だ。

 最近のあたしはキリアンと一緒にいることが多かったけれど、それは恋とか愛という感情からではない。

 キリアンはただ、あたしの手品に疑問を抱いて、手品のタネを暴いてやろうとあたしに近づいているだけなのだ。


「それは誤解よ。あたしは、キリアンさんを手に入れてなんていないわ。告白もされてなければ、あたしからも愛を囁いてない。あたしたちが一緒にいたのは、キリアンさんが魔法認定委員会の認定員で、あたしが認定試験を受けてる最中だからよ!」


「二人でデートをしておいてよく言うわ。しかもそのことを隠そうとしていたのよ!? マリッサの言葉は何一つ信じられないわ!」


 うぐっと声が詰まる。

 面倒くさいことにならないようにと吐いた嘘が、事態をより面倒くさくしてしまった。


「町祭りの件を隠そうとしたことは、ごめんなさい。でもね、今さら信じてもらえないかもしれないけれど、本当にキリアンさんとは何でもないの」


「もう騙されないわ。マリッサなんて信じない!」


 レティシアが地下室の机の上に置いてあった本を手に取った。

 その本は、あたしが受け取った闇魔法の呪文と魔法陣の描かれた本のように見える。


「その本……あたしに貸してくれた本に似てるわ」


「だってこれはマリッサに渡した本だもの。似ているのではなくてそのものよ。まあ、わたくしは同じような本を何冊も持ってはいるのだけれど。この本は、わたくしの所有しているうちの一冊に過ぎないのよ」


「……こんな地下室があるなら、部屋に置かれた金庫の中じゃなくてここに本を隠しておけばいいのに」


 あたしの発言を聞いたレティシアが、やや不満そうに言葉を紡いだ。


「この地下室はしょせん地下倉庫だったものだから、入り口のカギが存在しないのよ。入り口が本棚で隠されているとはいえ、誰が見つけるか分からない場所に闇魔法の書かれた本は置いておけないわ。この本はマリッサを地下室に運んだ際に持って来たの。部屋の中に置きっぱなしには出来ないからね」


 そう言ってレティシアは、本と一緒に持って来たのだろう赤い石のネックレスもあたしに見せた。

 なるほど、用心深いことで。


「それなら金庫もここに持ってきたら? 部屋の中に金庫を置いておくよりも地下室に置いておいた方が、見つかりにくい分、安全じゃない」


「最初はそうしていたけれど、それだと闇魔法の本を読むたびに地下室へ来る必要があるから大変だったのよね。いちいち入り口を隠している本棚を動かさないといけないし」


 利便性を取った結果、部屋の中に不釣り合いな金庫を置くことになったのか。

 前言撤回。レティシアはあまり用心深くはないかもしれない。


 それにしても……この地下室にはカギが掛かっていないのか。良いことを聞いた。

 とはいえ入り口の上に本棚が置かれているのでは、中から開けることは出来ないだろう。

 本棚を持ち上げられるほどの怪力の持ち主なら可能かもしれないけれど、あたしには到底無理だ。


 それに地下室自体にカギが掛かっていなくても、檻にはカギが掛けられている。

 地下室内を見回してみたところ、カギは檻からずいぶん離れた位置に吊るされているようだ。手を伸ばした程度では届きそうもない。

 長い棒のようなものがあれば届くような気もするけれど、そんな棒が檻の中にあるわけがない。


 あたしがそんなことを考えていると、レティシアが愉しそうに本のページをペラペラとめくった。


「何の魔法を掛けてあげましょうか。記憶を消すとトラウマが残らないことが残念だけれど、ここにいる数日間は地獄の苦しみを味わえるわよ。わたくしはどの魔法陣も描くことが出来るもの」


「やめて、レティシア。まだ戻れるわ」


「戻る? いつに?」


 レティシアが鋭い視線をあたしに向けた。


「わたくしはずっと前から闇魔法の使い手よ。みんなはわたくしが普通の魔法を使っていると思っているみたいだけれど、わたくしが使っていたのはぜんぶ闇魔法。闇魔法も使い方によっては普通の魔法と同じようなことが出来るのよ」


「どうして闇魔法なんか……レティシアはせっかく普通の魔法が使えたのに……」


「魔法の勉強をしていないマリッサには、魔法使用の大変さは分からないでしょうね」


 その通り、あたしには分からない。

 自分から普通の魔法を使う権利を捨てて闇魔法に手を染めたレティシアの気持ちなんか、少しも分からない。

 あたしが喉から手が出るほど欲しかったものを簡単に捨ててしまったレティシアの気持ちなんか、全然分からない。


 けれど、それはレティシアも同じなのだろう。

 最初から持っていたレティシアには、持たざるあたしの気持ちは分からない。

 相互不理解の状況なのだ。


「闇魔法にはあんな大変な勉強も鍛練も必要ないの。生贄や魔法陣は必要だけれど、魔法の勉強をするよりもずっと簡単なのよ。生贄を用意して魔法陣を描くだけだもの。このお手軽さで普通の魔法と同じだけの恩恵が得られるなら、誰だって簡単な方を選ぶとは思わない?」


「……いくらお手軽だとしても、闇魔法を使ってることが露見したら今のままじゃいられないわ。リスクとリターンが見合ってないわよ」


「露見させなければいいのよ。幸いわたくしは貴族令嬢だもの。揉み消す手段はいくらでもあるわ。お父様には迷惑をかけてしまうけれど、お父様はわたくしのことを目の中に入れても痛くないほど可愛がってくれているから、きっと揉み消しに協力してくれるわ。それにこの家から闇の魔法使いが出たとなったら、わたくしだけではなくお父様も困るしね」


 どうしよう。もうあたしには説得でレティシアを思い止まらせることは出来そうにない。

 絶体絶命だ。




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