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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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「行方不明!?」


 明確な単語を聞いて驚いたけれど、地下室の檻の中に入れられたということは、そういうことだ。

 キリアンが動いてくれたら見つけてもらえるかもしれないけれど、どうだろう。

 魔法認定委員会に所属しているとはいえ、キリアンが単独で伯爵家の屋敷内を捜索できるとは思えない。

 魔法認定委員会経由で捜索することになった場合も、手続きがあるだろうから今日の今日で屋敷内を捜索するとはいかないはずだ。

 その間にあたしはレティシアから闇魔法を使った拷問を……。

 そこまで考えたところで、背筋が寒くなった。


「安心して、マリッサ。数日経ったら解放してあげるから。ここにいた数日間の記憶は消させてもらうけれど」


 あたしの震えをどう解釈したのだろう。レティシアがそんなことを言ってきた。


「記憶を消すって、どういうこと!? まさか記憶が消えるほど殴るつもり!?」


「まあ怖い。マリッサったら、野蛮なのね」


「記憶を消すって言いだしたのはレティシアじゃない!」


「わたくし、記憶を消すとは言ったけれど、殴るなんて野蛮なことは言っていないわ。記憶を消す魔法があるのよ。数日分の記憶をごそっと消すことが出来るの。魔法の利きには個人差があるから、わたくしの屋敷へ来る前の記憶も消えちゃうかもしれないけれど、その辺はご愛嬌で」


 記憶を消す魔法?

 あたし自身は魔法を使えないけれど、どんな魔法があるのかはお母様やエスターを見ていたからなんとなく分かる。

 そんな都合の良い魔法は存在しない。

 魔法は基本的に物理的な効果しか発揮せず、精神をおかしくするようなものは無い。


「あたしは魔法を使えないから、何を言っても信じるとでも思ってるの!?」


「あら、記憶を消す魔法は本当にあるわ。一般には知られていない魔法ではあるけれど」


 一般には知られていない魔法と聞いて思い当たるのは、キリアンが使うような高度な魔法か、あるいは。


「……闇魔法」


「さすがにマリッサでも気付いちゃうか。でも気付いたからと言って、何が出来るわけでもないけれど」


 レティシアが檻の外から愉しそうに笑みを零した。

 その笑みにぞわぞわとしたものが身体を駆け巡る。


「闇魔法は使うどころか関わっただけで違法よ!?」


「そのくらい知っているわ。だからマリッサをここへ連れてきたのよ」


 地下室は石造りで、叫んでも外に声が届くとは思えない。

 ここで何をしたとしても、発覚する可能性は極めて低いだろう。


「記憶を消すのはここでの出来事を忘れさせるためだとして、ここでは何をするつもりなの!? あたしも動物たちと同じように魔法の実験に使うつもり!?」


「よく分かっているじゃない。マリッサには闇魔法をたっぷり掛けさせてもらうわ。わたくしにはその権利があるから。頑張って耐えてちょうだいね。早々に狂っちゃったら面白くないもの」


 レティシアには、あたしを痛めつけることに後ろめたさを感じている様子は無い。

 むしろ自分にはあたしを痛めつける正当な理由があるとでも思っているようだ。


「あたしの意地悪をたいしたことじゃないと考えてるなら、レティシアがあたしを嫌いな理由は何!? レティシアはどうしてあたしのことを憎んでるの!?」


「魔法が使えもしないくせに、へらへらしているからよ」


 レティシアの声が急に低くなった。

 これまでの愉しそうな声とは対照的な憎悪を含んだ声に、全身の毛が逆立つ。


「そんな理由で拷問をするつもり!?」


「“そんな理由”ではないわ。少なくともわたくしにとっては。わたくしは、わたくしたちが魔法の勉強で苦労をしている横で、その苦労を背負わずに呑気に過ごしているマリッサが気に食わないのよ!」


 なんだそれ。

 意味が分からない。

 なんだその理由は!


「あたしだって使えるものなら魔法を使いたいわよ! でも使えないものは仕方がないじゃない!」


「ええ、そうね。魔法が使えないのはもともとの体質で、マリッサのせいではないわね。それでも、努力をしていないマリッサが、日々努力をしているわたくしたちと同じように笑っていることが許せないのよ! マリッサも町にいる多くの非魔法民のように、道の端を歩きなさいよ! 堂々とお茶会やパーティーに出席しないでよ!」


「なによ、それ。あまりにも横暴だわ」


 あたしの当然の発言に、レティシアは眉をひそめた。

 そして先程よりも勢いを増した口調で怒鳴る。


「それならマリッサは、『俺は働けない身体だから』と言って働こうとしない人が、頑張って働いている人と同じ扱いを受けていても、我慢できるって言うの!?」


「それは……働けない身体なら、働かないのは仕方がないと思うわ。だって働けないのだもの」


「働くか働かないかの話ではないわ。わたくしが聞いているのは、“努力している人と努力していない人が同じ待遇で我慢できるか”よ!」


 働けない身体の人が努力をしていないと決めつけるのは間違っていると思う……けれど、今のレティシアにそれを言っても効果は無さそうだ。


「割を食うのは、努力をしている方なのよ!? 努力をしても、努力をしていない人と同じ待遇だなんて、あんまりだわ!」


 レティシアがあたしのことをにらみつけながら言った。

 感情が昂っているせいか、レティシアの目には涙が溜まっているように見える。


「けれど、働けない人も魔法が使えない人も、願ってそういった身体で生まれてきたわけじゃないわ」


 あたしだって出来ることなら魔法が使える身体で生まれたかった。

 魔法の勉強は大変なものかもしれないけれど、それでも魔法の使える身体で生まれたかった。

 「魔法の勉強は難しいから嫌だ」って泣きながら、努力がしたかった。

 あたしにはその機会さえ与えられなかったのに、ボロクソに言われるのは腹が立つ。


「働けない人にだって、魔法が使えない人にだって、あたしにだって、生きる権利はある!」


 あたしがそう言い返すと、レティシアは分かっていないと肩をすくめた。


「わたくしは別に生きるなとは言っていないのよ。そういう人が生きていること自体は別にいい。誰にだって生きる権利はあるもの。けれどね、そういう人が努力をしている人と同じ待遇なことが気に食わないの!」


 なるほど。レティシアが主張したいのは、あくまでも待遇の話なのだ。

 自身が努力をしているからこそ、そうではないあたしのような人間が、同じ土俵の上にいることが気に食わないのだ。

 ……あたしだって手品という形で努力をしてはいるのだけれど、手品の話をレティシアにするわけにはいかない。


「マリッサはおかしいと思わないの!? 努力をしてもしなくても同じ待遇なら、努力をするだけ馬鹿を見るじゃない!」


「同じ待遇はさすがにやりすぎの気がするけれど……それでも、支え合って生きていくのが人間社会でしょ!? 努力をする機会さえ与えられなかった人を支えるのは、機会を与えられた人の義務だと思うわ!」


「おんぶに抱っこをされている側のマリッサが言わないで!」


 それを言われると辛い。

 現状のあたしは、レティシアの言うようにおんぶに抱っこをされている側だ。

 そんなあたしが何を言っても、説得力なんか生まれない。


「わたくしは、努力しない人たちを支えるために、その人たちの分も努力をするなんて、絶対に嫌。そんなのは不公平だわ!」


「……そう。それがレティシアの意見なのね。あたしたちは分かり合えそうもないわ」




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