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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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●28


「あ、あれ……? 急に世界が暗くなって……」


 貧血だろうか、と考えたところで、レティシアの冷たい声が降ってきた。


「非魔法民が魔法に対する抵抗が弱いというのは、本当のことのようね」


 暗くなりかけの視界の中に、杖と魔法陣の描かれた紙を持ったレティシアが映った。

 紙の中央には黒い跡が付いている。あそこに生贄が置かれていたのかもしれない。


「……あたしは、非魔法民じゃ……」


「そうね。かろうじて非魔法民と判断される期限は来ていないものね。でも魔法の利きに関しては非魔法民と同じ」


「この貧血は、魔法……?」


「そうよ。正しくは貧血ではないけれどね。おやすみ、お馬鹿なマリッサ」


 ここであたしの視界は完全に真っ暗になり、何の音も聞こえなくなった。




 頬に当たる硬く冷たい床の感触で目を覚ました。

 ゆっくりと身体を起こす。

 どこも怪我はしていないようだ。

 けれど……あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。あたしは今どこにいるのだろう。

 思い出そうとすると、頭がズキリと痛んだ。外傷は無いようだけれど、何らかのダメージは負っているらしい。


「痛っ……ここは……?」


「わたくしの部屋の地下よ」


 誰にともなく放った言葉に返事があった。

 声の主はレティシアだ。


「どうし、て……」


 レティシアに駆け寄ろうとして気付いた。

 あたしは今、檻の中にいる。


「なにこれ!? どうしてこんなものがレティシアの部屋の地下に!?」


 貴族令嬢の部屋の地下に人間が入るサイズの檻があるなんて話は聞いたことがない。


「ここはね、もともとは地下倉庫だったのよ。部屋に入りきらなくなった物をしまうための倉庫。それだけのもの」


「これのどこが倉庫なの!? 普通、倉庫に檻なんて無いでしょう!?」


「地下倉庫“だった”と言ったでしょう? 今は個人的な用途で使用しているの。檻の中に人間を入れたのは初めてだけれどね」


 こんな場所は知らない。

 過去のあたしは、こんな場所へ来たことなんてなかった。

 レティシアの家へ行って、闇魔法グッズを受け取って、帰宅して魔法陣を描いていたところを捕縛されたのだ。


「昔は地下倉庫だったとして、今は何に使用してる場所なの!? 屋敷内に人間用の檻があるなんておかしいわ!」


「檻に人間を入れたのは初めてだと言ったばかりじゃない。相変わらずマリッサはお馬鹿さんね。これまでは動物や魔獣をこの檻の中に入れていたの。そして彼らに魔法を掛ける練習をしていたのよ。だからここは、実験室、かしら」


「どうしてそんなこと……」


「ぶっつけ本番で失敗したら嫌でしょう? だからきちんと魔法の練習をしておかないと」


 こんな場所でしている魔法の練習なんて、ろくなものではないだろう。

 きっとレティシアが練習していたのは、闇魔法だ。


「それなのに、失敗しちゃったのよね。きちんと練習していたのに、おかしいわ」


 レティシアはたぶんあたしに掛けた闇魔法のことを言っているのだろう。

 今のあたしが元気だから、自分の闇魔法が失敗したと思っているのだ。


「……レティシアの魔法は成功してたわ。早めに対抗魔法で対処してもらっただけで」


 あたしの言葉を聞いたレティシアが、意外そうな顔をした。


「あら。マリッサに掛けた魔法の話をしていると気付いたのね?」


「そのくらい、話の流れから分かるわよ」


 ただ、分からないのは。


「どうしてあたしにあんな魔法を掛けたの!? 酷い後遺症が残るかもしれない魔法を掛けるなんて、あんまりだわ!」


「……今『どうして』って言ったの? はあ。マリッサにはまだ分からないのね」


 檻の外から、レティシアがあたしのことを見下ろした。

 レティシアの目に光は無い。代わりにあるのは底の見えない闇のような暗く濁った色。


「わたくし、マリッサのことが嫌いなの。憎いの。恨めしいの。死んでしまえば良いと思っているのよ」


「そんな……なんでそこまで」


「なんで、ですって? それ、本気で聞いているの?」


「だって……そりゃあ過去のあたしはレティシアに意地悪をしたわよ? でもそれって、殺したいと思うほどのこと?」


 そう言ってから、失言に気付いた。


 回帰前に見たパラレルワールドの世界の一つで、あたしは同級生にいじめられていた。そして長期間いじめられた結果、自殺未遂にまで発展してしまった。

 そうしていじめが露見した際に、いじめっ子たちは口々に言ったのだ。

 「確かに意地悪はしたけど、自殺したいと思うほどのこと?」って。


 今のあたしは、あのいじめっこたちと同じようなことを言ってしまったのかもしれない。

 あたしにとっては小さな意地悪だったとしても、意地悪をされた側であるレティシアにとっては、あたしを殺したいと憎むほどのものだったのかもしれない。

 それなのに、あたしは……。


 あたしが自己嫌悪で落ち込んでいると、レティシアからは思っていたのとは違う反応が返ってきた。


「そうね。マリッサの意地悪は、あまりにも下手で笑っちゃったわ」


「…………え?」


 あたしがぽかんと口を開けていると、レティシアがくすくすと笑い始めた。


「他の令嬢はもっと上手に相手を貶めるわよ? 自分が悪者にならないように立ち回りながら、じわじわと痛めつけていくの。それなのにマリッサと来たら、真正面から意地悪をしちゃって。そんな風だからわたくしに利用されるのよ?」


「利用……?」


「まだ気付いていないの? わたくしはマリッサの意地悪を誇張して吹聴することで、マリッサを悪女に、わたくしを悲劇の令嬢に仕立て上げていたの。楽しかったわ。面白いように誰も彼もがわたくしの味方になっていくのですもの」


 どうやらレティシアは、過去のあたしよりも一枚も二枚もうわてだったようだ。

 レティシアがあたしの意地悪にそれほど心を痛めてはいないことにはホッとしたけれど……真実をあたしに話したことが気になる。

 こんなことを聞かされたら、今度は逆にあたしがレティシアの裏の顔を暴露するかもしれないのに。


「もしかして、わたくしの本性を暴露しようなどと考えているの?」


 レティシアがあたしの思考を見透かしたように言った。


「無駄な足掻きはやめた方が良いわ。わたくしはマリッサと違って味方をたくさん作っているの。彼女たちがわたくしのことを擁護してくれるわ。きっと『マリッサのいつもの意地悪』と思われて終わりよ」


 悔しいけれど、レティシアの言う通りの展開になりそうだ。

 レティシアは裏の顔を持っている、と暴露をしても、誰もあたしの言葉に耳を貸してはくれない気がする。

 ……証拠でもなければ。


 あたしは記録魔法箱を入れたバッグを手繰り寄せようとして、バッグが手元に無いことに気付いた。


「あたしのバッグは?」


「バッグ? ああ、運ぶのが面倒くさかったから部屋に置いたままよ。あとで持ってきてあげるわ。マリッサのバッグがわたくしの部屋にあったら厄介だもの。マリッサは屋敷から帰る途中に行方不明になったことになるのだからね」




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