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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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●27


 レティシアはあたしに闇魔法の話を誰にもさせないようにするために今の会話をしたのだろうか。

 それにしては感情がこもっていたような気もするけれど……とにかくあたしの目的は果たせそうだ。

 金庫の前へ行き金庫を開けるレティシアの後ろ姿に向かって、バッグを構える。

 さりげなくレースのリボンも持ち上げておく。

 これで金庫を開けるレティシアの姿がバッチリ記録されているはずだ。


「金庫の中に、あたしでも魔法を使えるようになる何かが入ってるの?」


 より詳細に記録できるように、あたしは立ち上がってレティシアのそばまで移動をした。

 リボンを持ち上げながらではさすがに怪しいため、リボンが記録魔法箱のレンズにかかった状態で、だけれど。


「ちょっとマリッサ。他人の家の金庫の中を覗くなんて、令嬢として恥ずかしいわよ?」


「あっ、ごめんなさいね。あたしの部屋には金庫なんて無いからつい気になっちゃって」


「自分の部屋に無いものだったら覗いても良いなんてルールはないはずよ」


「ごめんってば。反省してるから許して、ね?」


「大体マリッサはいつも……」


 そのとき、部屋の本棚から一冊の本が落ちた。

 すると音に驚いたレティシアが本棚の方を向いた。

 今だ、とあたしはリボンを持ち上げて金庫の中を映す。

 これで金庫の中の闇魔法グッズが完璧に記録できたはずだ。

 ネズミ君、グッジョブ!

 あたしは本棚から本を落とした犯人であろうネズミ君に、ひそかに拍手を送った。


「おかしいわね。どうして急に本が落ちたのかしら」


「不安定な状態で置かれてたのよ、きっと」


「わたくしに限ってそんな風には置かないと思うのだけれど……」


「まあまあ。別にいいじゃない。落ちたものは置き直せばそれで終わりよ」


「うーん……それもそうね」


 レティシアは不思議そうな顔をしながらも、それ以上は本棚の件を追求しないことにしたらしい。

 あまり本棚をしっかりと観察されると、本棚の中に隠れているだろうネズミ君が見つかる恐れがあるから助かった。


「話が途中になっちゃったわね。マリッサに渡したいものを金庫から出すから待っていて。覗き見はしないでよ?」


「はーい」


 無事に記録を終えたあたしは、レティシアの言葉に従順に頷いた。

 あたしが従順にしていると、すぐにレティシアは金庫から目的のものを取り出した。


「はい、これ。この本を持ってテーブルの前に戻って」


「分かったわ」


 テーブルの前に戻りながら、あたしは渡された本をまじまじと眺めた。

 これは過去にもレティシアから渡された、たくさんの呪文と魔法陣の描かれた本だ。

 描かれているものはすべて闇魔法らしい。持っているだけで違法な代物だ。


 あたしはレティシアが金庫を閉めている間に、記録魔法箱に本をしっかりと映すことにした。

 ペラペラとページをめくって、書かれている呪文と魔法陣の証拠を残す。

 どれが何の魔法かはあたしには分からないけれど、きっと見る人が見れば闇魔法だと分かるはずだ。


「その本にはたくさんの呪文と魔法陣が描かれているの。普通の魔法とは違うものだから、きっとその中にはマリッサが使える魔法もあるはずよ」


 金庫を閉め終わったレティシアが話しかけてきた。

 さっとリボンを下ろして記録魔法箱のレンズを隠す。


「普通とは違う魔法って、どういうこと?」


「ここだけの話だけれど、魔力が無い人間でも使えるような魔法を考えた人がいるのよ。ただこの魔法が公になると、誰でも魔法が使えて非魔法民を識別することが出来なくなるから、お偉いさんがこの魔法の存在を隠したらしいの」


「どうしてレティシアがそんな魔法が書かれた本を持ってるの?」


「古物商から偶然購入したのよ。けれどこれを持っていることがバレたら没収されかねないから金庫に隠していた、というわけなの」


 なかなか上手い言い訳を考えたものだ。

 馬鹿なあたしなら簡単に騙されていただろう。

 回帰する前の、馬鹿なあたしなら。


「そうなのね。レティシアはこの本に書かれてる魔法を使ったことがある?」


「……いいえ。わたくしは普通の魔法が使えるから、眺めていただけよ」


 さすがにここで使ったことがあるとは言わないか。

 レティシアはそこまで迂闊ではないようだ。


「その古物商にあたしも会いたいのだけれど、どこへ行けば会えるかしら」


「全国を旅しているらしいから、会うのは難しいと思うわ。ものすごく運が良かったら会えるかもしれないけれど、たぶんもうこの町にはいないと思うわ」


 レティシアはのらりくらりと明言を避けている。

 しかしそれはある意味では、この本が違法なものだと認識している証とも言える。


「この本に載ってる魔法陣を描けば、本当にあたしでも魔法が使えるようになるの? レティシアのことを疑ってるわけじゃないけれど、信じられないわ。魔法に関してだけは、あたしは自信が無いの」


「魔法陣の他に生贄が必要みたいだけれど、どれも簡単に手に入るものよ。マリッサならきっと平気よ」


「そうかしら。でもやっぱり不安だわ」


「マリッサは心配性ね。それならこれもあげるわ」


 そう言ってレティシアがあたしの手に何かを握らせてきた。

 握らされた手をゆっくりと開くと……あたしの手の上にはネックレスが置かれていた。


 出た! 真っ赤な石の嵌められたネックレス!


 過去のあたしも不安を口にしたことでレティシアから渡された代物だ。

 あたしは自然な流れでネックレスをつまみ上げると、記録魔法箱に映るようにネックレスを目の前で揺らしてみた。


「綺麗ね。宝石ではないみたいだけれど、吸い込まれるような赤い石だわ」


「それは魔法の効果を高めてくれる石なの。オシャレのためのネックレスではないから、宝石は使用していないのよ」


「そうなのね。でも宝石ではないけれど、これも綺麗だと思うわ」


「高価なものでもないから、それはマリッサにあげるわ。友好の証だとでも思ってちょうだい」


「ありがとう、レティシア!」


 よし。これでミッションコンプリートだ!




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