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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第六章 いざ敵陣へ!

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●25


 レティシアの屋敷まで馬車に揺られる。ただそれだけのことなのだけれど、妙な緊張感がある。あたしの正面に、難しい顔をしたキリアンが座っているからだ。


「そんなに心配しなくても、上手いことやってみせますよ」


「闇魔法を使用していることが判明したら、その家は終わりです。相手は死に物狂いで抵抗をする可能性があります」


「あたしが闇魔法の件を暴こうとしてることがバレたらそうでしょうね。だからバレないように証拠を持ち出すつもりです」


「本当ですか? 本当に派手なことはせずに帰ってくるんですね?」


「はい!」


 闇魔法の証拠は闇魔法だと気付いていないフリをしてしれっと持ち出して、レティシアの顔面を殴ってから帰ります!


「その笑顔と異様に元気な返事が疑わしいんですよね」


 あたしの様子にキリアンが何かを感じ取ったらしいけれど、それ以上は何も言わなかった。

 さすがに笑顔を見ただけでは、レティシアを殴ろうとしていることまでは分からないのだろう。


「ところで使い魔とは仲良くなりましたか?」


「ええ。仲良くなったわよねー?」


『チュチュー!』


 あたしが質問をすると、ネズミ君がバッグの中から勢いよく飛び出した。

 彼は今回のキーパーソン……キーマウスだ。

 キリアンは彼をあたしのボディガードにするつもりのようだけれど――今さらだけれど使い魔とはいえネズミにボディガードは無理な気がする――、あたしは彼にボディガードとは別の任務を課している。

 そのことをキリアンに伝えるつもりはないけれど。

 今のところネズミ君も特に言い出す様子はない。


「くれぐれも無理はしないでください。闇魔法グッズを持ち出せないと分かったら、そのまま帰ってきてくださいね。下手に動くと怪しまれる恐れがありますので」


「はーい」


「……本当に分かっているんですか」


「分かってますよ。無理はせずに闇魔法グッズを持ち出せばいいのでしょう?」


「……まあいいです。とにかく揉め事を起こさずに屋敷から出てくれば及第点です。闇魔法グッズを持ち出そうが持ち出すまいが、ね」




 レティシアの屋敷の前に馬車を止めると、あたしだけが降りてキリアンを乗せた馬車は屋敷から離れた位置まで移動をした。

 屋敷の近くに馬車が止まったままでは、屋敷の住人に馬車の中を見られる可能性があるからだ。


「さあ、突撃よ!」


『チューッ!』


 あたしたちは一人と一匹で、屋敷の中へと歩を進めた。



   *   *   *



「久しぶりね、レティシア。誕生日パーティー以来かしら」


「……そうね。マリッサは忙しかったの?」


 レティシアの屋敷に上がると、あたしはすぐにレティシアの部屋へと案内された。

 なお侍女は紅茶とお茶菓子を運ぶと、部屋から出て行ってしまった。

 レティシアがわざと侍女を部屋から遠ざける指示を出したのだろう。

 前にレティシアと遊んだときには、レティシアの近くにはずっと侍女が控えていたから。


「忙しかったのではなくて、ちょっと寝込んでたのよ」


「あら、大丈夫? 完治はしたの?」


 白々しい。

 レティシアがあたしに闇魔法を掛けたくせに。


「ええ。風邪とはまた違うものだったけれど、この通り元気になったわ」


「それは良かったわ」


 レティシアが涼しい顔で紅茶を口に運んだ。

 そんなレティシアに内心では怒りの炎を燃やしていたけれど、あたしはポーカーフェイスで対応した。


「レティシアも元気そうね?」


「ええ。ありがたいことに、わたくしは風邪も引かずにいられましたわ。令嬢としては多少ひ弱なくらいが可愛らしい気もするけれど」


「寝込むと周りに心配をさせちゃうから、元気に越したことはないわ」


「ふふっ、その通りね」


 笑みを見せたレティシアだけれど、目の奥が笑っていない。

 ……あたしがレティシアに敵意を持っているから、そう見えてしまうのだろうか。


「そういえば、この前町でお祭りがあったわよね」


「……そうね」


「寝込んでいたということは、マリッサは町祭りには行かなかったのかしら?」


「いいえ。寝込んだのは町祭りの後からよ。町祭りには行ったわ」


「……そうなのね。町祭りには誰と行ったの?」


 これは、キリアンとは言わない方が良いだろう。

 魔法認定委員会に所属するキリアンと親しくしていることが、レティシアを警戒させる要因になるかもしれないから。

 いえ、親しくしているとは言っても知人に毛が生えた程度だけれど、とにかくキリアンの名前を出すことにメリットは無い。危ない橋は渡らないに限る。

 それにレティシアはキリアンに惚れているから、あたしがキリアンと一緒に町祭りに行ったなんて言うと、気分を害してあたしを屋敷から追い出してしまうかもしれない。

 そうなったら、計画が水の泡だ。


「あー、侍女と行ったわ。シャーリーはドレイユ侯爵と一緒に行くみたいだったし、シャーリー以外の令嬢とは一緒に町祭りへ行くほど仲が良くはないし」


「……へえ?」


 レティシアの目が鋭く光った気がする。

 もしかしてあたしは回答を間違えたのだろうか。

 けれどあたしが一緒に町祭りへ行ってもおかしくない相手はシャーリーか侍女のエスターくらいで、シャーリーに確認を取られたら困るからエスターと行ったことにしたのだけれど。

 ……うーん。別に何もおかしくない答えの気がする。やっぱりあたしに敵意があるからレティシアの目が鋭く見えてしまうだけなのかもしれない。


「マリッサ、紅茶は飲まないの?」


「……今は良いかな。喉が渇いてないのよ」


「せっかくの紅茶だから熱いうちに飲んでほしいのだけれど」


「……それなら、いただくわ」




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