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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第五章 闇魔法の威力

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●24


【side マリッサ】


 身体を動かせるようになったあたしは、すぐにレティシアに手紙を書いた。


 「前に言っていた、あたしでも使えるようになる魔法を教えてほしい」と。


 こちらから動かなければ、今後もレティシアに何をされるか分かったものではない。

 それなら過去のあたしと同じように、レティシアから闇魔法グッズを受け取る流れを作った方が良い。

 ……もちろん、ただ受け取るつもりはないけれど。


「この前の闇魔法が、レティシアが掛けたものっていう確証は無いのだけれどね」


 それでもレティシアが掛けた可能性は高い。

 闇の魔法使いはそう多くはないはずで、あたしの知っている闇の魔法使いはレティシアだけだから。


「でも確証が無いから……それなら直接聞きに行くしかないわよね!」


 もちろんレティシアに闇魔法グッズを受け取りに行く際、過去のあたしとは違い、しっかり準備をしてから向かおうと思っている。

 作戦はこうだ。

 あたしが闇魔法グッズをレティシアの屋敷から持ち出し、あたしの屋敷に着く前に魔法認定委員会に提出する。

 こうすることで、差し出した闇魔法グッズがあたしの屋敷から持って来たものではないことを証明する。

 当然これには協力が必要で、当日レティシアの屋敷へ行く前に、あたしが闇魔法グッズを隠し持っていないことをキリアンに確認してもらう。

 そしてレティシアから闇魔法グッズを受け取ったところで、屋敷の外で待機しているキリアンにまた確認をしてもらう。

 あたしの役割はここまでだ。

 これ以降は正式に魔法認定委員会がレティシアを調査することになる。

 本当はあたし一人でレティシアとの問題を解決したかったのだけれど、それは無理そうだったため、キリアンそして魔法認定委員会にも協力をしてもらうことにした。

 これで準備は万端。

 あたしのやることは簡単…………だけれど、あたしはこれだけで終わらせるつもりはない。


「どうやったのかは知らないけれど、過去にレティシアは投獄されなかったもの。確たる証拠が無いと、揉み消されたり、上手いこと逃げられる可能性があるわ」


 あたしは持っていく予定のバッグに細工を施し終え、大きく伸びをした。


「手品の知識がこんなところで役に立つとはね」


 あたしはコインを増殖させる手品で使った封筒のように、バッグを二重底にした。

 そしてバッグに穴を空け、穴の上に大きなレースのリボンを付けた。


「レティシアの屋敷から闇魔法グッズを持ち出すだけだと、証拠として弱い気がするのよね。それどころか何らかの力が働いて、あたしが罪をなすり付けられる可能性すらあるわ」


 そんなのはごめんだ。

 二度と処刑される道を歩んでなるものか!

 バッグの準備を終えたあたしは、当日のシミュレーションをしてみることにした。

 まずレティシアの屋敷に入り、レティシアの部屋へと案内され、あたしの目の前でレティシアが部屋に不釣り合いな金庫の中から闇魔法グッズを取り出してあたしに渡してくる。

 金庫の中には、あたしのもらった闇魔法グッズ以外にもいろいろなものが入っていた気がする。

 それほど注意深く見ていたわけではないから、何が入っていたのかまでは思い出せないけれど。

 まあそれが何であれ、レティシアの部屋に置かれている金庫からレティシア自身が闇魔法グッズを取り出すところが記録できたら、言い逃れは出来ないはずだ。

 そしてあたしが帰った後にも闇魔法グッズが金庫内に残っているなら、それも証拠になる。

 金庫に残っていた闇魔法グッズの方は、屋敷に調査が入る前に証拠隠滅されてしまうかもしれないけれど。

 それでも記録されたレティシアの行動については消しようがない。


「それにしても、記録魔法なんて便利なものが存在してるなんてね。使わない手はないでしょ」


 あたしは記録魔法の掛けられた、記録魔法箱を眺めた。

 ただの箱のようにしか見えないのに、これに一時間分の出来事が記録しておけるなんて、にわかには信じられない。

 試しに使ってみたから本当に記録が出来ることは分かっているのだけれど、それでも信じがたい。


「これ、高かったのよね。これを買う代わりに、しばらくドレスは我慢するように言われちゃったわ」


 とはいえ処刑されない未来に繋がるなら、ドレスなんて何十着でも何百着でも我慢する。

 そして我慢をするのだから、どうか上手くいってほしい。


「これをここに入れて……うん、いい感じ」


 バッグの二重底部分に記録魔法箱を入れ、箱の正面にあるレンズがバッグに空けた穴の部分にくるように固定する。ちなみに穴はレースのリボンで隠れるようにしてある。

 そのため記録したいものを映すときには、リボンを退かした方が鮮明に映る。

 リボンの下からでもレース越しに映りはするけれど、完璧な証拠とは言えない不明瞭な記録になってしまう。

 だからなるべくリボンを退かした状態でレティシアの行動を記録したいのだけれど……。


「大事なのは、どうやってレティシアの気をバッグから逸らすかよね。レティシアに見られてる間はリボンを退かせないもの。手品的に考えると、何か別の場所でレティシアの視線を引き付けることをするのが良いのだろうけれど」


 ここで、あたしのことを見上げる生き物と目が合った。

 キリアンの飼っているペット……いいや、キリアンの使い魔であるネズミ君だ。

 ネズミと呼ぶと害獣っぽさが強調されるため、「ネズミ君」と君付けをすることによって害獣感を減らす努力をしている。

 気分の問題でしかないけれど。


『チュー』


「キリアンは心配性と言うか何と言うか。レティシアの屋敷に使い魔を同行させてほしいだなんて」


 しかもいきなり連れて行ったのでは信頼関係が生まれないだろうから数日間一緒にいてくれ、だなんて。

 本当にそう思っての行動なのか、何らかの思惑があるのか。


「……もしかしてネズミ君って盗聴魔法が使えたりする? 君を通して魔法認定委員会に情報が行くようになってるとか?」


『チュチュ?』


 ネズミ君は不思議そうに首を傾げた……ように見えた。

 ただ意味もなく動いただけかもしれないけれど。


「どう見ても普通のネズミにしか見えないのよね。その辺のネズミよりは綺麗な見た目だけれど……と言うか、貴族令嬢がネズミを連れてるのはどうなのかしら。貴族令嬢はネズミを嫌がるイメージなのだけれど」


『チュッチュー、チュッチュ』


「うーん。何かを言ってるみたいだけれど、残念ながらあたしには何を言ってるのかサッパリ分からないのよね。でもあなたにはあたしの言葉が分かるということかしら?」


『チュー!』


 さすがに今のは偶然返事をしたように聞こえただけではないだろう。

 きっとネズミ君はあたしの言葉に相槌を打っている。


「ふーん。キリアンの使い魔になったおかげで、人間の言葉が理解できるようになったのかしら。それならあたしが何かを頼んだら、やってくれるのかしら」


『チュチュチュチュ』


 ネズミ君が任せろとばかりに胸を張った。

 …………んっ!?

 もしかしてネズミ君は、レティシアの気を逸らす係として使えるのではないだろうか!?


「試しに聞いてみるけれど。ネズミ君、レティシアの屋敷で騒ぎを起こすことは出来る?」


『チュッ?』


「たとえばわざと花瓶を倒したりとか、本を落としたりとか……あっ、でも見つかったら殺処分されちゃうかしら。君はネズミだものね」


『チュッ、チュチュー!』


 ネズミ君が二本足で立ち上がり、先程よりもさらに胸を張りながら鳴いた。


「もしかして。令嬢や使用人になんて捕まるわけがない、って言いたいの?」


『チュウ!』


「あらあら。心強すぎる味方ね。期待しちゃうわよ?」


 あたしの言葉に、ネズミ君が自身の胸を叩いた。

 言葉は通じなくても、言いたいことは分かる。

 自分に任せろ、という意味だろう。

 うん、本人が良いと言っているのだから頼らせてもらおう。

 あたしには普通のネズミにしか見えないけれど、使い魔だからきっと普通のネズミには出来ない何かが出来るに違いない。

 だってこの自信に満ち溢れた態度はそうとしか思えない。


「よーし。じゃあ明日は一人と一匹で、敵陣に乗り込むわよ!」


『チューーーッ!』


 あたしとネズミ君は決意表明とばかりに、右手を天に向けて突き上げた。

 そしてあたしは元気いっぱいのネズミ君を見て、とあることを思いついた。


「そうだわ。せっかくネズミ君という観客がいるのだもの。景気づけの手品を見せてあげるから、反応をくれないかしら?」


『チュッ?』


 ネズミ君なら人語を喋れないから、失敗したとしてもあたしの手品を言い触らす心配はない。

 こんなに都合の良い相手がいるのだから、手品を披露しなくてはもったいない。


「手品が上手くいったら、きっと明日の作戦も上手くいくわ。願掛けがてらマジックショーよ!」


 …………あっ。

 ネズミ君はキリアンとは会話が出来るのだった。

 それなら手品を失敗するわけにはいかない。


『チュチュッチュチュー?』


 ネズミ君は「マジックショー」という単語に疑問を抱いているように見える。

 首を傾げながらあたしのことを見上げている。


「ええと、マジックショーって言うのは、うーん……そうだ! マジックショーじゃなくて、マリッサショーよ。マリッサの行なうショー、マリッサショーを言い間違えたの!」


 あたしは無理やりそんなことを言って誤魔化すと、ささっと準備をしてから手品を披露してみせた。

 だんだん手品の腕が上がってきたようで、危なげなくマジックショーは幕を下ろすことが出来た。

 よし、きっと明日は上手くいく。




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