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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第五章 闇魔法の威力

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●22


 あのまま眠り、目を覚ましたあたしの身体は、全力疾走をしたのかと思うくらいにだるくて重かった。

 とはいえ頭はスッキリしているし、急激にお腹もすいてきた。

 すぐに料理を配膳してもらうと、見ていたお母様とエスターが驚くほど、ガツガツと料理を胃の中に収めていった。

 丸一日以上きちんと食べていなかったことに加え、先程の一件で身体中のエネルギーを使い切っていたのだろう。

 新しいエネルギーを求める身体が、食事の手を止めてくれない。

 持ってきてもらった病人用の料理をぺろりと平らげると、すぐにおかわりを要求した。

 すると、いきなり脂っこい肉を入れると身体が驚きそうだからと、また病人用の身体に優しい料理が運ばれてきた。

 少し残念な気がしたけれど、あたしはまたその料理をぺろりと平らげた。




 エスターからキリアンがまだ屋敷内にいると聞いたあたしは、キリアンのもとへ向かうことにした。

 エスターにはあたしの部屋にキリアンを呼ぶことを提案されたものの、恩人を呼びつけるのは気が引けたため、あたしの方から出向くことにしたのだ。


「キリアンさん、まだいらしたのですね」


 キリアンは一人で応接室のソファに座り、真剣な顔で黒く変色したガラス玉を見つめていた。


「バヴィエール伯爵令嬢。もう歩いても平気なんですか?」


「平気……だと思ったのですけれど、少し辛いかもしれません。ソファに座っても?」


「もちろんです」


 あたしはキリアンの正面に置かれたソファに座ると、キリアンとガラス玉を見比べた。

 それだけであたしが何を言いたいのかを察したキリアンが説明を始めた。


「ガラス玉に残った痕跡から、掛けられた闇魔法を分析しているんです。まあ痕跡を分析しても、誰の掛けた闇魔法なのかまでは分かりませんが。それでも闇魔法の種類くらいは確認しておきたかったので」


「闇魔法は、種類が分からなくても消せるものなのですか?」


 病気は、どのような種類の病気なのかが分からないと治療が出来ない。

 しかし闇魔法はそうではない?

 あたしが首を傾げていると、キリアンが真面目な顔でこれも説明してくれた。


「はい、種類が分からずとも消すことが出来ます。先程俺はバヴィエール伯爵令嬢に、大雑把に『闇に対抗する魔法』を使いました。あなたに掛けられた闇魔法の細かい区分が何であれ、大きな力で吹き飛ばせば闇魔法を消すことが出来ますからね」


「ずいぶんと力業なのですね」


「魔法とはそういうものです。より大きな魔法が勝つんですよ」


 魔法には繊細で知的なイメージがあったのだけれど、認識を改めないといけないのかもしれない。

 強いものが勝つ。

 シンプルで分かりやすい基準だ。


「それで、あたしに掛けられてたのはどんな闇魔法だったのですか?」


 今のところ疲れている以外の症状は無いように感じるけれど、後遺症が残るタイプの闇魔法だったらすごく困る。

 あたしが心配そうな顔で見つめていたからか、キリアンはふっと身体の力を抜いて微笑んだ。


「あなたに掛けられていたのは、身体の中に負の力を送り込んで、じわじわと身体本来の機能を失わせる闇魔法です。まだ初期段階だったことが幸いでしたね。後遺症が残るような機能低下は無いでしょう」


 説明をされて背筋が寒くなった。

 闇魔法が掛かったままだったら、あたしはどうなっていたのだろう。

 聞きたい気もするけれど、やっぱり無理。怖すぎる。

 それに。


「初期段階って……あまりにも進行が早すぎませんか? 頭痛がすると思った翌日には起き上がれなくなるなんて」


「あのガラス玉が無かったらもっと早かったと思いますよ。身に着けてくれていて良かったです」


「町祭りの日にキリアンさんが不穏なことを言うから気になって。あたしは危ないところだったのですね」


 守護魔法の掛かったガラス玉を受け取っていなかったら、あたしは今頃……。

 思っていたよりもずっと、闇魔法は危険な魔法らしい。

 使用するだけで処刑になるのも分かる気がする。

 こんな魔法が使える人間を野放しにしておくなんて危険すぎる。


「それにすぐに俺のことを呼んだのも良い判断でしたね。俺以外の魔法認定委員会の人間に話をしていたら、手続きやらヒアリングやらで無駄な時間が掛かっていたでしょうから」


「ありがとうございます。キリアンさんには感謝してます。キリアンさんが来てくれなかったら、あたしは今、こんな風にあなたとお喋りが出来なかったかもしれません」


「……素直に礼を述べられると調子が狂いますね」


 キリアンはあたしのことを何だと思って……やめておこう。

 今日だけはキリアンに文句を言う気にはならない。


「それで、闇魔法を掛けた人物に心当たりは?」


 キリアンが手にしていたガラス玉をテーブルの上に置きながら尋ねた。

 これにあたしは首を横に振る。


「心当たりと言われても、あたしは闇魔法を掛けられるほど誰かに恨まれた覚えはありません」


「ですがバヴィエール伯爵令嬢は、前に闇魔法を使っている人物に心当たりがありそうな様子でしたよね?」


 言われてハッとした。

 あたしは闇魔法を使えるだろう人物を一人知っている。

 レティシアだ。

 しかしレティシアは過去、あたしを闇の魔法使いに仕立て上げて陥れようとしただけで、直接あたしに闇魔法を掛けることはしていなかった。

 ……本当に?

 あたしが気付かなかっただけで、実は闇魔法を掛けられていた?

 ……ううん。こんなに症状に現れるのに、気付かないわけがない。

 だからたぶん、過去のレティシアはあたしに闇魔法を掛けてはいなかった。

 それなのに今回、闇魔法を掛けたのは……。

 誕生日パーティーの場で、闇魔法グッズを受け取りに行く日を先延ばしにしたとき、レティシアはあたしがドレスにジュースを掛けたかのように見える嫌がらせをしてきた。

 過去にはそんな出来事は無かったのに。

 同じように、あたしが気に食わない行動をしたせいで、レティシアは闇魔法を使う決意を固めたのかもしれない。


「あたしの何が気に障ったのかは分からないけれど……でも闇魔法を掛けるほど気に障る行為って、何? 身体機能が失われるって相当じゃない……」


「バヴィエール伯爵令嬢。俺にも分かるように話していただけると助かります」


 あたしの独り言にキリアンが言葉を挟んだ。

 しかしまだ他人に話せる段階ではない。

 レティシアがやったというのは、過去のあたしの経験からそう思うだけで、今回のレティシアはまだ尻尾を出してはいないのだ。


「申し訳ありませんけれど、まだ言えません。確証は何も無いのです」


「ですが、心当たりはあるんですよね?」


「ええ。とはいえ、今ここで告発をするつもりはありません。証拠は無いですから」


「それはダメです。魔法認定委員会として、闇魔法を使った可能性のある人物を放置するわけにはいきません」


 それはそうだろう。

 こんな危険な闇魔法を使う人間を放置していたら、次は誰が狙われるか分かったものではない。


「あたしもその人物を放置するつもりはありません。やられっぱなしは腹が立ちますので」


 どうにかしてレティシアに一泡吹かせてやりたい。

 過去も今もあたしを地獄へ送ろうとしたレティシアを、このまま放置していては、あたしはきっと前へは進めない。

 あたしは自身の拳を握った。

 魔法は使えないけれど、あたしは立派な拳を持っている。


「バヴィエール伯爵令嬢。あなたは一体何をするつもりなんですか?」


「仕返し」


 レティシアのお綺麗な顔面に、渾身の一撃をお見舞いしてやる。

 そうでなければ、回帰した意味がない!




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