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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第五章 闇魔法の威力

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20/39

●20


「こっちの手品にも事前準備がいるのよね」


 机の上にレモンと竹串とカードを置く。

 ちなみにレモンと竹串はキッチンにあったものを拝借してきた。


「まずレモンのヘタを丁寧に取って、そこから竹串でレモンに穴を空ける」


 ここで一度レモンを置いて、今度はカードを細く丸める。

 カードを出来る限り細く巻くことがポイントだ。


「そして空けておいたレモンの穴に、細く丸めたカードを突っ込む」


 カードがレモンの中に収まったところで、先程取ったレモンのヘタを再び同じ位置にはめ込む。


「こうやって普通のレモンに見えるように復元して……よし。タネも仕掛けもあるレモンの出来上がり!」


 机に飛び散った果汁と手に付いた果汁、レモンに付いた果汁をタオルで拭き取ると、また鏡の前へと移動する。

 鏡の前には、タネも仕掛けもあるレモン、カード、まな板とナイフ、杖を置いた。

 なおまな板とナイフもキッチンから拝借してきたものだ。


「手品のスタートはさっきと同じように、カードに魔法が掛かってないことを観客自身に確認してもらって……」


 再び自分のもとに戻ってきたカードに向かって杖を振る。


「ではこのカードに瞬間移動の魔法を掛けます。さあ移動しなさい、風のように!」


 呪文に合わせてカードを消したように見せかける。

 実際には、素早くカードを袖の中に隠しているだけだ。


「ここは単純に技術の勝負ね。いかにカードがあたしの手元から消えたように見せるか。練習あるのみだわ」


 この手品での一番の難関はこれだ。

 あたしの技術が観客の動体視力を越えればあたしの勝ち。これを見破られたらあたしの負け。

 けれどここさえクリアできれば怖いものは何もない。

 この先の仕掛けを見破ることは、まず不可能だから。


「さて瞬間移動をしたカードがどこへ行ったのかと言うと……そちらのフルーツバスケットの中です!」


 今は用意していないけれど、当日はテーブルの上にあらかじめフルーツバスケットを置いておこう。

 テーブルの上にフルーツバスケットが置いてあることは不自然ではないし、ただテーブルの上を華やかにするために置いてあると思っていたフルーツバスケットの中のレモンからカードが出てきたら、あたしが持ってきたレモンからカードが出てくるよりも衝撃的なはずだ。


「フルーツバスケットの中に入ってるレモンを食べようとはしないだろうけれど……あっ、紅茶に入れようとする人がいるかしら? 念のためレモンはバスケットの下の方に隠しておいた方が良いわね。で、手品の続きは……」


 あたしはレモンを手に取ると、鏡の前でレモン全体が見えるように手でくるくると回す。


「みなさま、どういうことか不思議に思ってることでしょう。実はあたしは先程のカードを、このレモンの中に移動させたのです」


 そう言ってからまな板の上にレモンを置き、ナイフでレモンを真ん中から切る。


「よくご覧ください。レモンを真っ二つに切ると……」


 レモンを切ると、レモンの中からは先程確認してもらった柄のカードが出てきた。

 もちろんレモンから出てきたのは観客に確認させたカードではなく、同じ柄の別のカードだ。


「あら不思議、こんなところからカードが……いいえ、不思議ではありませんね。あたしはこのカードに瞬間移動の魔法を掛けたのですから」


 あたしはレモンの中から出てきたカードを鏡の前で広げた。


「当然だけれど、レモンを真ん中で切ったらカードまで切れちゃうわね。切れてないカードが出てきた方がカッコイイから、もう少しレモンの上の方を切ろうかしら」


 その辺は改良の余地がある。

 とはいえ手品自体は問題なさそうだ。


「どっちの手品も十分披露できそうね。あとはあたしの技術次第」


 技術の他に話術も必要かもしれない。

 相手は魔法認定委員会だ。

 マジックショーの観客のように、静かに手品を見てくれるとは限らない。


「それにしてもよく考えるわよね、パラレルワールドのあたし。あの世界では手品が進化してたから、あたしが考えた手品ってわけじゃないかもしれないけれど」


 一旦の練習を終え、手品で使用した諸々を片付けていると、なんだか頭が重い気がしてきた。

 手品に夢中で気付かなかった程度だから、大きな病気ではないだろうけれど。


「人のたくさんいるお祭りに行ったから、誰かから風邪をもらっちゃったのかもしれないわね」


 念のため、今日は早めに寝よう。



   *   *   *




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