●19
町祭りの翌日。
鏡の前で自身の姿を確認すると、首元に下げたネックレスのガラス玉が少し濁っているような気がした。
太陽の下で見るガラス玉と、部屋の中で見るガラス玉では、輝きが違うのかもしれない。
それに昨日は祭りの楽しさもあって、よりガラス玉が輝いて見えていた気もする。
もしかするとあの美味しかった串焼きも、今この場で食べたら、そうでもないと感じるのかもしれない。
いわゆる祭りマジックだ。
「……って、そんなことよりも新しい手品の練習をしなくっちゃ」
あたしはさっそく、購入してきた封筒にタネを仕掛けることにした。
と言っても、やることは簡単だ。
一枚の封筒の中に、封筒のフタ部分を切り取った別の封筒を入れて、封筒と封筒の隙間にコインを入れる。
そして封筒同士が剥がれないように封筒の上部をしっかりと糊付けする。
これでコイン入り二重封筒の出来上がりだ。
コイン入り二重封筒が出来上がったところで、鏡の前で手品の練習を始める。
鏡の前にはコイン入り二重封筒の他に、同じ種類のコインと杖を置いた。
この二つにはタネも仕掛けも無いけれど、どちらも手品で使用する道具だ。
「今度見せる手品は観客参加型だから、この前よりも近い位置で披露する必要があるのよね」
鏡の前の自分を観客に見立てつつ、手品を披露してみる。
「ここにある封筒を使用するので、みなさま自身の手でタネも仕掛けも無いことを確認してください……タネも仕掛けも、という言い回しは良くないかしら」
タネと言われても意味が分からないだろうし、仕掛けと言われて何かに勘付かれるのもマズい。
別の言い回しを考えた方が良いだろう。
この前の魔法認定試験ではどんな言い回しをしていたのだっけ。
「みなさま自身の目でこの封筒に魔法が掛けられてないことを確認してください……うん、こっちの方が良いわね」
これなら不自然な言い回しではないし、何らかの方法で魔法が掛けられていないことを確認されても問題ない。
だって魔法なんて掛けられていないから。
「ここで、確認してもらった普通の封筒を一度回収して……次に、このコインにも魔法が掛けられてないことを確認してください」
このとき重要なのは、観客の視線をコインに向けさせること。
観客がコインに注目している間に、先程観客に確認させたタネも仕掛けも無い普通の封筒を、タネも仕掛けもあるコイン入り二重封筒にすり替える。
見られていてもすり替えに気付けないように上手くすり替えるつもりだけれど、見られないに越したことはない。見破られる確率は一パーセントでも下げておきたい。
「コインの確認も終わりましたね? では、封筒の中にコインを入れます」
ここでコイン入り二重封筒の内側を開いて、空の封筒にコインを入れたように見せる。
観客には空の封筒に一枚のコインを入れたように見えているけれど、実際には封筒の二重部分にもう一枚コインが入っている状態だ。
このときコイン同士がぶつかって音が鳴らないように、封筒の手前にコインを置き、スライドさせるようにしてコインを封筒の底へ送り込むことがポイント。
「コインを入れた封筒をしっかりと閉じて、封筒の上からコインに増殖の魔法を掛けます。さあ増えなさい、微生物のように!」
片手で封筒を持ち、もう片方の手で封筒に向けて杖を振る。
あたかも魔法を掛けているかのように。
「ではコインがどうなってるか確認をしてみましょう……あら。封筒が二枚重なってるから意外と固いわね。ハサミで切った方が良いかもしれないわ」
手で二重封筒を破ろうとして、やや苦戦をする。
破れないことはないけれど、一枚の封筒を破るにしては力が入っていることを、不審に思われる可能性がある。
それならハサミで切った方が良い。必ずしも手で破る必要など無いのだから。
「さて、この封筒を逆さにすると……なんとコインが二枚になりました!」
封筒を逆さにすることで、封筒の内側に入っていたコインと、封筒と封筒の隙間に入っていたコインが一斉に転がり落ちた。
手品自体は成功だ。
しかし課題がいくつも見つかった。
「確認させた封筒を、コイン入り二重封筒にすり替えるところが鬼門ね。中に入れるものをコインじゃなくてカードなんかの軽いものにすれば、二重封筒の方を観客に確認させても平気かしら」
平気な気もするけれど、不安もある。
それこそ魔法を使って確認をされたら、封筒が二重になっていることや封筒の隙間に何かを入れていることに気付かれる可能性がある。
なんと言っても、観客は魔法認定委員会の認定員たちだ。
あたしの知らない高度な魔法をいくつも知っているかもしれない。
それ以前に、透かして見たりベタベタ触られてもアウトだ。
やっぱり二重封筒の方を確認させる案はナシだ。
「でも懸念点はあるけれど、改善をしていけば十分に通用する気がするわ」
……キリアン以外には。
だからキリアンを驚かせるような別の手品も用意しておく必要がある。
「ふっふっふ。今の手品は前フリで、本命は次の手品なのよね。こっちは絶対に見破られない自信があるわ!」
あたしは手品に使った封筒とコインを片付けると、鏡の前から机へと移動をした。




