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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第四章 魔法と祭りと使い魔と

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●18


【side マリッサ】


「非魔法民に渡す商品は無いよ! あっちへお行き! 非魔法民の分際でうちの店に近づくんじゃない!」


 キリアンとあたしが歩いていると、どこかから罵声が聞こえてきた。

 声のする方に目をやると、一人の男性が店主にはたきで叩かれるようにしながら追い払われているところだった。


「あれは……」


「非魔法民には商品を売らない店もあるんですよ。店の評判が落ちるからって」


 そういうことをする人がいるという話は聞いたことがあったけれど、実際に自分の目でその現場を見たのは初めてだった。

 ショックで言葉が出ない。


「……そんなことをしたら、そっちの方が店の評判が下がりませんか?」


 やっと絞り出したあたしの言葉に、キリアンは淡々と答えた。


「非魔法民と同じ商品を身に着けたくないという人は割といるんですよ。だからああやって非魔法民に商品を売らないことで、ブランドイメージを保とうとする店があるんです」


 ブランドイメージだなんて、そんなもののために、何も悪いことをしていない人に対してあんな酷い対応をするなんて。

 それに非魔法民と同じ商品を身に着けたくないと思う人が何人もいるなんて。

 悔しいけれど、これがこの世界の現状なのだろう。

 そしてあの男性は、あたしが辿るだろう未来の姿。

 こんな差別は。こんな世界は。


「あまりにも、酷い……」


 心からの落胆が言葉に乗った。


「非魔法民であることを隠して生きようにも、非魔法民は手の甲に焼印を押されますからね。いつまでも隠し通せるものではありません」


「わざわざ焼印を押すなんて、この人を差別してくださいと言ってるみたいじゃないですか!」


「みたいではなく、言っているんですよ」


「そんな……」


「これが、この国の日常です」


 キリアンが無機質な口調で述べた。

 今キリアンがどんな顔をしているのかを見ることが怖くて、あたしは下を向きながら尋ねる。


「もし、あたしも十八歳になるまでに魔法使いとして認定されなかったら……ああいう扱いを受けるのでしょうか」


「そうでしょうね……いえ、バヴィエール伯爵令嬢は魔法階級が最低でも貴族階級が高いので、あなたの家族からの報復を恐れて、あそこまではしないと思いますが……」


「それでも、似たような扱いは受けるということですね」


 魔法が使えない、たったそれだけのことで。


「でしょうね。あれよりも目立たないように、しかし差別をしていることが伝わるように。先程の彼よりも陰湿なことをされると思います」


「派手な差別も陰湿な差別も、どっちも最低ですね。あたしが相手に何か酷いことをしたわけじゃなくても、意地悪をされるのでしょう?」


「はい……悲しいことに。ですが、だからと言って、魔法認定試験で不正は出来ませんので」


 キリアンがぴしゃりと言った。

 こっそりキリアンの顔を確認すると、キリアンは自身の唇を噛んでいるようだった。

 ……ああ、そうか。

 非魔法民だと判定されたらその人が差別的な扱いを受けると分かっていても、魔法認定委員会としては非魔法民を魔法使いと認定することは出来ない。

 非魔法民への差別を知っていながら、認定員は非魔法民である事実を告げなければならないのだ。

 それは、一体どんな気持ちなのだろう。

 少なくともあたしなら絶対にやりたくない仕事だ。


「正々堂々、魔法認定試験に挑んでくださいね」


「分かってます。賄賂を渡してズルなんかせず、魔法認定委員会には真正面からあたしの実力でぶつかって、魔法使いと認定してもらうつもりです」


 真正面からぶつかる。

 ただし、使うのは魔法ではなく手品だけれど。


「良い心意気だと思います」


 あたしの答えを聞いたキリアンが、ふっと頬を弛ませた。



   *   *   *



「そうだ。そのネックレスに魔法を掛けてもいいですか?」


 帰り際、あたしの胸元で揺れるガラス玉のネックレスを眺めながら、キリアンが言った。

 はて。ネックレスに掛ける魔法とはどういうものだろう。


「変な魔法じゃないですよね?」


「変な魔法とは、どういったもののことですか?」


「ええと……あたしがキリアンさんのことを好きになってしまうような魔法とか?」


 あたしがそう告げると、キリアンは可笑しくて仕方がないといった様子でニヤニヤし始めた。


「何が可笑しいのですか!?」


「だって俺があなたに惚れられたいと思っている……と、バヴィエール伯爵令嬢は考えているわけですよね?」


 キリアンにそう言われ、途端に顔が熱くなる。

 あたしの先程の言葉は、そうとらえられてもおかしくない発言だった。

 そしてそれは自意識過剰も甚だしい考えだ。


「そ、そういうわけでは」


「くくっ」


 顔を真っ赤にしつつ否定をするあたしに、キリアンが笑い声で答えた。

 だからもう一度、強めに否定をしておく。


「違いますからね!?」


 するとキリアンは、分かった分かったと手で合図をしながら、勝手に表れる笑いを懸命にこらえているようだった。

 過去のあたしはキリアンの笑みを見たことが無かったため、キリアンはあまり笑わない人だと思っていたけれど、どうやらそういうわけでもないらしい。

 少しして、ようやく自身の笑いを制御したキリアンが、懐から杖を取り出した。


「安心してください。掛けたいのは守護魔法ですから」


「守護魔法?」


「闇魔法などの良くないものを吸収して、身に着けた人物を守ってくれる魔法をこのネックレスに掛けるんです」


「そんな便利な魔法があるのですか!?」


「ありますよ。高度な魔法のため、あまり知られてはいませんがね」


 また出た、高度な魔法。

 確かに身近な人たちが魔法を使うところを何度も見ているけれど、見る魔法は単純なものばかりだった。

 しかしあたしが思っていた以上に、この世界にはいろいろな種類の魔法が存在しているらしい。

 魔法認定試験をクリアしてからそれらを学ぶとなると、かなり大変そうだ。

 魔法使いは魔法使いで苦労をしているのかもしれない。


 ……もしかして。非魔法民がその苦労をしていないこともあって、多くの魔法使いが非魔法民のことを差別しているのだろうか。自分たちだけが大変な魔法の鍛練をさせられた腹いせと言うか……。

 どんな理由であれ差別をすることは正当化できないけれど、魔法の勉強をしていない人を差別したくなるほどに、魔法の使用が大変だということはなんとなく分かった。

 それは分かったのだけれど、分からないのは。


「どうしてそんなすごい魔法を、このネックレスに?」


 私が首を傾げると、キリアンがちらりと横目で周囲を確認した。


「先程嫌な視線を感じた気がしまして……魔法の使えないバヴィエール伯爵令嬢には魔法に対する抵抗力が無さそうなので、念のため」


 魔法使いになると、自身のまとう魔力で外部からの魔法をある程度緩和することが出来ると、前にお母様から聞かされたことがある。

 だから魔法が使えるようになるまでは、周囲の人間が注意をして子どもを守ってあげる必要があるのだ、と。

 要はノブレス・オブリージュのような精神だ。

 ……その精神が非魔法民に対しては発揮されないというのは、悲しいことだけれど。


「お気遣いいただきありがとうござ……あたしは魔法が使えないわけではなく、あなたたちの組織が認めてくれなかっただけですからね!? 使えはしますからね!?」


 キリアンにお礼を言おうとしてハッとした。

 あたしは今「魔法が使えるようになったから魔法認定試験を受けている最中」なのだった。


「くくっ、まあそういうことにしておきましょう」


「ですが、せっかくなので守護魔法は掛けてくださいね。念のために!」


 あたしがそう頼むと、キリアンはまた笑いながらネックレスのガラス玉に杖を近づけ、長文の呪文を口にした。

 こうしてあたしは守護魔法の掛かったネックレスをお土産に屋敷に帰った。

 町祭りでは手品に使えそうなカードと封筒が買えたし……何より楽しかった。

 楽しいだけではないこの国の差別についても自分の目で見て知って、得るものが多かった。

 キリアンの勢いに流されて行くことにした町祭りだけれど、行ってよかった。




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