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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第四章 魔法と祭りと使い魔と

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17/43

●17


【side レティシア】


 憎い憎い憎い憎い憎い!!


「マリッサのやつ、いつの間にキリアンさんと親しくなったのかしら!?」


 わたくしが主役のはずの誕生日パーティーで、わたくしよりもたくさんキリアンさんと喋るなんて。

 そんなこと、許せるわけがない!


「きっとマリッサ嬢は、レティシアお嬢様の見えないところでズルをしたに違いありませんわ」


 隣を歩く侍女が、わたくしの怒りに共感を示した。

 彼女はわたくしに忠実で、お気に入りの侍女だ。

 だから今日の祭りには彼女を同行させることにした。

 本音を言うとキリアンさんと一緒に町祭りへ行きたかったのだけれど、別件の用事が入っているからと断られてしまったのだ。


「それにしても、マリッサは一体何をしたのかしら」


 あの手強いキリアンさんとお喋りをする仲になるなんて、正攻法ではない何かをしたに決まっている。


「相手はマリッサ嬢ですからね。何をしていたとしても、おかしくはありません」


「やっぱりそう思うわよね? この間まではわたくしでも分かるくらい、キリアンさんはマリッサのことを煙たがっていたのに。マリッサは一体何をしたのかしら」


 裏でキリアンさんにお金を渡した?

 けれど魔法認定委員会に勤めているキリアンさんはお金には困っていないはず。

 しかも彼はもともと平民出身で、そこまで金遣いは荒くないはずだ。

 だから彼が金欠だとは考えづらい。

 それなら、マリッサがキリアンさんの弱みを握って脅迫している?

 無くはない話だけれど、キリアンさんの様子を見る限り、脅されている感じは受けなかった。

 キリアンさんは自らマリッサに近づいていたから。

 そう、キリアンさんの方からマリッサに近づいていたのだ。


「わたくしの誕生日パーティーだったのに、キリアンさんがマリッサに話しかけに行くなんて。はあ」


 溜息が出てしまう。

 あのパーティーでキリアンさんとたくさん話せると思っていたのに、キリアンさんとたくさん話したのは、主役のわたくしではなくマリッサだった。


「しかもわたくしのドレスにジュースがかかった件を収めたのも、キリアンさんらしいわね」


「はい。あの場に残った使用人が、そのように申しておりました」


 上手くジュースをかけられたことにしてマリッサの評判を下げて、キリアンさんにマリッサを嫌ってもらおうと思ったのに。

 一応、他の令嬢たちからマリッサの評判を下げることには成功したみたいだけれど。

 これまでもマリッサが少しでもわたくしに意地悪をしたら、話を十倍に膨らませて泣き真似をしながら他の令嬢たちに伝えていた。

 そのおかげでマリッサは他の令嬢たちから悪女だと思われている。

 そしてわたくしは悪女に意地悪をされている悲劇のヒロインになることに成功した。

 これに関して、わたくしは悪いことをしたとは思っていない。

 だってマリッサが恋敵であるわたくしに意地悪をするようになったのは本当のことなのだから。

 ただわたくしはマリッサの幼稚な意地悪を、大袈裟に悲しんで見せただけ。

 悲しみの大きさなんて人それぞれ違うのだから、悪いのはわたくしではなく意地悪をしてきたマリッサ。

 それなのに。


「どうしてキリアンさんはマリッサなんかのことを気にするのよ!」


 いくら考えてもキリアンさんがマリッサを気にかける理由が分からない。

 侍女もわたくしと同じ考えのようで、隣でうんうんと何度も頷いている。


「昔は可愛らしいご令嬢でしたが、キリアンさんのことでレティシアお嬢様と恋敵になってからのマリッサ嬢は目に余りますからね。私はいつも不満に思っておりました。マリッサ嬢と友人関係を続けるレティシアお嬢様は優しすぎます」


「マリッサは単純だから、優しくしておいたら何かに使えると思ったのよ。でもわたくしも我慢が出来なくなってきたわ」


 だから闇の魔法使いに仕立て上げて、処刑台に送ろうと思ったのに。

 それなのに予定が埋まっているとかで、マリッサは全然わたくしと会おうとしない。

 マリッサのくせに、何様なのよ!


「うわさをすればマリッサ嬢です……あっ」


 言ってから、侍女がしまったと自身の口を押さえた。

 別に今さらマリッサを見たくらいで怒り狂ったりなんかしないのに。

 そう思って、侍女の視線の先を追って、固まった。


「マリッサも町祭りに来ていたの……は?」


 祭りを楽しむマリッサの隣には、キリアンさんがいたのだ。


「どうしてマリッサがキリアンさんと一緒にいるの!? わたくしが町祭りに誘ったとき、キリアンさんは用事があると仰っていたのに!」


 しかも二人は仲良さそうに串焼きを食べている。

 祭りを楽しむ周囲のカップルたちと同じように。


「まさかキリアンさんの用事は、マリッサとのデートだったとでも言うの!?」


 憎い憎い憎い憎い憎い!!

 マリッサが憎い!!

 悔しさのあまり涙があふれてきた。

 どうして今キリアンさんの隣にいるのは、わたくしではなくマリッサなの!?

 わたくしがマリッサに負けているところなんてある!?

 マリッサなんて、まだ魔法認定試験をクリア出来てすらいないのに!

 魔法を使えないマリッサがのほほんとお茶を飲んでいる間、わたくしは血の滲むような努力をして魔法の鍛練をしているのよ。

 頑張っているのは、わたくしの方よ!?

 努力は必ず報われるわけではないけれど、日々努力をして生きているわたくしではなく、努力をせずに生きているマリッサが選ばれるなんてことはあってはいけないわ。

 そんなのは不公平だもの。

 日々努力をしているわたくしが報われないのなら、当然努力をしていないマリッサが報われてはいけない。

 魔法の鍛練をせずにのほほんと生きているマリッサは、決してわたくしよりも幸せになってはいけないのよ!


「畏れながら、レティシアお嬢様。私はこう思うのです。マリッサ嬢は卑怯な手を使ってキリアンさんを町祭りに連れ出したのではないか、と。だってそうでしょう。どう考えても、あんな性格の悪い女よりも、レティシアお嬢様の方が魅力的です」


 侍女がハンカチを差し出しながら言った。

 差し出されたハンカチで、悔しさであふれた涙を拭う。


「マリッサ……許さないわ」


 許せない、許してはいけない。

 わたくしの邪魔をするマリッサは、地獄に堕ちるべきなのよ!


「どういたしましょうか。私に出来ることなら何でも致します。私はレティシアお嬢様の味方ですので」


「……平気よ。わたくしが自分でマリッサに罰を与えるから」


「お優しいレティシアお嬢様がですか? 私は心配です。レティシアお嬢様は優しさゆえに非道になり切れないのではないかと」


「ふふっ、心配はいらないわ」


 本当のわたくしは優しくなんてないから。

 邪魔なものは、同情せずに淡々と排除することが出来る性格だから。


「でも協力してくれると言うのなら、そうね。至急集めてほしいものがあるの」


「何なりとお申し付けください」


 マリッサに罰を与えるためには用意するものがある。

 侍女が手伝ってくれると言うなら、生贄に使う材料集めは侍女にやらせよう。

 どうせ材料だけを見ても、侍女にはわたくしが何をするつもりなのかは分からないだろうから。



 覚悟しなさい、マリッサ。

 この前は闇の魔法使いに仕立て上げようとしたけれど、方針を変えるわ。

 処刑台へ送る代わりに、闇魔法でたっぷり苦しめてあげる。

 ううん、たっぷり苦しめた後で処刑台へ送ってあげる。


「くれぐれも幸せを手に出来るなんて思わないことね!」




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