●16
串焼きを食べ終わったあたしは、新たに気になる出店を発見した。
「見てください。アクセサリーを売ってる店もあるみたいです……って、あっ。串焼きを触った手でアクセサリー店に近づいたらダメですよね」
あたしは串焼きの串によって汚れてしまった自身の手を見つめた。
串を握っているだけだから手は汚れないと思っていたけれど、串にも調味料やすすが付いていたらしい。
「バヴィエール伯爵令嬢、こっちで手が洗えますよ」
あたしが困っていると、何かを見つけたキリアンがそれを確認しに行き、すぐに手招きをした。
キリアンのもとへと行ってみると、そこには小さな井戸が設置されていた。
「さすがキリアンさんです!」
「それほどでも」
手を洗ったあたしたちは、あらためてアクセサリーの出店の前へと向かった。
出店には可愛らしいものから綺麗なものまで様々なアクセサリーが並んでいる。
「素敵ですね」
「祭りで売っているものなので、バヴィエール伯爵令嬢の持っているアクセサリーとはまた別種のものですがね」
「これはこれで味があると思います。ほら、この貝殻のブレスレットなんて夏らしくて魅力的ですよ」
あたしは一つのブレスレットを手に取った。
そのブレスレットには貝殻が何個も付けられていて、しゃらしゃらと貝殻同士がぶつかって涼しげな音が鳴る。
「あなたが行くようなパーティーに、このブレスレットは似合わないんじゃないですか?」
「そうですね。身に着けるなら時と場合は選ばないといけませんね」
パーティーではなく町へ買い物に出かけるときに付けるのであれば問題は無いだろう。
しかし、それでもあわせる服は限られてくる。
それならもう少し高級感のあるアクセサリーの方が、身に着ける機会は多いかもしれない。
「あっ! こっちのネックレスも綺麗ですよ。控えめな輝き方が良いですね」
貝殻のブレスレットよりも輝きのあるネックレスを見つけたあたしは、ブレスレットを棚に戻して代わりにネックレスを手に取った。
ネックレスの中央では、透明なガラス玉が太陽の光を浴びて輝いている。
「キラキラはしてないですけれど、太陽の光があれば輝いて見えますよ」
「ガラス玉ですからね。宝石のようには輝きませんよ」
「それでいいと思います。宝石とは違う、ガラス玉にはガラス玉の美しさがありますから。キラキラ輝く何かを持っていなくても、こんなに美しくなることが出来るのだと、勇気をくれるネックレスです」
まるで魔法の才能が無くても、努力次第で輝くことが出来るのだと、あたしに言っているように思える。
そう思った瞬間、このネックレスに愛着が湧いてきた。
「バヴィエール伯爵令嬢はガラス玉が好きなんですか? 魔法認定試験でもガラス玉を動かしていましたよね?」
しまった。
自分から話が手品に向かいそうな商品に飛びついてどうする!?
こうなったらいっそガラス玉が大好きということにして、ガラス玉のうんちくを語りまくって、魔法認定試験の話を忘れさせるべき!?
でもガラス玉のうんちくって何!? 落とすと割れるとか!?
って、それはうんちくではなく誰もが予想できる当たり前の特性だ。
他にガラス玉であたしの知っている情報は……。
あたしがぐるぐると頭を悩ませていると、キリアンがあたしの手からネックレスを奪った。
「あっ!?」
「ちょっといいですか」
「はい!?」
奪ってから「ちょっといいですか」はないだろう。順序が逆だ。
あたしが文句を言おうとすると、キリアンはさっさと店員にネックレスを渡してしまった。
「すみません、これをください」
そうして購入したネックレスを、キリアンがあたしに渡した。
「今日、町祭りに付き合ってもらったお礼です。受け取ってください」
差し出されたネックレスを見つめながら、もらってもいいものかと悩む。
欲しいと思っていたネックレスだけれど、当然自分で購入するつもりでいた。
このようにキリアンからプレゼントをされるなんて、完全に予想外だ。
「ええと、あたしたちはアクセサリーを贈り合うような仲ではないと思いますので……これはいただけません」
悩んだ結果、ガラス玉のネックレスは諦めることにした。
するとキリアンがやや不満げな表情になった。
「串焼きを受け取ってくれましたし、今日は良い感じだと思ったんですが。やっぱり俺にはツンケンするんですね」
「串焼きとアクセサリーは違います。それにツンケンなんてしてません!」
「しているではないですか。これはいつもあなたが身に着けている宝石と違って安物ですので、そう重くとらえないでください。串焼きの延長ですよ」
そう言って素早くあたしの後ろに回り込んだキリアンが、あたしの首にネックレスをかけた。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
不思議なことにネックレスのガラス玉は、先程よりもキラキラと輝いているように見えた。




