●15
「見てください。こっちに様々なメッセージカードを売っている店があるみたいですよ」
少し歩くと、キリアンがあたしの求めていた出店を見つけた。
すぐにあたしもその出店を確認する。
するとその出店では、色とりどりの紙製品が売られているようだった。
「わあ、すごい。手書きのイラストが描かれたカードがたくさん」
プレゼントに添えるような小さなカードから、招待状に使用する少し大きめのカードまで、大小さまざまなカードが並んでいる。
カードだけではなく、部屋に飾るような絵画も売られている。
「駆け出しの画家の店でしょうね。単純な絵画だけを置いても売れないから、実用性のある紙製品にイラストを描いて販売しているんでしょうね」
「なるほど。画家も大変なのですね」
本音を言うなら、画家としては自分の絵画を購入して屋敷に飾ってほしいに違いない。
それは、屋敷に飾ってずっと眺めていたくなるくらいその絵画を気に入ったということだから。
しかし貴族でもないのに絵画を買う人は少ないし、貴族は有名画家の絵画を購入したがる。
それが分かっているから、自分のイラストを添えたカードをメインに販売しているのだろう。
誰かに送るカードなら、描かれているのが有名画家のイラストではなくても購入するだろうから。
「手描きとはいえ、ある程度は同じイラストが描かれているようですね」
手描きのためよく見ると多少の違いはあるけれど、ぱっと見では分からないほどそっくりなイラストが描かれているカードが何枚も置かれている。
同じパーティーの招待状として使用するときに便利だからだろう。
「これ、いいわね」
画家の思惑はさておき、同じようなカードが何枚もあるのは、あたしとしてはとても都合が良い。
同じカードを複数用意して行なう手品は多いからだ。
「ふふっ。カードでも何でも、同じものが複数あるとタネを仕込みやすいのよね」
「ん? 何か言いました?」
「い、いいえ! ただの独り言ですので気にしないでください!」
また口を滑らせてしまったけれど、いきなり「タネ」と言われてもキリアンには何のことか分からないだろう。
この世界には「手品」が無いから「タネ」も無い。
「あら、封筒も売ってるじゃない。しっかりした作りの封筒も欲しかったのよね」
「便箋も売っているみたいですよ」
「便箋はいらないです。あたしが欲しいのは封筒だけですから」
あたしの発言にキリアンが首を傾げた。
「封筒だけ? 手紙を送るならお揃いの便箋も買った方が良いんじゃないですか?」
「び、便箋は、余ってるものがあるので。屋敷に大量に!」
「封筒と便箋の模様のテイストが違ったら変ではないですか?」
「無地の便箋があるのです。屋敷には!」
「バヴィエール伯爵令嬢は意外と倹約家なんですね」
あたしの苦し紛れの言い訳を聞いたキリアンは、感心したような顔で頷いていた。
* * *
「祭りと言えば串焼きですよね!」
カードの出店からしばらく歩き、串焼きの出店を見つけたキリアンが弾んだ声を出した。
確かに出店からは肉の美味しそうな香りが漂ってくる。
香りは美味しそう、なのだけれど……。
「あたし、串焼きは食べたことがありません」
「もしかしてバヴィエール伯爵令嬢は、初めて町祭りに来たんですか?」
「あっ、いいえ。町祭りには来たことがあるのですけれど……」
「祭りには来たことがあるのに串焼きを食べたことがないんですか?」
「ええ。串焼きははしたないと思ってましたから」
肉の刺さった串にかぶりつくなんて、貴族令嬢のすることではない。
そう思って、祭りに来ても串焼きの出店はいつも素通りしていた。
「はしたない……では、バヴィエール伯爵令嬢は串焼きを食べないんですか? こんなに美味しそうなのに?」
出店の前で立ち止まって串焼きを見ていると、ごくりと喉が鳴った。
いつもはすぐに通り過ぎていたから、こんなに串焼きの香りを嗅いで、串焼きを見つめたことはなかったのだ。
それなのに今日は出店の前で立ち止まってしまったものだから、串焼きの魅力があたしを襲う。
「俺は食べますよ。俺は平民出身なので、串焼きをはしたないと思ったことはないですから」
「……はしたないと思ってたのは、過去のあたしですわ。今は串焼きを食べてみたくて仕方がありません」
あたしの言葉を聞いたキリアンは、にっこりと笑顔を見せた。
「いいですね。なんでも挑戦してみた方が、人生は楽しいですからね」
すぐに二本の串焼きを購入したキリアンが、あたしに一本の串を渡してくれた。
素直に礼を言って串を受け取る。
「…………」
かぶりつくことは知っているものの、串焼きにどのようにかぶりつけばいいのかイマイチ分からずキリアンを見つめていると、キリアンがあたしに手本を見せるように、ゆっくりと串焼きを口に入れた。
すぐにキリアンの真似をして、あたしも串焼きを頬張る。
「美味しい……!」
シェフの作るディナーのような繊細な味付けはされていないけれど、これはこれでアリだ。
少し肉が固いことは気になるけれど、たまに食べる程度なら良いだろう。
「俺は出自のせいか、お洒落なディナーよりもこういう屋台飯の方が好きなんですよね。バヴィエール伯爵令嬢に気に入ってもらえたみたいで嬉しいです」
キリアンが本人の言葉通り、嬉しそうにしながら串焼きをまた頬張った。
あたしもキリアンの真似をしてまた串焼きを頬張る。
「こんなに美味しいなら、はしたないなんて言わずにもっと早く食べてみれば良かったです」
「今からでも遅いなんてことはありませんよ。何事もね」
あたしとキリアンは顔を見合わせて、また一緒に串焼きを頬張った。
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