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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第四章 魔法と祭りと使い魔と

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●14


 町は祭りのおかげで、がやがやと賑やかだった

 いつも活気はあるけれど、今日はいつにも増して人が多い。

 通常は出ていない出店も並んでいて、今日一日ですべての店を回り切れるか分からないくらいだ。


「すごい! いろいろな出店がありますね!」


「そうですね……くくっ」


 あたしが感想を口にすると、キリアンが愉快そうに笑みを零した。


「何がおかしいのですか!?」


「だってあんなに嫌がっていたのに、祭りに来た途端にはしゃぎ始めたので、つい」


「は、はしゃいでなんかいません! 周りが騒がしいので大きな声を出さないと聞こえないと思っただけです!」


「では、そういうことにしておきましょう」


 キリアンはまたくすくすと笑うと、歩を進めた。

 あたしもフンと鼻を鳴らしながら町祭りの中へと入っていった。




「カード類は売ってるかしら」


 きょろきょろと出店を見ながら呟く。

 独り言のつもりだったのだけれど、隣を歩くキリアンには聞こえていたらしい。

 あたしの独り言には返事があった。


「カード? 誰かに招待状でも書くんですか?」


「そういうのではなく、数字とマークの描かれてるカードがあったらいいなって」


「ああ、トランプですね」


 キリアンの口から思いもよらない単語が飛び出した。

 まさかこの世界にもトランプがあったなんて! あたしはこれまで見たことも聞いたこともなかったのに!


「この世界にもトランプは存在してるのですか!?」


「この世界にも? この国にも、という意味でしょうか?」


「そ、そうです。少し言い間違えたみたいです」


「不思議な言い間違いをするんですね」


 あたしが正直にパラレルワールドでトランプを見たと言ったら、キリアンはどんな反応をするのだろう。

 ……あたしのことを痛い女として笑っていたかもしれない。

 だから誤魔化して正解だ。


「それで、キリアンさんはどこでトランプを見たのですか? この祭りでも売ってますか!?」


「トランプの存在は知っていますが、町祭りで売られているようなものではないでしょう」


「やっぱり……では、どこへ行ったら買えますか!?」


 前のめりになりつつ質問をするあたしに、キリアンは首を傾げた。


「バヴィエール伯爵令嬢は、そんなにトランプ遊びがしたいんですか? この国ではそこまでポピュラーな遊びではありませんので、チェスの方が対戦相手が簡単に見つかる分、遊びやすいと思いますよ」


「あたしはトランプで遊びたいわけじゃなくて手品……」


「テジナ?」


「こっちの話です! とにかくあたしはトランプを手に入れたいのです!」


 うっかり「手品」という単語を口にしてしまったけれど、この世界に手品の概念は無いため事なきを得た。

 そしてキリアンは不思議そうな顔をしながらも、あたしの質問に答えをくれた。


「すぐには難しいと思いますよ。上手いことトランプを売っている行商人が訪れないと」


 他国からの行商人待ち、か。

 よく売れる品物ならそれを売る行商人が現れる可能性が高いけれど、この国で普及していないトランプを売りにやってくる行商人は、なかなか現れない気がする。


「そうですか。いつ来るかも分からない行商人を待ってる時間は無いので……トランプは諦めます」


「あれ。そんなに簡単に諦めちゃうんですか?」


「いつかは手に入れたいですけれど、近日中に手に入らなそうなので、別のもので妥協するしかありません」


「トランプの代わりになる物がありますかね?」


 トランプで遊びたいのなら、代わりになる物はそうそう見つからないだろう。

 しかしあたしはトランプ遊びがしたいわけではなく、手品にトランプを使用したいのだ。

 トランプがあれば、手品のレパートリーは格段に増える。

 だからいつかは手に入れたいけれど、今すぐ入手しなければいけないわけではない。

 あたしが次に披露しようと考えている手品は、必ずしもトランプを使う必要はないのだ。


「とりあえずは、しっかりした作りのカードが入手できれば十分です」


「ずいぶんと妥協しましたね。ご自分でトランプを作るつもりなんですか?」


「いいえ。今あたしが欲しいのはカードなので、トランプの作成は考えてませんでした。でもどうしてもトランプが手に入らなかったら、自作するのもアリかもしれません」


 そのとき、キリアンの上着の胸ポケットから顔を出しているネズミと目が合ってしまった。

 ネズミの首には青いリボンが巻き付けられているため、その辺をうろついていたネズミというわけではないだろう。

 それにきちんと世話をされているからか、真っ白で毛並みが良く、なんとなく品がある気がする。


「ところで、そのネズミはキリアンさんのペットか何かですか?」


 正直、ネズミをペットにするセンスはよく分からない。

 どうせペットにするなら、もっと可愛くて懐くだろう犬や猫を飼えばいいのに。

 犬や猫がペットなら、同じく犬や猫を飼っている人たちと交流をすることも出来るのに。

 ネズミをペットにしている人なんてそういないから、飼い主友だちが出来なさそうだ。


「くくっ、いつ聞いてくれるのかと思っていましたよ」


 しかしキリアンはあたしの心中など知らず、嬉しそうな顔でポケットから顔を出すネズミを撫でた。


「キリアンさんの顔に『ネズミについて聞いてくれ』と書いてあったので、あえて触れないようにしてました」


「でもついに我慢が出来なくなって聞いてしまった、と」


「ずっとポケットから顔を覗かせてたら気にもなるでしょう!?」


 周囲の人はこのネズミに気付いていないのか、それともネズミのぬいぐるみだとでも思っているのか、何も言ってこない。

 飲食業の人なんかは特にネズミに敏感だから、このまま気付かれないことを祈る。


「この子は俺の使い魔です。魔法で意思疎通が出来るようになったネズミですよ」


『チュー!』


「……他のネズミと変わらない鳴き声に聞こえますけれど」


「この子と会話を交わせるのは、主人である俺だけです。ちなみに今のは『祭りだー!』と言っていますね」


 本当の話なのだろうか。

 ネズミに顔を近づけてみる。


『チュウ?』


「うーん……」


 近くで見ても普通のネズミにしか見えないし、鳴き声も普通のネズミのように聞こえる。

 それに。


「うちの両親はともに魔法が使えますけれど、使い魔?にすれば動物と意思疎通が出来るなんて話は聞いたことがありません」


「あなたが聞いたことのない魔法なんていくらでもありますよ」


「それはそうでしょうけれど、使い魔なんて便利な魔法があるなら、みんな使い魔を連れてると思います。けれどあたしの周りには動物を連れ歩いて動物と会話をしてる人はいません。両親だけじゃなく、どこのお茶会へ行ってもそんな人は見たことがありません」


 キリアンはあたしの言葉を聞きながら、ネズミの首に巻かれたリボンの形を整え始めた。

 ネズミは大人しくキリアンにされるがままになっている。


「使い魔の作成は高度な魔法のため、あまり知られてはいないんです」


「えっ? 高度な魔法なのにキリアンさんは使い魔をネズミにしちゃったのですか? もっと狼とかカッコイイ動物にすればよかったのに」


『ヂューッ!』


 思わずそう口にすると、ネズミがあたしのことをにらんだ……気がする。

 このネズミに悪いことを言ってしまったという罪悪感がそう見せているだけかもしれないけれど。


「知らないんですか? ネズミほど偵察に適した動物は他にいませんよ。いきなり町なかに狼が現れたら、誰だって警戒をするでしょう?」


 そうだった。

 魔法使いの認定と闇魔法取り締まりのどちらがメインかは知らないけれど、とにかくキリアンは闇魔法を取り締まる仕事もしているのだった。

 そのことを考えると、使い魔がネズミというのは、かなり使い勝手が良いのかもしれない。


「確かに偵察には向いてそうですね。ごめんね、変なことを言って」


『チュッチュー!』


 ネズミに顔を近づけて謝ると、あたしの言葉にネズミが元気よく返事をしてくれた。


「今のは何と言ってるのですか?」


「分かればいいんだよ、お嬢ちゃん。と言っていますね」


「予想外過ぎるキャラだわ……」


 もう一度ネズミを見ると、ネズミは偉そうに短い手で腕組みをしていた。




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