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「それで? そんなことを聞くからには、バヴィエール伯爵令嬢は闇魔法を使っている人に心当たりがあるんですか?」
今の話からあたしが告発をしたい人物がいると勘付いたらしいキリアンが質問をした。
しかし今この場でレティシアの名前を出すのは得策ではないだろう。
なにせあたしはこの前の誕生日パーティーでレティシアに煮え湯を飲まされたばかりなのだ。
今レティシアの名前を出しても、逆恨みで嘘を吐いていると思われる可能性がある。
「いいえ、まだ何も確証はありません。今の段階では、その人物が闇魔法を使ってるのではないか、とあたしが勝手に思ってるだけです」
「ふむ。ではあなたは、どうしてその人物が闇魔法を使っていると思ったんですか? 何かきっかけがあるんでしょう?」
「それは……言えません」
言えるわけがない。
過去にその人物、レティシアに闇魔法グッズを渡されていたから、だなんて。
回帰したあたしの行動で状況が変わったため、今ここにいるあたしはレティシアから闇魔法グッズを受け取ってもいなければ、闇魔法の話すら聞かされていないのだ。
「心配をしなくても、今ここで聞いた話を誰かに漏らしたりはしませんよ。俺は口が堅いつもりですから」
レティシアの名前を言おうとしないあたしに、キリアンがゆっくりと語りかけた。
キリアンはあたしが、秘密が漏れる心配をしているために相手の名前を言えないのだと思っているらしい。
「……すみません。今の話は忘れてください」
「そうですか」
本当はあたし自身に危機が迫る前に、早くレティシアを投獄してほしい。
しかし急いては事を仕損じる。
きちんと証拠固めをしてから垂れ込みをした方が良いはずだ。
「では、一緒に町へ行きましょう」
「はい!?」
聞き間違いかと思って顔を上げると、キリアンがニコニコしながらあたしのことを見つめていた。
町へ行く?
今、キリアンはそう言ったわよね?
どういう流れでその言葉を発したのか、ちっとも分からない。
あたしたちは闇魔法の話をしていたはずなのに……なんで町?
頭の上にはてなマークを浮かべるあたしに、キリアンが微笑みながら解説をした。
「だってバヴィエール伯爵令嬢は誰かを疑ってはいるものの、その話を俺にする気は無いんでしょう?」
それはそうだけれど。
でも。
「だからと言って、なぜキリアンさんと町へ行くことに!?」
意味が分からない。
話に脈絡が無さすぎる。
「知らないんですか? 町では今日、祭りをやっているんですよ」
「だから何……えっ、そうなのですか!?」
そういえば前にエスターから町祭りの話を聞いた気がする。
手品にレティシアにキリアンに、考えることとやることが多すぎて、今の今まで忘れていた。
…………手品?
そうだ! 町祭りなら、普段は売っていないような手品のタネが買えるかも!
「今日が町祭りの日だと知らないということは、バヴィエール伯爵令嬢は誰にも誘われていないんですよね? 今から誰かを誘うのは難しいと思うので、俺と一緒に行きましょう」
「いいえ、それなら侍女と一緒に行きます」
「侍女を無理やり誘うくらいなら俺と行きましょう」
今日のキリアンは押しが強い。
いや、いつもこんな感じだっただろうか。
そしていつも通りなら、きっとキリアンは簡単には引き下がってくれない。
「……どうしてあたしに構うのですか。また、興味が湧いたから、ですか?」
本当に何故こんなことになってしまったのだろう。
過去のあたしは構われるどころか、むしろキリアンに避けられていたくらいだったのに。
「興味が湧いた……言い換えるなら、あなたに可能性を感じているから、ですかね」
「可能性?」
何の話だろうと首を傾げる。
するとキリアンは急に真面目な顔になった。
「俺は、非魔法民が虐げられている現状をよくは思っていないんです」
「キリアンさん自身は魔法が得意なおかげで魔法認定委員会で勤務してるのに?」
「確かに俺が出世したのは魔法のおかげです。ですが、だからと言って非魔法民のことを下に見ているわけではないんです。彼らも俺たちと同じ人間です」
魔法認定委員会勤めのキリアンから、こんな言葉が聞けるとは思っていなかった。
魔法認定委員会は魔力の強いエリートたちの集まる職場だから。
「非魔法民は魔法が使えませんが、それは個性の一つでしかないと俺は思います。足が遅い人、目が悪い人、少食な人、それと同じようなものだと思うんです。そんなことで差別をするなんて馬鹿げています」
回帰をする前の過去のあたしは、非魔法民が差別を受けることを何とも思っていなかった。
もちろんあたし自身が非魔法民かもしれないということに焦りは覚えていたけれど、差別の是非については考えたことが無かった。
だってこの世界では、「それが当たり前」だから。
ほんの少しの疑問すら抱いていなかった。
しかしパラレルワールドの中で、非魔法民だからと差別をされている世界は、ここの他には見つからなかった。
魔法の存在しない世界が多かったせいもあるけれど、魔法がある世界でも、魔法使いと非魔法民が各々に出来ることを分担して行ない友好的に生活をしている世界が多かったのだ。
それらの世界を見たからこそ、あたしはこの世界が歪なことが分かった。
それなのに、この世界しか見ていないだろうキリアンも、あたしと同じ結論にたどり着いているらしい。
「魔法のおかげでのし上がったキリアンさんがそんなことを仰るなんて、意外ですね」
「あなたは俺のことをどんな悪人だと思っていたんですか」
「悪人と思ってたわけではなく、非魔法民とは対極にいる人物だと思ってたので……驚きました」
それが率直な感想だ。
まさかキリアンの口から、非魔法民への差別問題が飛び出てくるなんて思ってもみなかった。
「魔法が使える俺たちも、非魔法民も、同じですよ。同じ人間です」
「……キリアンさんのことを見る目が変わりました」
過去のあたしはキリアンの顔ばかりを評価していたけれど、きっと彼の本当の魅力は、彼の人間性の方なのだろう。
「では、話が終わったところで。町祭りへ行きましょう!」
「だから、どうしてそうなるのですか!?」
キリアンは魅力的な人物ではあるけれど、やっぱりなんだか押しが強い気がする。
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