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魔法が使えないと冷遇される世界を、悪女は手品で立ち回る!  作者: 竹間単
◆第四章 魔法と祭りと使い魔と

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12/40

●12


 悪夢の誕生日パーティーから数日が経った頃、またしてもあたしの屋敷にキリアンがやってきた。

 パーティーで助け舟を出してもらった手前、無碍にすることも出来ず、あたしたちは応接室で話をすることとなった。


「先日は助けてくださってありがとうございました。ところでキリアンさんは暇なのですか?」


「会うなり酷い言葉を投げてくるんですね」


 酷いとは言いつつもキリアンは楽しそうに頬を緩ませている。

 一体なぜ彼の中でこんなにもあたしの好感度が上がってしまったのだろう。


「申し訳ございません。お気に障ったようでしたら、どうぞお帰りください」


「そう邪険にせずに。あのあと、オーヴァルニ伯爵令嬢のドレスの件はどうなりました?」


「別のドレスを渡す必要も、染み抜き代を弁償する必要も無いと言われました」


 穿った考え方かもしれないけれど、あたしを悪女に仕立て上げるために、レティシアはあえて金銭を受け取らなかったのではないかと思う。

 それにそうすることで「いじめを受けたのに無償で許す心優しいレティシア」という印象も与えられる。


「へえ、良かったですね。丸く収まったようで」


「……そうですね」


 丸く収まったのではなく、あの騒ぎはレティシアの完全勝利で幕を下ろしたのだ。

 ものすごく悔しい。


「キリアンさんはあの出来事の顛末が聞きたくて屋敷に来たのですか? それなら今聞いたのですから、早く帰ってください」


 そう言ってあたしはキリアンを追い返そうとしてみたけれど、彼にはまったく動く気配が無かった。

 前から思っていたけれど、キリアンは空気を読まないと言うか、多少頑固でマイペースな面がある。

 このくらい邪険に扱われたら、普通なら空気を読むか腹を立てるかして帰ると思うのだけれど。


「事の顛末を聞きたかったのももちろんありますが、本題は別です」


 キリアンは、礼儀として提供していた紅茶を一口飲むと、話を切り出した。


「あれから魔法認定試験の申し込みが無いので、バヴィエール伯爵令嬢がどうするつもりなのかを尋ねようと思いまして」


「ああ、その話ですか……」


 忘れていたわけではない。

 あたしはレティシアの罠をかいくぐりつつ、魔法認定試験も合格しないといけないのだ。

 処刑台に送られることを回避できたとしても、魔法認定試験をパス出来ずに非魔法民の烙印を押されてしまったら、いきなり人生がハードモードになるからだ。

 だから早いところ新作の手品の練習に取り掛からなくてはいけない。

 そのために手品に使用する道具も購入しなくてはならない。

 …………はあ。

 あらためて考えると、魔法の才能が無い人間は家柄が良くても人柄が良くても差別を受けるこの世界は、魔法至上主義過ぎる。

 魔法は元から備わった魔力の有無で使用可否が決まるのだから、努力では巻き返しようがない。

 考えるだけで頭が痛くなってくる。


「近いうちにあらためて魔法認定試験を受けないといけないのでしたね。考えることが多くて後回しにしてしまってました」


「ドレスの件以外にも、バヴィエール伯爵令嬢には考えるべき事柄があるんですか?」


「あなたには関係のないこと……でもないですね」


「おや。意外な答えですね。てっきりまた突き放されると思っていましたから」


 幸か不幸か、せっかく目の前に魔法認定委員会のキリアンがいるのだ。

 答えてくれるかは分からないけれど、ダメもとで質問をするのはアリかもしれない。


「キリアンさんにお伺いしたいのですけれど。魔法認定委員会には闇魔法を取り締まる部署がありますよね?」


「もちろんです。国に闇魔法を蔓延させるわけにはいきませんから」


「闇魔法を取り締まるのは、魔法認定試験を担当してるキリアンさんとは別部署なのですよね?」


 可能なら、闇魔法の取り締まりを担当している部署の人を紹介してほしい。

 闇魔法の部署の人と親しくなっておけば、レティシアの件を報告しやすくなるから。

 そんなことを考えていたあたしの耳に、意外な言葉が飛び込んできた。


「部署は別……ですが、俺もその部署に関わってはいますね」


 んん? キリアンが闇魔法を取り締まる部署に関わっている?

 それは考えてもみなかった。


「部署が違うのに関わってるのですか?」


「俺は優秀なので、いくつもの部署を掛け持ちしているんです」


「へえ。魔法認定委員会は人材不足なのですね」


「言ってくれますね」


 だって魔法が発現したかどうかを見極める仕事と闇魔法を取り締まる仕事は、内容が違い過ぎる。人材不足でもなければこの二つの仕事の掛け持ちなんて考えられない。

 しかしキリアン自身が闇魔法を取り締まる部署でも仕事をしているのなら、これ以上のことはない。

 新たに魔法認定委員会の人と親交を深めなくても、報告をしようと思えばすぐにでもキリアンにレティシアの件を報告できる状況なのだ。

 手品の件があるからキリアンとはあまり関わりたくなかったけれど、闇魔法の密告はあたし自身の手品とは切り離して考えてくれるはずだ。たぶん。


「そういえば闇魔法はどのようにして発覚するのでしょうか。誰かからの垂れ込みですか?」


「はい。闇の魔法使いの身近な人からの垂れ込みが一番多いです。あとはアタリを付けて抜き打ち調査をすることもあります……外部の人間に言えるのはこのくらいですかね」


 なるほど。一般人からの垂れ込みでもきちんと調査をしてくれるらしい。

 ありがたい。


「もし、とある人物が闇魔法を使ってそうだとあたしが言ったら……真剣に調査をしてくれますか?」


「仕事ですのでしっかり調査しますよ。ただし他人を陥れるためにバヴィエール伯爵令嬢が嘘を吐いたことが発覚したら、相応の罰は受けてもらいますがね」


 過去のあたしはレティシアが罰を受けたなんて話は聞いていない。

 レティシアは嘘を吐いたのではなく、あたしを告発しただけということになったからだろう。


「罰を与えると言っても……あなたたちは、どうせ嘘を見破れないのでしょう?」


 あたしが非難を含んだ目でキリアンを見つめると、さすがのキリアンでもムッとしているようだった。


「魔法認定委員会を舐めないでいただきたいです」


 もし魔法認定委員会がレティシアの嘘を見破っていたら、過去のあたしは処刑されることはなかった。

 騙されていたとはいえ、あたしが闇魔法グッズを持っていたこと自体は事実だから何らかの罰は受けただろうけれど、きっと処刑まではされなかった。


「……レティシアの嘘を見破れなかったくせに」


 処刑台への道を歩く過去のあたしの惨めさを思い出して、キリアンに聞こえないように小さな声で呟いた。




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