第7輪 新顔(しんがお)パンジー
家出放浪娘のパンジーは、ようやく初めての就職先が決まったことで、浮かれていた。
一方、彼女を雇うと言ってくれた「光球」なる製品の工場の長ブレビス。
小娘の心情を察してかどうか、自身の抱える巨大な工場の外観についてはざっと見せるだけで、すぐに中へ招き入れる。
「パンジーさん。今、案内できる人を呼んでくるから。ここで待っていなさい」
そう言ってブレビスは、仕事場とおぼしきほの暗い空間へと消えてしまう。
パンジーは背筋を伸ばした姿勢で待つが、やはり落ち着きのなさが口をまごつかせる。
開いた口の、いつも潤んでいるはずの口唇に、わずかながら痺れるようなざらつきを感じる。
「なんだかホコリっぽいわ……」
おまけに呼吸すると、むき出しの岩場の匂いがした。
ブレビスの入っていったほの暗い空間と併せて、パンジーは未知なる洞窟を探検しているような気分を味わった。
しばしの後。
ブレビスが案内人を連れてもどってくる。
案内人はパンジーより年は上、生成りの布の色と言えばよいか、暖かみのある白い髪色をした女性だ。
「はじめましてっ。ヒナって言います」
「パンジーさんが働くことになる、製造部の技術者のヒナさん。職人さんたちのリーダーみたいな人だよ。今年で11年目になる大先輩だからね、困ったことは全部彼女に聞いておくれ」
「はい! パンセロット・コンサバンスですわ。どうぞ、パンジーと呼んでくださいましっ」
自己紹介もほどほどに。
ブレビスはまた別の用件があるからと退出した。
パンジーはヒナの後ろについて岩場の洞窟――ではなく工場の内部へ、ついに、足を踏み入れる。
「あっ、忘れてた! そのドレス、粉まみれになっちゃうから。お着替えするよー」
ヒナが言う。
さっそくパンンジーの出鼻を挫いてきた。
冒険心の手綱を引っ張られたことか、段取りがなっていないことか、「粉まみれ」の意味についてか……。
考えがまとまらないパンジーは、ぽかんと口を開けたまま、受動的にヒナの案内についていくしかなかった。
更衣室だろう部屋。
パンジーは、ヒナから念願の作業着を受け取る。
職人のユニフォームだ。
「自分で着られる?」
「うふふ。もちろんですわ。子どもではなくってよ」
たいした前フリだ。
ボタンで留めるつなぎ状の作業着だが、パンジーの腕はズボン穴に入り、脚は袖に通された。
余った左袖が、首根っこから生えている。
「助けてくださいましーっ!」
漫才をしている小娘を見て、ヒナは傍観者として大いに笑った。
それから着せてもらった。
作業着は、ホコリや「粉」とやらが入らないよう、からだにぴっちり張りつき、綿のがさついた肌触りが直に伝わる。
また襟元は、熱がこもらないよう、鎖骨下まで開いている。
何もしていないくせにパンジーは薄ら汗をにじませる。
「あと、その綺麗なお髪。粉で、ばあさんみたいになるから、まとめとこうね」
ヒナは冗談交じりに、パンジーの背に立ち、腰まで届いた金髪に、指を通す。
「すっごいウェーブ! いいなあ。ねね、都会って、みんな髪を巻いてるんでしょっ? あ、草生えてる」
「どうでしょう……私、都会には縁がなくって。ずっと田舎の家にこもっていましたから」
「へえ。箱入り娘、ってやつ? じゃあこの巻き毛も、使用人さんとかがやってくれたんだ」
「地毛ですわ」
パンジーが会話を終わらせる。
ヒナは「えー!」と驚いたようすだ。
そういうヒナだって、白い髪は絹のようになめらかで、三つ編みにして肩に下げたところを見ると、都会の婦人画にありそうな美しさを呈している。
ただ言動からは、ウェーブした髪に憧れているようだった。
「では……ヒナさんとお揃いにしてくださるかしら?」
「あははっ。いいよ!」
ヒナは喜んでいる。
パンジーは同年代か知れないが、年頃の女性とこれまで話してこなかったこともあり、彼女の愛らしい仕草に心を惹かれる。
そうして髪を三つ編みにセットしてもらい、パンジーとヒナは姉妹のように並んで、工場の内部へ、足を踏み入れる。
今度こそ!




