第20話 ー終幕ー
「ちょーっと、詰めが甘いわね?」
塔を出て直ぐ、テティスが私達を呼び止めた。
塔の入口を出て死角となる位置に3名が縛られ、既に気絶までさせられている。
「テティスか、助かったよ。こう言ってはなんだが私達が取り逃したとなっては面目が立たないからね。」
取り逃がす事にならなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「そう、それは良かったわ……貴方に指示されたことも、状況の鎮圧も殆ど終わったからここに来たのだけれど……丁度良かったわね。」
なんてタイミングのいい。
改めて感謝を伝えるがなんてことは無いと返される。
「よし、これで一件落着か?一旦こいつらはベヌスに引き渡して……」
続きを話そうとして、ふと塔の入口までソーニャが歩いて来たことに気づく。
「馬鹿!まだ動いたら……「あの、卵のような物が、目的です……!私と戦う前、持っているのを、見ました!」」
まだ万全ではなく、ややフラついた状態でソーニャは語る。
卵……?あの黒い塊か!
いや待て、転移札を回収した時に荷物は確認しているが、卵どころか何も持って……
「改めて衣服を探るとしようか。あの時は全員の荷物をしっかり確認できていなかったしね。女性陣はレムリアとテティスが、リンドウとやらは僕とアドラで確認しよう……ソフィア嬢はゆっくりと休む事だね。」
塔へと戻って行ったソーニャを見届け、改めて衣服を確認する。
「あら?何かしらこれ……魔紋?」
アイリスの方を探っている時、ふと首裏に小さな模様が刻まれていることに気づく。
上下左右連なった円に、数字のよう……な。
これ、は……
「ちょっとレムリアちゃん!?大丈夫!?」
「えぇ!?一体何が……」
座り込む私に、段々遠く響くように通り抜ける心配の声。
荒くなる呼吸と心拍を深呼吸で持って抑え、少しの間を置いて心配してくれた皆の方を向く。
「落ち着いたかい?ほら、水はいるかい?」
どうやら座り込んだ後メルクが支えてくれていたらしい。
彼の手から小さな水入りの皮袋を受け取り、口にする。
「凄い汗ですよ、休みますか?」
アドラがそう言って、ハンカチを私に手渡す。
彼がマメなことは知っていたが、ハンカチを携帯しているのは何だか意外だ。
少し可笑しく感じてしまって心身の疲労が軽くなったのを感じる。
「いや……大丈夫さ、問題ない。」
「……無茶はしないでくださいね。」
今ばかりは、お互いの過去を詮索しないという暗黙の了解がとても有難い。
受け取った皮袋をメルクに返し、自身の首の裏をさすった。
皆の視線を感じるが、テティスが遮るように驚いた声を上げた。
「あら、この子の服……魔法袋と同じ機能を持ってるわね。」
そう言ってテティスはダリアの衣服に縫い付けられた外ポケットを指さす。
成程、通りで何も見つからないはずだ。
「これ、誰でも使える魔道具ね、ほら、オークションの手鏡もあるわ……けど……あの黒い塊は無いわよ?」
「あぁ!私の手鏡!レムリア!?管理はしっかりしてくださいよ!」
「言いがかりはやめてくれよ……それより、無い?どこかに隠す様な隙は無かったはずだが……」
まぁ、大して思い入れがある訳でもないが、今回の騒動の目的だったと考えるとあれが何なのか気になるな。
しかし、一体何処に……?
◆◇◆◇◆◇◆
その後、彼女らはベヌス率いる衛兵に引き渡された。
私とソーニャはその後きちんと治療を受け、改めて状況の報告を受けたのだが、第9塔に常駐していた警備員や援護に来た衛兵の殆どが重症、悪くて死傷という、最悪の結末を聞かされる事となる。
追って聞かされた話から、例の塊が覇王の128秘宝であると判明したが、使い方も、ましてや私が起動出来なかった時点でそもそも魔道具ですらないように感じた。
話は変わって、魔物の制圧や避難誘導、鎮火、その後物資の援助などに他塔の皆は動いていたようで、情報交換という建前で後に休ませてもらっていた私含め疲れを癒すようにと全員で飲みに行くことになった。
「そーいや祭り3日目は1日ずらして行われるらしいぜ、勿論お前も来るよな!」
「べヌス、絡み酒がすぎるんじゃあないか?」
べヌスに勧められ、最終日のパレードを見に行くことを決める。たまにはそういうのも悪くないし、ソーニャの労いも含めて露店で欲しいものを買わせてあげようじゃないか。
……なら金の回収をしておくか。
「あぁそうだ、べヌスに嬉しい知らせと悪い知らせがあるが、聞いていくかい?」
「なんだよ?……怖ぇが、先に悪い知らせから頼む。」
「例の映像記憶の魔道具2つ分の代金と仕事代、含めてきっちり200万エールくらい頂こうか。」
「それを今言うのか!?……ん?2つ?」
「そこでいい知らせさ、観客として撮った前半の分と、特別席に向かった時に置いて撮っていた後半の分、私とべヌスが抜け出した際の映像は撮れていないが、ほぼ全ての試合を録画しているよ。勿論、買い取るだろう?」
「レ、レムリア……お前ってやつぁ!」
「その変わり、中断になった決勝とエキシビョンは一緒に見に行かないからね、パレードの方に行きたいんだよ、ソーニャも連れていきたいし。」
「む……分かった、仕方ないな。まぁ何にせよ飲め飲め!全然飲んでねぇじゃねぇか!」
「いや、私は……まぁ今日くらいいか、頂こう。」
注がれた樽ジョッキを構え、改めて乾杯する。
ベヌスは一気に酒を煽ったあと、金貨の入った袋をダン!と机に置き、映像記憶の魔道具を指で求めるジェスチャーをする。
今渡せと言うことか、まぁ先にやっておいた方が都合はいいな。
「おらぁ!上映会すっぞぉ!見るやつァこっち来い!」
……ひどい酔い方をしているな、巻き込まれる前に別の席に移るとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆
「ウラン、大丈夫カよ……あれからずっとそんな調子じゃねェか、話くラい聞くぞ?」
「……リスクを承知で、師匠へ誓った約束を守るために……魔法を使った、です……でも、そこまでしたのに、取り逃して……」
「アれウランの魔法だッタのかよ、すげーじゃねェか。そんナ気に病ム事は無いと思うけどナ。」
「そうじゃない……そうじゃないん、です……」
嘆くウランをマルスや他塔の管理者が慰める。
メルクの姿が見えないがまたどうせ女性給仕に絡んでいるんだろう。
あれでそれ以上の関係に至らないのがアイツらしいというか、相手が気の毒と言うべきか。
そこに背丈の小さな少年が近寄った。
「ウラン、もう少しで、刀が出来るよ……ね?元気、出そ?」
オドオドとした態度と口調、黒い作業着に防塵マスクと遮光ゴーグルを首にかけた、若干ルナと似た雰囲気の少年。
衣服に汚れが見えるのは念の為と牢屋の改修工事に出向いていたからであった。
だが反対に、髪と瞳は明るい黄色、口元に怪我の縫い目が見えるかなり印象強い容姿をしていた。
ガラテア・クレアーレ、街の防衛機構の殆どに携わり、今回の襲撃において最も貢献した者の1人である。
「ガラテア……うん、ありがとう、です……」
◆◇◆◇◆◇◆
「アドラ、それであの倉庫の事だが……」
「……ッ!?レムリア、今は……」
例の倉庫の件で流石に補填の話はするべきだと思い相談しようとしたところ、アドラが狼狽した様子を見せる、よく見れば陰に隠れてルナがいた……不味い。
「倉庫……?なんの事なんだ……」
「い、いや、何でもない。」
「何でもない事ないと思う……口を割るんだ。」
ぐ、逃げ道がない。アドラに助け舟を求めるが今までの仕返しか、はたまたどうにも出来ないという事か目を逸らされる。
「……す、すまない、プロスペリア商会が持つ倉庫を丸々一個燃やしてしまったんだ……」
それを告げた時、空気が冷ややかに張りつめるのを感じた。
他の席の皆も固まる。
「……理由を聞かせてもらうんだ。」
「えと、あの上空に出た魔法陣を形成する装置を守っていた魔物を倒す必要があってだな……超法規的措置というか……」
「……でも、別に燃やさずとも多分倒せましたよね、あの時。」
アドラお前ッ!?
改めてルナの方を見れば服の裾を握りこみ怒り浸透といった様子である。
「……1500万。」
「え……?」
「……商品の補填費と再建時の人件費諸々で概算1500万エール!きっちり揃えて補填してもらうんだ……覚悟、するんだッ!」
……ま、まぁ遅かれ早かれ判明した事だ。
それに、どう考えてもかなり甘い処罰である以上、何も言わず受け入れるとしよう。
クソ、アドラさえその場にいなければ連鎖火災の1箇所だった、魔物のせいだったと言い逃れできたものを……
嫌なことを流し込むかのように手に持った樽ジョッキを流し込む。
カッと喉が熱くなる感覚、とぉ……?
「あ!酒に逃げたな!……あ、メルク。いいところに来たんだ。どうせ暇してるでしょ、こいつをソフィアちゃんのところに連れてって欲しいんだ。」
「え何、いきなり酷いなぁ!まぁ本当だからいーけど……僕が行ったら秘書官達で飲んでる中邪魔にならない?」
◆◇◆◇◆◇◆
「すみませんほんとにご迷惑おかけして……」
「あぇ、ソーニャ?もう……いいのかい?」
ベロベロになったレムリア様を抱え、店の外へと連れ出した。
今日はもう帰った方が良さそうですね。
お見送りに他塔の管理者様達が出はって下さり、更に申し訳ない気持ちに……
「そんな状態のレムリア様をほっとけるわけないじゃないですか、普段から飲まないのに無理するからですよもう……」
「まぁまぁ、ソフィア嬢。多分レムリアも雰囲気に合わせてくれたんだよ、そう責めないであげて、彼女も今日は頑張ってたしさ。」
「そう、ですね。私も命を救われた訳ですし……」
やや気恥しい雰囲気に変わり、やや居心地の悪さを感じつつ挨拶を済ませその場を後にした。
「ごめんね……ソーニャぁ……私がウランくらい強ければ、そんな目にもぉ……」
「もう、何言ってるんですか、レムリア様は十分お強いですよ。」
◆◇◆◇◆◇◆
「帰りましたね、ほら皆さん飲み直しますよ!武闘大会の鑑賞会の続きが待ってますからね!」
「アドラおめぇもハマったか!良し!来年は一緒に見に行こうぜ!」
皆が酒の席の騒がしさへと戻る中、ウランはその場に立ち竦むように空を見上げた。
肌寒い秋の夜風がウランを通り抜けるように吹き去った。
『私は、別に強くなんかないのに……』
「ウラン、関東国出身だったンだな。」
「ッ!?」
ウランは振り向きつつ、驚いたように口を塞ぐ。
それを見たマルスはなんでもないかのように笑った。
「ケケッ、別に誰かに言やしねェさ。俺は先代にヨ、どこ行ってもいイようにッて、色んな国の言葉を教わッてんのサ。」
マルスは続ける。
「まァ……そうダな、お前は俺らの中じャぶっちぎりで強エし、それを皆頼りにしてんだ。ま、気負い過ぎんナよ……ふぅ、あー寒みぃなァ、先戻ってんゾ、皆お前を待っテんダ、切り替えタら戻ってこイよ。」
そう言い残して、マルスは店の中へとまた戻って行く。
「……」
夜空に一筋の軌跡が残った。




