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第9塔の研究者  作者: 奏多かな
第一章『騒動と火種』
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第18話 ー勝利への道筋ー

手始めに、星片ニクスをなるべく近くに備え、ジリジリと距離を開けつつ、自身の傷口を確認する。

槍は刺さったままだが、そのおかげで出血量はさほど多く無く、毒の類も以前受けた時と同じで使われていないようだ。

正直、賭けになるが……強引に攻めに転じるべきだな、時間をかけては私もソーニャも保たない可能性が高い。


「片腕が使えないのに、私に勝てる?」


「はは、この程度ハンデにもならないさ。君こそその2本のダガーではリーチが足りないし、投げ槍じゃあ私の最高傑作《ナンバーズ》を越えるのは難しいだろう?」


「あは、そんな怪我してるのに強がりさんだ。本当に越えれないか、試してみよっと。」


チャンスは今、逃す訳にはいかない!

その発言に合わせ、星片ニクスを連なるように地面に突き立てる。

相手の姿を視界から外すことになるがそれは相手も同じ事。


一瞬の後、強烈な破裂音が響く。

それと同時に裏から飛び出し、一気に間合いを詰めた。

勿論、星片ニクスは地面から抜き去り相手に向けている。


……1枚操作が効かなくなったか、後の修理が大変そうだ。


「やはり、投げる時に利き手を開けたね!」


「ッ!やっば……!」


分析を述べつつ、右手に武器を再度構えようと太腿に手を伸ばしていた側から槍を横に薙ぐ。

それを垂直に飛んで避ける彼女に向かって、既に向けていた星片ニクスを飛ばす。

自身を巻き込みかねない上、今は複雑に操作できぬからこそこういった使い方となったが、狙い通り彼女はそれを受けて大きくバランスを崩した。


彼女は不安定な体勢のまま、悪足掻きとばかりに私へ短槍を投げた……が、不安定な体勢でも投げれるのは既に1度見ている。

槍でもってそれを強引に逸らし、彼女が体勢を立て直す前に銀槍エリスを喉元に突きつけた。


「前と同じ状況になっちゃったか……あーあ!ごめん。ダリア、リンドウ……私、負けちゃったよ……」


心が折れているのか、座り込んだまま彼女は俯く。

そこまで警戒する必要は無さそうだが、以前もここまで追い詰め逃げられているため、先んじて刃を彼女の脚と地面に触れさせ、纏めて石化した。

魔法を使用されるのが怖いな……拘束具がないのが悔やまれるが、一旦はこれで放置するしかないな。

この状況から脱するような魔法はほぼ塔の仕掛けで防げるとは思う、以前逃げ果せた方法も既に検討はついているし……大丈夫だと信じるしかないね。


◆◇◆◇◆◇◆


「……あんたはウランとかいうのより弱そうで良かったっす。ささっと片付けさせてもらうっすよ!」


「おや、彼女と戦いましたか……よく逃げ切りましたね。そこは評価させて頂きましょう。」


先ずは会話から、メルクより頼まれたのは時間稼ぎですからね。

それに徹するとしましょう。


「逃げ切った?……ははは!あの女をかなり信頼してるんすね?残念、俺っちが殺しちゃったっすよ。」


乗ってきましたね。やはりやや感情的というか、子供っぽいというか……彼からはそんな印象を受ける。

殺した?はは、メルクから状況は聞いているんです。

有り得ませんね。


「……何が可笑しい。」


おや、顔に出ていましたか。


「あぁいや、失敬。あまりにも荒唐無稽というか、滑稽というか……彼女が貴方ごときに敗れるわけがないじゃないですか。」


「その信頼感、クソきめーっすよ。きーめた、ちゃちゃっとぶっ殺してその減らず口を塞いでやるっす。」


そう言って、彼が私に向かって距離を詰める。

私は後ろに下がりつつ鎖獣《チェーンビースト》と呼ばれる対象捕縛、制圧用の魔道具を起動した。

それはじゃらじゃらと鎖の擦れる音をさせつつ、四足歩行の獣の姿を象る。


「貴方は知らないでしょうが、私はこの街一番の魔道具愛好家、私の所持する魔道具の数はレムリアよりも多いんですよ。」


「その長ったらしいうざってー口調辞められないんすか?聞いててイライラするっす。仲間からも嫌われてんじゃないんすか?」


「はは!面白い事を言いますね。同僚はみな賢い。賢き者こそ、損得は好き嫌いの感情より優先されるべきだと、理解しているものです。」


見たところ相手はああ見えてかなり実勢経験を積んでいますね、感情的になりながらも私の鎖獣を警戒している……いい兆候です。


私が持つ物の多くは誰にでも使えるような常時発動型の物ばかり。魔道具が人を選ぶのであれば、誰にでも扱えるような簡単な物を探し集めればいいだけの事。

魔道具が好きと公言しておきながら、魔道具が使えないなんて笑い草ですしね。


「まぁ、そんなほっそい鎖に頼ってるようじゃ程度が知れるっすね……ご自慢のそれも塵芥に変えてやるっすよ!」


そう言って、彼はダンと踏み込み鎖獣に向かって刀を振るう。

だが、太刀筋をねじ曲げるかのように振るわれた刀は横に逸れ地面の間際で止められた。

違和感に顔を顰めつつもリンドウは返す刀を振るい、割れるような音でその正体に気づく。


「はぁ!?何個障壁の魔道具をこんなのに着けてるんすか!なんつー金の無駄な……」


「無駄じゃあないんですよ、これが。」


更に2本の鎖が懐からじゃらじゃらと流れ落ち、地面に着いた先からそれは生き物の形を象った。

リンドウはすぐさま私の方に斬りかかりますが、計3本の鎖獣が邪魔するように立ちはだかった。


「ッ!全部同じ硬さなんすか!?面倒くさいっすね……!クソ、ここじゃ札も使えねーし……いや、相手が魔道具使えてこっちが使えねーっつーことは……」


札。ここに来る前の情報共有で辿り着いた1つの結論。

ウランと彼の戦闘を見ていたメルクと、実際に対峙し逃げられたレムリアの話から、恐らく喪われた転移の魔法が込められている魔道具を持っている。

アイリスとやらはちゃんとその結論にたどり着かないように見せてはいたようですが、メルクがウランとの戦闘の後彼が使う瞬間を見ていましたから。


それに、使う様子を先程見たので恐らく使い切りの物、更に言えばまだ使おうとしている以上複数持っている事まで分かりました。


……そんな複雑で繊細そうな魔道具がここで使えるわけが無い。

ですが……時間稼ぎとはいえ、自由にさせては何をされるか分かりませんね。


鎖獣を彼に向かわせ、私自身は様子見に徹する。

私自身が戦えないという訳では無いですが、彼はかなりの実力者のようですし。


「大人しく投降してくれたら楽なんですけどね?どうです?今なら牢への差し入れに美味しい菓子くらいは出してあげようじゃないですか。」


「調子に乗るんじゃ、ねぇっすよ!……ふぅ、いくらでも、やりようはあるんすから。」


そう言ってリンドウは鎖の獣に追いつかれない、目に捉えきれない速度で近づき刀を私に突き出す……が、反発するように弾かれるだけで直接的な傷はつかない。


「残念、私は妹のように誰かを護る力はありませんが、私自身を護ることに関しては随一だと自負しているんです。」


「ふぅ、もういいっす、傷も開くし、疲れるから正直やりたくなかったっすけど、本気でいかせてもらうっすよ。」


そう言って、リンドウは一瞬目を瞑る。

次の瞬間、アドラの片眼鏡《オラクル》は異様な光景を映し出す。

これは……空気中の魔素が彼に向かって……不味い、仕掛けが機能しなくなる上に、彼はあの量の魔素を取り込んだ。

仕掛けの事を気付かれないように只管牽制して更にこれを耐えないといけないんですか!?


「っはは!なんでかよくわかんねーっすけど、すこぶる調子がいいっすよ、覚悟するっす。」


メルク、レムリア、本当に、ほんとーに!急いでくださいね!?私が死ぬことは無いとしても、私の大事な魔道具が!

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