第17話 ー2度目の邂逅ー
「あちゃー、増援が来ちゃったかー。戦力が分散するように色々やったんだけどなぁ……」
「何をしていると、聞いている。」
私とアドラ、それといつの間にか合流したメルクと共に第9塔へと入った。
目に映るのは、最悪の景色。オレンジ髪のあの少女と、その仲間と思われる2名。
その足元にはボロボロになり倒れ伏すソーニャがそこにいた。
「んー、秘密。強いて言えば……弱いものいじめ?あっはは!そんな睨まないでよ、怖いなぁ。」
煽るように彼女は足下のソーニャを分かりやすく踏み付けた。
呻き声をソーニャは上げる。
「レムリア。」
「メルク、分かっているさ。こんな挑発に乗ったりはしない。」
体を抱え怖がる演技をするオレンジ髪の少女を横目に、ソーニャの様子を見る……腕に私が受けたような短槍が刺さっているが今のところ呼吸は正常、出血量もまだ命に別状は無い程度に見える。
……間に合ってはいないが、幸いなことに最悪の結果にはならなかったか。
「ちょっとアイリス!?相手を煽ってどうすんのよ!ほら、私来る時に使ってるから、リンドウお願い!」
緑髪の少女がリンドウという青年に何かをお願いするが、彼が何かする様子は……おや。
リンドウが何かを後ろ手に破るが、どうやら失敗に終わったようだ。
「……チッ、まずいっすよ、ダリっち。なんかに妨害されて使えねぇっす。ここに直接来れなかったし、何となく嫌な予感はしてたんすけど、ここから出ないとダメそうっす。」
「はぁ!?嘘でしょ!?」
徐々に戦闘態勢に移る面々。
だが、彼女らは第9塔に施された仕掛けに気づいてはいないようだ。
ソーニャの異常体質を参考に、私とガラテアで試験的に施したものだが、まさかこんなところで役に立つとは。
「……成程、これは凄いね。」
「この騒動が終わったら、うちにも施工をお願いしたいところです。」
事前にメルクとアドラには説明していたが、実際目にしてみてその効果に驚いているようだ。
その仕掛けは単純明快、空気中の魔素を部屋に集中させ、繊細な魔法の発動を妨害する。
つまり、固有魔法の中でも未だ研究が浅く洗練されていない荒削りな魔法や、一部の発動プロセスが複雑な通常魔法を封じるのだ。
「正面突破すればいいだけでしょ?ほら、ダリア、出しちゃって。」
「無茶言わないでよ!?せっかく育てた子がもうかなりやられてるってのに……あーもう!」
怒りを見せつつ、ダリアは背負った大きな本を手に持ち開いた。
そこには、名前と思われる記述が大量に刻まれている。
1部のそれは光を放っているが、反面、一部の名は黒くぼやけ、今にも消え去りそうであった。
「レムリア、君はアイリスとかいうのを相手するんだ。アドラはあの男、ボクは残った彼女を相手しよう。予想が正しければ、アドラが頑張って耐えてくれれば勝てると思うよ。」
「あれ?もしかして俺っち達舐められてるっす?」
「舐めてますよ?耐えるだけでいいなら造作もないですし……たとえ貴方がいくら強かろうとね。」
私達はお互いが連携をとることを得意としていない。
だからこそメルクの意図に気づいたアドラがすかさず煽りに入る。
「はは!いいっすよ!2人とも、悪いけどちょっとあの眼鏡ボコってくるんであとは頼んだっす。」
「ちょっ、本気なの!?それじゃ相手の思う壺じゃ……」
「それだけ離れてくれたら充分さ。」
その言葉を合図に、メルクとアドラは私から離れ、私は足下の導線を魔力で繋いだ。
気づいたアイリスがダリアに駆け寄る前に、この受付ロビーを3分割する防火隔壁と呼ばれる巨大な壁が複雑に聳え立つ。
そうして、この騒動最後の火蓋が切られる事となる。
◆◇◆◇◆◇◆
「あちゃあ、まっずいなぁ……でもいいの?この子がいる事、忘れてない?」
アイリスはそう言いつつ、ソーニャ指差した。
「でもね?私ね、今度は本気であなたとやり合ってみたいなって思ってたんだぁ……鏡の時は、ほら、お互い全力じゃなかったし。だから……」
アイリスはソーニャを外周の壁際に向かって蹴飛ばす。
その靴に仕込まれた刃によって、ソーニャは新たな怪我を負った……あの傷は、不味いな。
「ほら!急がなきゃ血を流しすぎて死んじゃうよ!?」
だが、これでやりやすくはなった。
「ご希望通り、すぐに終わらせてやるさ。最高傑作、3番『破砕棍セドナ』。」
最高傑作の中で最も重い武器を私は取り出す。
5m程の巨大なソレは100枚の突起ある円盤を束ねた歪な形、それぞれが反対方向に高速で回転し、触れる物全てを切り裂き捻り叩き潰す、そんな危険な代物だった。
「私も立場があるんでね、第1に捕縛を目的とするが……そう簡単に死なないでくれよ?」
「あっはは!めっちゃ怒ってるじゃん!」
駆け寄り大きく踏み込んで空気を裂く感触と共に、それを振り切る。
相手は大きく後退して避けたようだが、まだ距離が近い。
振り切った棍の持ち手を両手で握り直し、相手目掛けて振り下ろし、地面に叩きつけた。
「ふむ、当たらなかったか……素早い相手にやるものじゃあないか。如何せん隙がある上にそもそも大振りすぎる。」
「あっぶなー。ちょっと迫力すごいね、それ。それを振れるって事は……見た目に反して力が強いんだね?」
私が身につけた指輪等の装飾品を見つつ、彼女はそう言う。
きっと効果は既に読まれているだろう、だが関係は無い。
「こう見えて鍛えてるのさ、それより、そちらから攻めてこないのかい?やられっぱなしじゃあないか。」
「んー、でも、そっちに決め手はなさそうだし、変に攻めて武器をぐちゃぐちゃにされるのは嫌だしなぁ……ほら、どうせ他にもいっぱい持ってるんでしょ?遊んでないでもっと本気で来てよ。」
チッ、ちゃんと状況を理解している。
やりにくくはあるが、彼女の言うとおりまだ私にはかなりの手数が残っている。
「仕方ない。最高傑作、2番『銀槍エリス』。」
迷宮から産出した武器型魔道具の1つ、銀槍エリス。
私の身の丈ほどある長槍で、全体は銀色、動物の爪を思わせるような独特な造形が施されている。
その効果は扱いやすく、持ち主が受ける重量の軽減と魔力を流している間、刃部分に触れた魔力を石に置き換えるというもの。
流している魔力の量によって石化させる範囲が変わり、今の重量は道端に落ちている枝と何ら変わりは無い。
「肉弾戦は苦手なんじゃなかったの?あ、別に武器があったら違うってことかな?あはは、私に勝てる?」
笑いつつ、今度は相手から仕掛けてくる。
ダガーの間合いまで近づかれる訳には行かない。
合わせるように槍を突き出しつつ、距離を一定に保つように後ろに下がり、避けて脚が止まる彼女目掛け、遠心力を乗せつつ槍を振り下ろした。
それを彼女は右手のダガーで受け流し、空いた左手に太腿のベルトから新たなダガーを抜き去り、逆手のまま斬りかかってくる。
だが、間合いは空いているために避けることは容易かった。
「やっぱり、思ってた倍くらいは強いかも……でも、まだこれの種は割れてないでしょ?」
不味い、そう思うと同時に身体を捻るが間に合わず、障壁の砕ける音と共に左肩に短槍が突き刺さる。
最近は障壁の魔道具も宛にならないな……
「心臓を狙ったのに、障壁に逸らされちゃったか……でも、もう左腕は使い物にならなくなっちゃったね?」
「チッ……最高傑作、9番『星片ニクス』。」
あの攻撃がある以上、何かしらの対策が必要だ。
強いて弱点をあげるならば彼女自信が投げる時と、無から短槍が射出される2つの方法の内、無から射出される時は威力が少し低いことくらいだが、それでさえ障壁を貫通するのだから嫌になる。
銀槍エリスだけでは捌ききれぬ以上星片ニクスは必要不可欠、2つ同時に扱うのは難易度が高いが仕方ない。
……左腕は完全に麻痺し、痛みのせいで集中が今にも切れそうだが、ここが正念場だ。




