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第9塔の研究者  作者: 奏多かな
第一章『騒動と火種』
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第16話 ー賊の目的ー

「遂に最後の1つ、随分有能な人が手伝ってくれてるなと思えば君か……有能は訂正させてもらおうかな。」


「なんです!?私じゃ不満でしたか!?」


最後の建物、プロスペリア商会保有の大型倉庫の1つ、そこに私とアドラがほぼ同時に到着した。

からかいつつも中の様子を探れば魔王蔦(デモンズプラント)と呼ばれる3つの口を持つ巨大な植物が床に敷かれたタイルを砕き生えている。

直接見たのは初めてだが、確か8層付近でしか見かけない魔物のはず、連れてくるにも動けない種をどうやって運び込んだのか気になるがその解明は後にするとしよう。


「冗談だよ、正直助かった。あぁそうだ、恐らく君の妹だとは思うんだが、遮断障壁《マジックウォール》の魔法を第3塔付近で使っていたようだね、何があった?」


「何でも商業区と工房街の方で魔物が現れたみたいですね、それで手の空いた人が来るまで近くにいたルナが隔離していたようですよ。」


主要施設が固まってる方に追い打ちをかけてきたか、しかし魔物を街中に隠していたのか、一体どうやって従わせたんだ?

仮説は多く立つが確証を得られない今無駄な時間に違いないな、モノリスの破壊を急ごう。


「さて、今までの傾向通りここから出てこないだけマシだが……どうやって倒そうかね、ウランがいれば一太刀で終わるだろうが。」


「植物の見た目をした動物でしたね、あれは。茎のような胴体に筋肉と骨がかなりの密度で詰まっていますから、外皮も相まって頑丈さは生半可じゃないですし……貴方の最高傑作(ナンバーズ)で何とかならないんですか?」


そう言われいくつか考えてみるが、どれも決定打には届かない気がする。

……動物、か。


「この前オークションで出していた呼吸(ブリージング)の予備の首輪を持っていないか?」


「何に使う気です?一応一つだけならありますが……」


「それを貸してもらえないか?手間だが安全に処理する方法を思いついた」


猜疑の目を向けつつ首輪を手渡してくるオスカー。

ふふ、この建物は品質管理のために換気弁を開かない限り外気が入り込むことがほぼ無い。

更に……あの魔物は植物のような動物である。

呼吸が必要なのだ。


「レムリア、あなたまさか。」


続くアドラの制止を無視して私は倉庫内に立ち入り火を放って周る。


◆◇◆◇◆◇◆


「……思ったより上手くいき過ぎたな。」


「上手くいき過ぎたじゃないですよ!?商品も大量にあったのに!よくもまぁ私の前でそれが出来ましたね!?」


あぁーしまったー。はは、アドラはルナの兄だったなー。忘れていた訳じゃないが忘れていたよー。なんてね。超法規的措置というやつだ。


「まぁ、魔物が放った火で倉庫が燃えてしまった、更にこの空間だから勝手に窒息して死んでしまった……おお、我ながら完璧なカバーストーリーじゃないか。」


「私が見ていたからバレバレなんですけどねぇ!?」


あぁもう五月蝿い、仕方ないじゃないか……あの魔物を倒すとなると相当時間がかかるし、魔法なんか使われでもすればこの建物以外にも被害が及びかねない。安全かつ効率的に処理できる方がいいだろう?

まぁ……流石に後でべヌスから回収するお金で補填するとしよう。


「ちょっと聞いてます!?」


「いいから、ほら、指輪を返すから様子を見てきてくれないか?」


「よくなーーーーーい!!」


◆◇◆◇◆◇◆


「そ、ソーニャ様……」


「私の事はいい!早くレムリア様にこの事を!」


第9塔の地表部、広い受付ホールでソーニャは2人の侵入者と相対していた。

1人はアイリス、もう1人はダリア……今回の首謀者2名であった。

そこに、後から遅れて自身の怪我を気にしつつリンドウが加わる。


「ちょリンドウ!?あんたボロボロじゃない!大丈夫なの!?」


「深い傷はないから平気っすよ、ただなんか魔物誘引《トレイン》してたらやばそーな奴がいて殺しときたかったんすけど、ちょっと殺しきれなかっただけっす。今頃もみくちゃになってるだろうしあいつは暫く動けないと思うっすよ。そんで、今更すけどどういう状況っすか?」


尋ねるリンドウにダリアは指さしで応え、続くようにアイリスはソーニャに話しかける。


「あれれー?君、鏡の時にいた子だよね?あの時、邪魔って言われてたけど、君の上司?師匠?もあんな酷いこと言うなんて、あんまりだよねー?」


「レムリア様は、私が迷わないように敢えて強い言葉を使われたのです。貴方に同情される筋合いはありません。」


ソーニャは既に戦闘態勢に入っているが、先に仕掛けられるほど力量差は近くなく、対称的に3名は油断とも取れるほど砕けた様子を見せていた。


「2人とも先に行ってて、この子は見た事があるし私がやるよ。」


「さっさとしてよ?誰か呼びに行ったみたいだしその……なんだっけ、来て欲しくない……」


「俺っちが相手した奴っすか?ウランって名乗ってたっすね。」


「そう、そいつクラスのやつが来られても困るからね。」


ソーニャは2人を止められない自身の無力さに歯軋りする。

ましてや、今対峙している以前レムリア様から逃げたという彼女も私より強い事は明白、絶対に無茶はできない。

なんとか生き残って、アイツらを長く留めないと……


◆◇◆◇◆◇◆


「……ねぇ、アセト。」


「どうされました?メルク様。」


「中々ここに仕掛けてこない、それに見間違いじゃなければ、首謀者らしき奴らが第9塔に入っていったのが見えたんだけど……もしかして、君目的じゃ……」


「……」


沈黙が答えとなり2人を包みこんだ。


◆◇◆◇◆◇◆


間に合え、間に合え、間に合え!


上空の魔法陣への対応が終わった為、アドラと次の手を考えていると第9塔所属の研究員が私を探していると冒険者と巡回中の衛兵から伝えられる。

アドラと共に件の研究員を探し出して話を聞けば、それは、私が不在の今起きてしまった襲撃の報せだった。


塔の警備兵は既に倒されているらしく、一部の衛兵もその場に向かってはいるそうだが……正直持ち堪えれるとは思えない。


ソーニャ、頼む、死なないでくれ……!


◆◇◆◇◆◇◆


「もー、また避けられた!最近これの成功率低いなぁ。」


「……ッ!随分、余裕そうですね。」


そう言いつつも、ソーニャは自身が圧倒的に劣勢だという事は理解していた。

援護に来た衛兵でさえ時間稼ぎに徹していたのに長くは持たず彼女1人にいいようにされ、塔上層まで追いかけて行った者達も恐らく……


ここを賊に好き勝手されるのは大変業腹ですが、1人でもここで釘付けにしておけば後でレムリア様がこの者を捕らえてくれる。

私の役目は、どうにか時間を稼ぐことだ。


「うーん?こんなに隙を与えているのに攻めてこないの?」


その言葉を無言で返し、塔の防衛機能の1つを作動させる。

私でも扱えるようにと調整された魔弾砲(タレット)を足元の導線を魔力で繋いで起動させた。

だが……


「つまんないよ、さっきから逃げてポンコツばっかり……もういいや。」


彼女は魔弾砲(タレット)の射撃を躱しつつ、短剣のようなサイズの槍を寸分の狂いもなく砲身に投げ突き立てる。

その威力は魔弾砲《タレット》を完全に貫き、背後の壁に突き刺さるほど。


それと同時に、私に向かって同じ物を投擲してきた。

避けるのは間に合わない。咄嗟の判断で壊された魔弾砲《タレット》の破片と左腕を前に出して受け致命傷を防ぐ……が、その間に距離を詰めた彼女が追撃で斬りかかる。

右手に持った護身用ナイフでそれを防ぐが、上体が仰け反った瞬間にふと相手の姿が視界から外れ、突き上げるような蹴りを腹部に叩き込まれた。


「うッ……ぐ……」


レムリア様から頂いた私用の簡単な魔道具も既に破壊され、ただただ自身の実力不足を嘆くがもう遅い。


「一応聞いとこっと。ねぇ、覇王の128秘宝って、知ってる?」


蹴り飛ばされ蹲る私の前に彼女がしゃがみこみ、髪を掴みつつそんなことを聞く。


「御伽噺の……?知って、いますが……それがどう、しました?」


「多分ここにあると思うんだけど……知らない?」


覇王の128秘宝、1つでも手にすれば強大な力や莫大な富を得られるという、夢や空想で語られる物。

しかし、図鑑《カタログ》がある訳でもなく、今ではその呼び方はあくまで強力な魔道具を適当に呼称するための唯のカテゴリーでしかない。


「知りませ……んよ、そんなもの……」


「そっか。ほら、これ見て?……見てってば。」


髪を掴まれたまま顔を持ち上げられ、ソーニャはアイリスの持つペンダントを見せられる。

それは淡く光り、何かに惹かれるかのように少しだけ重力に逆らって浮いていた。


「これは、【本物】を見つける魔道具なんだ。ほら、それがここにあるって反応してる。今回はちょっと反応が変だったから不安だったけど……」


「アイリス、いつまでやってるの?一応こっちは見つけた。予想よりザルな警備で楽に見つかったし、ほらこの鏡、これあんたが保険に欲しかったやつじゃない?」


アイリスの後ろにある大階段からダリアとリンドウが降りてくる。

ダリアも同じペンダントを持っており、それは、磁石同士がくっ付くように、その手に持つ物にぴったりと張り付いていた。


真っ黒な卵のような……あれが目的……

あれは確か、倉庫部屋にかなり前から置きっぱなしになっていた物だったはず、最近レムリア様が机の上に出されていたのを見たような……


「あーあ、ダリア達もう戻ってきちゃった。もっと話してたかったんだけどなー。まぁいいや、今トドメを刺してあげるね。」


「おい……何をしている?」


出血のせいか目眩と共に徐々に保てなくなる意識の中、そこに確かに、レムリア様の声が聞こえた。

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