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スワン・ピーク<1>

 神のことは結構好きだ。会ったことはないけど、いい奴だって聞くし。

 キャスパーも嫌ってはいないはずだ。奴の荷物の中には聖書と仏典とヴェーダがヘアワックスやコンドームと一緒くたに放り込まれてる。

 バルサは曰く、「神? いてもいい。こっちの邪魔をしないなら」だと。

 つまり、俺たちは神に対して少なくとも悪感情は持っていない。

 けど、宗教家となると話は別だ。悪趣味なプラカードを掲げ大声でがなり立ててるあの連中。世界の破滅だとか終末の日だとか、今考えてもしょうがないだろって話を臭いツバに乗せてまき散らす。機嫌の悪い日は撃っちまいたくなる。寝入りばなの蚊や蠅と同じ程度には。

 そして、今、俺の機嫌は悪い。

 じゃんけんに負けたからだ。

 おかげで俺は腹に砂が詰まった袋を巻きつけて、頭からすっぽりかぶった襤褸ぼろの狭い隙間からキャスパーのかかとばかり見てる。重いし、暑いし、息苦しい。俺の不快感と反比例して、キャスパーの舌は調子を上げている。

「――ええ、ええ、そうです。こちらの聖域教会アジール・チャーチは困難を抱えた親子を迎え入れ守ってくださると。そんな噂を聞いて、藁にも縋る思いでまかりこした次第で、はい」

 紫衣の女がおごそかにうなずく。

 黒に限りなく近い濃い紫は、首、手首、足首までも隠して、こちらを威圧するほど禁欲的だ。同色の頭巾の背後には、同じくらい威圧的な鉄の門扉。ぴったりと閉じられている。なんとかあいつをこじ開けなくちゃならない。だから――。

「信じられない! 神様ありがとう!」

 キャスパーが大げさに天を仰ぐ。

「私たちこそ、あなたがたを必要とする哀れな者です! ご覧のとおり妻は臨月で、ほら、いつ陣痛が始まってもおかしくない」

 ――だから、俺は妊婦のふりなんかしている。


 クソ、一生チョキは出さない。

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