表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

いい日旅立ち

 俺が作家になりたいと告白した時、二人はすぐさま周りの奴らを全員殺した。連中が俺の言葉を笑ったからだ。

「しかしだ、メル。なんでお前が作家なんぞに」

 血まみれの腹をおさえてうずくまってたバーテンに最後の一発をくれてやりながらキャスパーが言った。

「物書きなんてのはタイプライターでマスかく手合いだぞ。奴らの万年筆のインクはザーメン。少しもスタイリッシュじゃない」

「その通り。俺はマスかいてぶっかけたいんだよ」

 俺は奥の厨房から顔を出して答えた。

「頭の中で言葉がうるさいんだ。十五の頃を覚えてるか? 毎日、ぶっ放すことばっか考えてた時期があるだろ? そんな感じだ。頭蓋骨が内側からはじけそうだ。俺はどうしたってこいつらをひり出さなきゃならない」

「十五か。そりゃキツい」

「しかもただの十五じゃない。ぴかぴか童貞の十五歳だ」

 キャスパーは同情に満ちた声でうなった。

「だが作家ったってなにを書く? 詩、小説、エッセイ、評論――ハードボイルド小説だけはやめろよ。そんなもん書いてみろ。端から全部燃やしてやる」

 俺はようやく見つけた赤いポリタンクを運びながら答えた。

「分からない」

 は、とキャスパーが間抜けな声をあげた。

「俺は俺の頭の中で暴れてる奴らを静かにさせたいだけなんだ」

 キャスパーはバースツールに腰かけ、下半分だけ生き残ったジンの瓶に直接口をつけた。俺はその間にポリタンクの灯油を床にまく。

「旅だな」

 やがてぽつりと呟いた。

「いい作家ってのは放浪するもんだ。ヘミングウェイ、チャトウィン、ガルシア=マルケス」

「誰だ、それ」

「気にすんな。死んだ奴らだ」

 旅か。悪くない、と俺は思った。この小さな裏通りに押し込められているのはうんざりしていた。

 店の外からけたたましい音が響いた。表に出ると、古いステーションワゴンのバンパーと街灯の鉄柱が熱烈なキスを交わしていた。ワゴンは元・バーの常連、現・死体の誰かの持ち物だろう。

「運転は嫌いだ」

 運転席から滑り降りながら、バルサが不機嫌そうにキーを投げてよこした。

 バーからあがった火はストリートの三分の一を焼いたそうだ。

「腹の立つ町だったからな。ちょうどいい」

 助手席でキャスパーはそう評した。

 バルサは後部座席で目を伏せる。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ