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バルサ

 左隣の奴の話をしよう。

 バルサ。

 小柄な女の形に圧縮されたゴリラ。

 この世に生まれ落ちたその瞬間から、暴力と相思相愛の間柄だ。奴のありようは動詞で足りる。食う、飲む、走る、跳ぶ、飛ぶ、壊す、潰す、殺す。形容詞の要らない生き物。口数は多くない。言葉より拳や鋼を信頼しているからだ。俺はたまに、奴がサバンナや密林にいる様を夢想する。透明な表情で地平を見やる横顔を。小さな額に落ちかかるシダの葉の濃い影を。そのたびに俺は泣きだしたくなる。間違って人間なんぞに生まれちまった獣。

 バルサの体温は赤ん坊のように高い。


(了)

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