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スワン・ピーク<11>
車内は静かだ。勇ましいエンジンの音に誰も伴奏を与えようとしない。
「煙草くれ」
言うと、ハンドルを握った奴は振り向きもせずにライターごと放ってよこした。「おいおい、嫌煙家の看板は下げたのか。今夜はお祝いだな」なんて混ぜっ返したりしなかった。そう言えば、奴は今日、一本も吸ってない。狂った機関車みたいなヘビースモーカーなのに。
助手席の奴が無言なのはいつも通りだ。開け放った車窓にむき出しの肘を引っかけている。今までの人生で奴を女や子どもだなんて認識したことは一秒たりとも無いが、俺より一回りも二回りも細い腕は誰かを思い出させた。
俺は眼をそらして紙巻をくわえた。火をつける。ジッと小さな音がして赤い火が灯る。吸い込む。煙が口内から肺を満たす。まずい。臭い。最悪だ。それでも俺は、世の多くのヤニ中毒どもがこいつに夢中になる理由の端っこを理解した。深く吸い込むと頭がくらりとした。
「次はどこだ? 北か、南か」
どうでもよさげに投げかけられた質問。俺は答える。
「買い物がしたい」
ペンと、紙を。
夜明けが近い。日の光は遠い。
スワン・ピークに白鳥はいない。山もない。あそこの主役は沼と柳とボウフラども。ピエロでも鬱を患う素敵な土地柄。
スワン・ピークには二度と来ない。
(了)




