ガソリンを捨てるために原油を掘るのか――EU・イギリスへの提言【ドルと石油の話②】
本日4話投稿の2話目です。
トランプ大統領が返り咲いてから、西側諸国の首脳たちが右往左往している。
関税をちらつかされ、NATOの負担を迫られ、「どう接すればいいのか」と頭を抱えている。
だが、視点を変えれば答えは意外とシンプルかもしれない。
トランプが最も喜ぶことを、EUとイギリスから先に提案すればいい。
●トランプの最大の関心事
トランプ政権の経済政策の核心は「アメリカ産エネルギーの輸出拡大」だ。
シェール革命以降、アメリカは世界最大の産油国になった。この豊富なエネルギー資源を世界に売り込むことが、トランプにとっての最優先課題のひとつである。
ならばEUとイギリスが「アメリカ産原油・LNGのユーラシアハブになります」と先に手を挙げれば、トランプは機嫌が良くなる。関税交渉でも安全保障の議論でも、テーブルの雰囲気は変わるはずだ。
しかし、ここで必ず出てくる反論がある。
「脱化石燃料の理念はどうするんだ」と。
●そもそも原油はエネルギーだけじゃない
EUはグリーンディールを掲げ、2050年カーボンニュートラルを目標に据えてきた。化石燃料からの脱却は、EUの政治的アイデンティティの核心部分だ。
だから「原油を買います」とは言いにくい。
しかし、ここで一つの問いを立てたい。
EUは本当に「原油なし」で産業を維持できるのか。
原油は燃料だけではない。精製すると、ナフサ・アスファルト・潤滑油・化学製品の基礎原料が同時に生まれる。プラスチック、合成繊維、医薬品、塗料……現代の産業インフラのほぼすべてが、石油由来の素材なしには成り立たない。
EVがどれだけ普及しようと、ナフサの需要がある限り原油の精製は続く。
つまり皮肉なことに「ガソリンを使わなくなっても、原油は掘り続けなければならない」という現実がある。
極端に言えば、「ガソリンを捨てるために原油を掘る」時代が来るかもしれない。
それならば、そのガソリンをどう扱うかが問題になる。
●ガソリンから水素を、CO₂から樹脂を
ここに技術的な突破口がある。
ガソリンから水素を抽出する技術が実用化されれば、化石燃料由来の原油をクリーンエネルギーの原料として活用できる。燃やして終わりではなく、水素というかたちで次のエネルギーサイクルに組み込める。
そして水素抽出の過程で発生する一酸化炭素・二酸化炭素。これを大気中に放出するのではなく、樹脂・化学製品の原料として再利用する技術開発をセットで進める。
CO₂を「廃棄物」ではなく「資源」として扱う発想だ。
この二つの技術が実装されれば、構図は一変する。
原油を買う→燃料は水素に転換してクリーンエネルギーとして活用→副産物のCO₂・COは樹脂原料にリサイクル→カーボンニュートラルに近づきながら、石油由来の資源需要も満たせる。
「脱化石燃料」という理念を守りながら、原油という資源を最大限に活用する道が開ける。
●三方よしの構図
この構想をEU・イギリスがトランプに提案するとどうなるか。
トランプにとっては「アメリカ産原油が大量に売れる」。文句のない話だ。
EUとイギリスにとっては、ロシア産エネルギー依存からの脱却という安全保障上の課題が解決しながら、環境目標も技術で担保できる。水素・CO₂再利用という新産業も生まれる。
そして日本がアジアのハブを担い、EUとイギリスがユーラシアのハブを担うことで、アメリカ産エネルギーが東西から世界を支える構図が完成する。
ペトロダラー体制の補強を、西側全体で分担する絵だ。
●理念か、現実か——その問いは終わった
EUはこれまで「理念(環境)か、現実(エネルギー安全保障)か」という二択を迫られてきた。
しかし技術開発をセットにした原油ハブ構想は、その二択を無効にする。
環境理念をラッピングとして使いながら、現実の資源確保とトランプとの関係修復を同時に達成できる。
右往左往している必要はない。
トランプが喜ぶことを、EUとイギリスが主体的に設計して提案する。その中身に技術開発という未来への投資を織り込む。
これが「トランプ時代の西側外交」の一つの答えではないだろうか。
あなたは、ガソリンを捨てるために原油を掘る未来と、ガソリンから水素を作る未来と、どちらを選びますか?




