うっかりもの
ガイの役目は、これなのです。
俺は、すっかり浮かれていたんだ。
ニーナと結婚することになり、トントン拍子に話が進んだから。
ご両親への挨拶も済ませた。
どの人がご両親なのかは、皆が恥ずかしがっていて、結局分からないままだったけれど。
俺は大切なことを忘れていた。
そう、手土産だ。
これを、すっかり渡しそびれて寝てしまったのだ。
なんて婿だろう。
きっと、残念がっているに違いない。
泊まらせてもらったおじいさんに聞いてみると
「わしはニーナの親じゃないぞ。まあ、家族ではあるがの」
「ということは、ニーナのおじいさんですね。これからも、ニーナ共々、よろしくお願いいたします」
きちんと挨拶をする。
ニーナのおじいさんは、村長もやっているらしい。
「カッカッカッ、面白いのう。ガイと言ったか。この村には、いつまでおるんじゃ?」
「そうですね。ニーナはここの食堂で働いているようなので、これからのことを2人で話し合って決めたいと思います。俺も街に帰って仕事があるので」
そう、ニーナには食堂を辞めて貰わなければいけなくなってしまう。
これからの夫婦のことだ。
よく話し合わなければならない。
「ニーナ!」
昨日の食堂へ行くと、ニーナがいた。
当たり前のように、他の村人もいた。
「おっ来たのぅ、バカものが」
「若いバカものは、面白いのぅ」
2人のおばあさんは、何か面白いことがあったようで、笑っている。
「何のご要件でしょうか?」
笑顔で振り返るニーナ。
そういえば、ニーナの笑顔を初めて見る。
かわいいな、笑った顔。
そんなことを、ぼんやり考えていると。
気が付いたら、お店にはお客さんがたくさんいた。
「あれ?いつの間に?」
ニーナは、忙しく料理を作ったり運んだりしている。
おばあさん2人も、せっせと働いている。
あの2人は店員か!
俺も手伝いたい。
どうしようかと見ていると、出来た料理をお客さんに運ぶところを見つける。
俺はおばあさんに近付いて料理を受け取ると、素早くお客さんのところへ運ぶ。
お客さんは、俺の余りの素早さに
「ひぃっ」
と驚いていたけれど、静かになって食べていた。
それからも、俺は素早く的確に料理を運び続けた。
おばあさん達も、喜んでくれたようだ。
ニーナの為にも働けて良かった。
一つ気になるのは、この店はやたらに静かだ。
誰も話さない店って、あるんだな。
こうして一日店員として働いて、夜。
夕食を食べてから、ニーナに土産を渡す。
「これをご両親に渡して欲しい。遅くなってしまったが、結婚の挨拶の為の土産だ」
大きな袋に、ニーナの戸惑いが見える。
「これは米と言って、特別な薬湯の材料だ。万病に効果があって、あの大きな街でさえ、俺の薬屋でしか手に入らない。これで作った薬湯を飲めば、、、」
俺の薬湯の説明の途中で、ニーナは顔を輝かせた。
「こっっこっっ」
ニワトリの真似か?
芸達者だな、ニーナは。
「こめーーーー!ー!ーーーーー!っ」
袋に手を突っ込んで喜んでる。
ほんとにかわいい嫁だな。
「ああ、薬湯を作るのには、この鍋で米を蒸かすんだぞ」
俺はちゃんと用意した鍋も取り出す。
嫁が、これほどまでに薬湯に興味を示すのは、これが初めてだろう。
これから、薬屋の嫁になるんだ。
良い心構えだ。
「やっっったたああああああああああぁぁぁ!神様、ありがとうーーー!!」
いや、神様じゃなくて、俺だけどな。
ニーナに与えてくれるもの。




