第120話 第五弾
惑星バリア装置群が完成した翌日の6月3日、トランスは次の作戦に打って出る。
「また我々の攻勢を白の旗艦に見せる時が来た。今度は太陽―地球系のラグランジュ点を強襲する」
「それってつまり、この戦いも終盤になりつつあるということですか?」
「まぁ、言い換えればそうなるだろうな」
そういってトランスは一つ咳払いをする。
「とにかく、今はこちらから攻勢をかけるのが重要な時期だ。白の旗艦に一泡吹かせてやろうではないか」
「おっ、それいいねぇ。面白くなってきた」
そうロビンが言う。
「現状、白の艦艇群の動きは鈍重なものだ。この機を逃さず、一気に攻勢に転ずるべきだと俺は考える」
「トランスさんがそういうなら、それに反対はしませんよ」
「それはそう。トランスの計算に間違いはあまりない」
そうジーナが語る。
「とりあえず、まずは太陽―地球系のL1に向かうとしよう。話はそこからだ」
そういって黒島たちは、紅の旗艦に乗り込んでいった。
「そういえば太陽と地球のL1ってどこにあるの?」
ごく平凡な疑問を後藤がする。
「計算で簡単に求めることができるが、一般的には地球から太陽側に150万kmのところにある」
「150万……ひゃあ……」
そういって後藤が驚く。
「しかし、ワープしてしまえば距離なんぞ関係ないがな」
「トランスさんって、そういうところドライですよね」
「現実主義と言ってくれ」
そういってレッド・フリートはいつもいる亜空間から、L1に向かってワープを行う。
ワープを行うと、遠くの方に、まるで点のような地球が見える。
「もしかして俺たち、地球人類史上最も遠いところに来ちゃったんじゃないですか?」
「かもしれないな。これがめでたいことかは置いといて」
「現実主義者ー……」
「そんなことを言っている前に早く亜空間走査をしろ。いつ白の艦艇群が現れて襲われるか分からないぞ」
「分かった」
そういって後藤は亜空間走査を開始する。
するといきなりレーダーに反応が出た。
「うわ、すごくおっきい……」
「そりゃ何億という白の艦艇群を収容するだけの空間が必要だからな。それだけ亜空間も大きくなる」
「それと同時に亜空間を支える巨大艦艇も多いってことですか」
「そうなるな」
こうして亜空間の全貌を確認する。
「それじゃあ行くぞ」
そういってレッド・フリートは亜空間へと侵入していく。
亜空間に突入すると、そこはこれまで通り、白の旗艦がみっちり詰まっている。
「相変わらず遠近感が狂いそうな光景ですね」
「レーダーを見てれば問題はない。目視しているからそうなるんだ」
「そうかもしれませんけど……」
「とにかく、巨大艦艇を探すぞ。まずは前進10kmだ」
そういって艦を動かしていく。
目標の場所に到着すると、そこには黒の旗艦をもしのぐ程の巨大な構造物が鎮座していた。
「さすが億単位の白の艦艇群を収容する艦艇だ。とんでもない大きさだな」
「関心してる場合じゃないでしょう。これ、どうやって破壊するんですか?」
「いつも通りだ。トムボール級爆弾を設置する。まぁ、この大きさなら、複数個設置したほうが効率がいいとは思うがな」
そういってトランスはトムボール級を生成する。
「なぁ、こんな地味なことを今までしてたのか?」
一緒についてきたロビンが黒島に尋ねる。
「そうですよ。こんな地味なことをしてたんですから」
「なーんか拍子抜けしたなぁ。もっと派手なことをしているのかと思ってたぜ」
「成功には地道な活動が必須なんですよ」
「俺には性に合わないぜ」
そんなことを言っている時だった。
レーダーに巨大艦艇とは異なる、動く巨大な何かの反応が出る。
「レイズさん!」
「確認しました!ジーナ、前に出て」
「了解」
そういってトムボール級を生成している黒の艦艇を守るように、蒼の旗艦、そして紅の旗艦と翠の旗艦が並ぶ。
レーダーのIFFには「UNKNOWN」と表示されるのみである。
レーダーから見るに、全長は1kmといったところか。
各種観測装置から推測される形が表示される。その形は円錐形を横に倒したような形のようだった。
それが何なのかは黒島や後藤には分からなかったが、レイズたちにはそれが何なのかを理解しているようだ。
「白の旗艦……」
ここに来て、白の艦艇、ひいては流浪の民を統括する旗艦、白の旗艦が姿を表した。
「あれが白の旗艦……」
黒島と後藤は生唾を飲み込む。
今、元凶と対峙しているのを理解したからだ。
「あー、聞こえるかね?」
白の旗艦からの通信。
それは男性の声であった。
「よく来たね、裏切者たち」
「裏切者とは聞き捨てならないですね。白の旗艦、いやフリット・ジョーシン」
白の旗艦の生体艦長であろうか、レイズは彼をフリット・ジョーシンと呼んだ。
「久々の再会だというのに、敵対心むき出しはいかんなぁ、レイズ」
「そんないいものではないでしょう」
「そうイライラするなよ、レイズ。これからお楽しみがあるというのに」
「お楽しみ?」
「そうだ。今からこの亜空間に存在する白の艦艇群との楽しい鬼ごっこだ」
「まさか……!」
そういってレイズはIFFを確認する。その瞬間、周囲にいる白の艦艇群がすべて「ENEMY」に切り替わっていく。
「さぁ、頑張って逃げ切れるかな!?ははははは!」
「トランスさん、トムボール級は!?」
「設置完了だ。すぐに交戦できる」
「祐樹さん、注意してください!」
「了解!」
そういって黒島は身構える。
ここから何百万の白の艦艇群を相手にしないといけないからだ。
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