手芸部スピンオフ
この話はTwitterフリーワンライ企画@freedom_1write
「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」で作りました。
お題「ダメです、まだ怒ってます」やルールは同企画より頂きました。時間制限の都合上誤字脱字もあるかと思いますがご容赦ください。
彼女とは未だに口を聞けていない。去年のちょうど今くらいから。
僕がこの波丘高校に転校してきたのは、二年生になる春だった。薄青の制服を着て海岸沿いの道路をピカピカのマウンテンバイクで走っていた時急に「ここは知らない場所なんだな」と緊張したのを未だに覚えている。つい先週までぎゅうぎゅうの満員電車に乗っていたせいなのか、本当に同じ国なのかと疑うくらい人通りがなかった。海岸線からのぼる朝日を背にペダルに力を込めた。
20分近く自転車を走らせた頃だろうか。やっと高校が見えた。信号機がほとんど無いから止まることも出来ずこんなにひたすら自転車を漕いでいたのは初めてだ。額にうっすらと汗をかいた。そのおかげか生徒もちらほら現れてきた。ヘルメットをかぶり友人どうしでしゃべる制服やセーラー服を颯爽と抜かしたとき、優越感に浸っていたことは否定しない。それにしてもなんで緑色の自転車ばかりなのだろうか…?
学校につくとそのまま職員室に向かった。ノックをしてもごもごと「新入生なんですが…」とかなんとか言っていたら担任と思われる先生が来た。黒髪の凛々しい女性だ。
「転校生かぁ!珍しいなあ!うちのクラスなんだってね!よろしく!」
「よ、よろしくお願いします。」
「私の名前は中川。改めてホームルームで自己紹介するからとりあえず挨拶はこんな感じね。あなたの名前は?」
「佐藤です。佐藤祐介です。」
「モブキャラっぽい名前だね!」
「正面切って言われたのは先生が初めてです。」
中川先生はふふっと笑って、
「世の中には初めてがうじゃうじゃあるからね。他人のそれをかすめ取っていくのがたまらなく好きなの。それじゃ教室いこうか」
上手い反応が返せず、遅れて席を立ち先生の後をついていった。
いたずらな笑みを浮かべ、「静かにね。」と言って僕をドア付近にしゃがませて、「ちわーっす!」と扉を開け中川先生が教室に入っていった。
「おっ…」「おおっ…?」
「せめて『当たり』なのか『外れ』なのかはっきりしてくんないとリアクションとれないんだけど…」
「正直な反応じゃないすか?」と男子の声。
「まあいいや。二年次を受け持つと大体こういう態度を取られる。思春期ボーイアンドガールズめ。」
「明らかに違うと思いますが…?」
「えーおほん!突然だが!君たちに進級祝いがある!」
「おお!」「マジで!?」「何!現金かな!?」やはり浮足立っているのは男子の声。何度この人に男子は騙されているのだろうか。
「君たちは本当にわかりやすいな。佐藤!教室入って!」
なんだか盛大にハードルが上がってしまった中教室に入ると教室が騒がしくなった。
「なんでしゃがんでたんだ…?」「誰…転校生…?」「期待の新人…?」
中川先生のせいで変なベクトルでのスタートダッシュを切ってしまった。
「ほい、転校生!自己紹介!」ドンと肩を叩かれる。クラスの皆の視線が僕に集まる。前に出て話すのにがてなのにな…
「さ、佐藤祐介です。一年間よろしくお願いします。」
「以上?」
「以上…ですけど…」
「んじゃ転校生佐藤への質問たーいむ!質問ある人挙手!」
食い気味に1人の女子が「はいっ!」と手を挙げる。
「それじゃ橘!」
「どうも!橘優菜です!」びしっと敬礼する。
「どうも…」
「祐介くんは何の部活に入ってたんですか?」
「橘もう下の名前かよ!」「今年もあざといな!」男子のリズミカルな野次の声が飛び交う。
「僕は手芸部でした。作品はあまり作ってませんでしたが。」
教室でうたたねしていた女子ががばっと起きてこちらを向いた。そしてその隣の男子とこちらを指さして何か話し始めた。
「手芸部だったんですか。珍しいですね。」
「あちらでもよく言われました。」
そのあと色んな人から怒涛のように質問されたけど、最初に質問した橘さんは先ほどと比べると歯切れが悪くなんというか情熱がなくなっていた。
自己紹介が終わり、教室の後ろにある僕の席へと座った。奇遇にも橘さんの隣だった。
「すいません橘さん」
「何ですか?」
「僕何か傷つけるようなこと言いましたか?」
「いいえ別に」とそっぽを向かれた。
「それじゃあ…」また話しかけようとしたが、前を向いたまま聞いてくれる様子ではない。
さて、どうしたことか。季節はまだ春なのに彼女の心は秋空のようだ。




