第8話・呪師しか知らない真実と~過去も未来も同じ恐怖を~
第8章 創作ランチと報告会
第8話・呪師しか知らない真実と~過去も未来も同じ恐怖を~
そっと溜め息を吐いたインスが席に戻ると、ファンは無言のまま睨みつける。
(皇都で皇女殿下が民から受け取って召し上がったものの責任、と言われましても、ね……)
内心で呆れ返るインスからすれば、いまさら何を言っているのか? という気持ちしかない。
毒見もされていないも何も、毒が使われていたら、今ここで元気に自分たちを振り回してはいないだろう。
それ以前の問題で、女神の加護は危険からジャンヌを護っているのだ。
仮に、本当に毒が盛られていたり、痛んだものが使われていたり……
あるいは、ジャンヌの体質に合わないものが使われていたとすれば、無意識にやめておこう、と判断して口にすることはないだろう。
(……まあ、そのことを、フロークス爵子がどれだけご存じかは知りませんが……)
そこまで考えて、そう言えば、と気づく。
なるほど、それでこれほどピリピリしているのか……と。
「……まず、先に断っておきますが、私はあの方から窺ったお話しか知りません……」
だから、ファンが勘違いしているであろう部分から正していくことにする。
「嘘を吐くな。貴様が……!」
「私が同行している筈もないでしょう?」
「………………」
途端に眉間の皺をさらに増やしたファンが睨むのを静かに遮れば、確かに、呪師であるインスが護衛官を伴わず、ジャンヌの皇城脱走に付き合って皇都の散策に同行している筈はない、と納得した。
納得はしたが……
(だが、貴様が手引きしたのであろう!!)
(私は陛下からのご下命に従って、皇女殿下の息抜きをお手伝いしていただけですが?)
ギリギリと歯ぎしりせんばかりの凄まじい眼光で睨むファンに、インスはいつもと変わらぬ微笑を浮かべて見せるだけ。
「……時折、皆様の目を搔い潜って皇都にお出ましになられるあの方が、先日の散策では何をした、と楽し気に教えて下さっただけですが……?」
「………っ!? 貴様……っ」
にこりと、それはそれは美しい笑顔を見せたインスの明確な嫌味に、一瞬ファンから殺気が立ち上る。
思わずステールは緊張するが、ファンは声を荒げることも武器を手にすることもなかった。
「責任と仰るのなら、むしろあの方の脱走を阻止できない護衛の方にこそ、取って頂きたいものですね?」
「っ!! 貴様がっ!」
「私が、何か……?」
煽り倒すインスの言葉にステールが冷や汗を浮かべる。
激高しかかったファンは、それでも何とか声を押さえた。
変わらぬ笑顔で言ってのけるインスに答えることができなくて、ファンの全身が怒りに震える。
(くっ! 陛下からの密命を知らないステールの前で、その件に触れるわけにはいかん……)
(ええ……。ステールさんの前では話せないでしょう? そして、この旅の間に、ステールさんが私から目を放すこともありません)
仮に、ステールが一時的に離れるとすればクロードがいることになる。
そしてクロードも、インスがジャンヌの皇城からの脱走を手伝っていたのが、皇帝からの密命であるとは知らない。
手伝っていた事実自体は知っているリオンも、当然、手伝われていた張本人であるジャンヌも知らないのだから、皇都に戻るまで追求することなどできないのだ。
(追及できない以上、今ここで考える事でもないでしょうに……)
それ以前の問題で、ジャンヌが皇都を散策中にどこで、誰に会って、何をしていたのか? をインスは本当に知らないのだから、追及されたところで答えられることはないのだ。
それを認識している筈なのに責任を、などとお門違いも甚だしい。
ああ……けれど……
ふと、思いついて、インスが口元に笑みを這わせる。
「「……………」」
それを見とがめて、ファンが嫌そうに、ステールが怖そうに顔を顰めた。
「……あの方が受け取った品物と、同じものはちゃんと成分分析に回され、事後処理はされている筈です……皇都の皆様も、あの方がどなたか、は承知の上ですしね……むしろ、差し出さざるを得なかった皇都の方々の方が生きた心地はしなかったでしょう……」
「「………………は……?」」
さらりと言われ、処理落ちする。
ジャンヌが受け取ったのと、同じものは成分分析に回されていた?
直接口にしたものとは違うかもしれないが、同じ材料で作られたものは、回収されていたというのか?
それに……
(確かに、姫様のお姿は毎年の新年参賀でのお顔見せの他に、市井に肖像画が出回っている……その再現度がどうか、までは知らないが、特徴ぐらいは皆承知している筈……)
と、納得できる部分があるファンと。
(あ~~~。皇女殿下に『おいしそうね!』何て笑顔で言われたら、確かに献上するしかないわな……それで腹でも壊されたら……怖っ!)
満面の笑みで、無意識にねだってくる皇女を前に差し出さない、何て不敬はできないが、かといって万が一があったら命がないことも分かっているので、死ぬ気で献上していたであろう民を思ってステールは震える。
そんな状況に追い込まれたら……いや、待て、このまま西に進み続けることになったら、自分がその立場に立たされることになると思い出す。
(いやいやいや! 待て待て待て!! 皇女殿下が口にするものを、俺が作ることになるんだよな!? え? 毒見、誰がするんだ!!??)
出発前、皇都東の森でアインの野営訓練を行った際、過失でインスに猛毒を食わせた前科のあるステールは一気に青ざめる。
(インスやアインの指示に従えとは言われたが、毒見なしでは渡せないだろう!!??)
その結果、自己判断で加えることなく、きちんとした知識を持つインスやアインの指示に従って、寸分たりとも狂わずに調理しろ、とは言われているが、それだけでいきなりジャンヌの口に入れさせるわけにもいかないだろう。
では、誰が毒見することになるのか?
身分的なものを考えるのならば、リオンになる。
しかし、リオンは神剣の使い手だからこそ、ジャンヌ専属護衛騎士団の幹部候補となっている。
神剣の使い手が、どのような基準で選ばれるのかが判明していない以上、リオンの身に何かあっても困る。
では次は? と言われたら……
(……え? 俺が作業して、俺が毒見するのか……??)
もし、万が一、インスが日ごろの鬱憤で、嫌がらせをしようとした際に、ステールにだけ効き目が出るような調薬をしないか? と聞かれたら……
(……ひ、否定、できない……)
本人が嫌がっても、本人のためにと思って色々している以上、死なないまでも酷い目に合うような何かを仕掛ける可能性……
それを、否定しきることができなくて、ステールは真っ青になってインスを凝視する。
「……………??」
なぜそんな目で見てくるのか分からなくて、インスはちょっと首を傾げる。
(……いきなり、どうしたのだ? ステールは……?)
そして当然ファンからしても意味が分からなくて、内心で首を傾げることになった。
第8話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、ジャンヌのお忍びの裏側で行われていた事後処理と、それを知ったファンたちのお話です!
本人が気軽に受け取っていた品々も、当然ながら周囲では何もせず放置されていたわけではなかった模様WW
そして、その話からなぜか未来の自分の立場まで想像してしまったステール。
まだ何も起きていないのに、一人だけどんどん青ざめておりますが……果たしてWW
次回もお楽しみに!
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――――――
ノリト&ミコト




