第2話・要衝都市の創作メニュー~警戒すれどもそれ以前~
第8章 創作ランチと報告会
第2話・要衝都市の創作メニュー~警戒すれどもそれ以前~
最初に供されるのはスープ。
パンチェッタと根菜が旨味と甘みを共演させるクリームのスープは、コクが深く、かといってしつこすぎることもない。
食前の飲み物で温めた胃に、優しく染み渡っていく。
ジャンヌたちはスパイスを利かせた果実の温ジュースを、インスとアインは蜂蜜を少しだけ足した白湯を注文していて、スパイス・ジュースの香りがまだ室内に残っていた。
まずは自分の口に一口。
味や温度を確かめたインスは、次の一口をスプーンの上でゆっくりと転がして、程よく冷まし、アインの口に運ぶ。
素直に口を開けたアインは、旨味たっぷりのクリーミーなスープにほわりと笑顔を見せた。
クロードやステール、そしてリオンは早くもパンを手にしていて、一口大に千切ったそれをスープに浸し、一滴残らずぬぐい取るようにして食べている。
流石にジャンヌやファンはマナーを気にしているのかそこまではしていないが、この二人もパンをスープに浸して食べていた。
続いて運ばれてきたのは温野菜のサラダ。
宿の自家製ドレッシングは程よい酸味と甘みのバランスを持ち、香草も含まれているようで口の中をさっぱりさせてくれる。
こちらも、先にインスが一口食べて、次の一口をアインの小さな口に入るように、程よい大きさに切って含ませる。
すりおろした橙色の根菜の甘さと、香草を漬け込んだビネガーのさっぱりとした酸味。
そこに、癖の少ない植物油と麦芽糖の水あめを極少量使っているのか、酸味をまろやかにするほのかな甘みが加わって、鮮やかな色に茹で上がった野菜たちをしっとりと包み込んでいた。
そして、いよいよメインとなるヴェローペが運ばれてくる。
こんがりと焼き上がった、ほんのり灰色がかった生地には、卵、ハム、チーズが包まれていて、香ばしく、暴力的なまでに食欲を刺激する匂いを漂わせていた。
トロトロになったチーズと、程よく火が通った卵の黄身が零れそうになっていて、ジャンヌやリオンがちょっと苦労しているのもご愛敬。
ファンも若干苦戦しているようだが、クロードとステールはほぼそのまま。
四つに割って、折りたたんで一口で食べている。
流石に、そんなことをされるとは思っていなかった給仕係が目を剥いているが、二人は気にもせずにおかわりを注文していた。
インスは丁寧に端を切り取り、卵とハムとチーズとをバランスよく一口に纏め、そっと口に含む。
焼き上げられた外皮のパリッとした香ばしさ、もちもちとした弾力を返してくる内側に包み込まれた具材の旨味。
黄身の一滴、チーズの一筋すら零すことなく、完璧なカトラリーさばきで上品に頂くと、やはり次の一口はアインに運ぶ。
こちらも、アインの口元にソースの跳ね一つ飛ばすことなく、完璧に給仕していた。
「……ふむ、おかしな味は特にしないな……」
「……あなたに掛かると、珍しいものはすべておかしなものになりそうですね?」
「…………何?」
ここまで特に問題なく食べ進めることができて、ナプキンで口元を拭いながら小さく呟いたファンの言葉を聞きとがめたインスが冷笑を浮かべて返す。
途端に眉間に皺を寄せたファンが睨むが、インスは素知らぬ顔でまた一口、アインにヴェローペを食べさせた。
「そもそも、皇都の下町のパン屋や、屋台の串焼肉を直接手渡しで受け取って、平気で口にされていた方ですよ? 今更貴族を顧客にされている宿の食事を警戒する意味が分かりません」
「………………は?」
次の一口は自分の口に運び、アインの分を用意しながらサラッと言ってのけたインスの言葉に、ギシリ、と空気が固まる。
ファンも、クロードとステールも、リオンも硬直して、インスを凝視した。
気にもせずにインスはアインに給仕を続け、オロオロしながらもアインは素直に口を開く。
「そうそう! 前に、孤児院の子が就職したっていうパン屋があるって聞いて、様子を見に行ったら焼き立てのパンをくれたのよね! いつも出てくるパンよりちょっと硬めだったけど、香ばしくって食べ応えもあったわ!」
「「……っ!!!???」」
同じくジャンヌも、口の端に付いた黄身をナプキンでそっと押さえて拭い取り、次の一口を切り分けながらも笑顔で肯定するものだから、ファンもリオンも一気に青くなった。
「おま……っ!? いつの間にっ!!」
「リオンっ! 貴様かっ!!」
焦って声を上げたリオンをファンが睨みつければ、自分が怒鳴られたわけでもないのにアインがビクッと肩を揺らす。
「大きな声を出さないでいただけませんか? 食事中ですよ?」
「貴様が言うなっ!!」
そっと抱き寄せたインスが苦言を呈すれば、誰のせいだとファンはますます声を上げる。
「ディアス。お行儀が悪いわよ?」
「……っ。ですから……っ!!」
少し眉を顰めたジャンヌも窘めれば、何かを言いかけたファンは結局ギリギリと奥歯を噛みしめ、インスを睨むだけ。
「……うわぁ~。大丈夫だったかな……? 流石に、ジャンヌが押し掛けたせいで首になってたら目も当てられないぞ……?」
「ちょっと、リオン。どういう意味よ?」
青い顔を引きつらせて呟くリオンの声を拾って、ジャンヌがムッと睨みつける。
「お前、自分がどんな立場かわかってる? 何で普通に受け取って食ってるんだよ?」
「……え? 何か問題?」
痛くなった胃を押さえて唸るリオンを、ジャンヌは不思議そうに首を傾げて見るだけ。
キョトンとしているジャンヌに、ファンもリオンも胃壁が削れる錯覚を覚えた。
第2話をお読みいただきありがとうございます。
いよいよ創作ランチの実食です。
温かなスープに温野菜、そしてメインのヴェローペ!
同じ料理を囲んでいても、食べ方や反応はそれぞれ違うようで……なかなか賑やかなランチタイムになりましたWW
そして、何気ないひと言から少しずつ様子がおかしくなっていく食卓。
本人にとっては何でもないことでも、周囲にとってはそうではないようです(;^ω^)
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




