第1話・ランチタイムで合流す~みんなで揃って昼食を~
第8章 創作ランチと報告会
第1話・ランチタイムで合流す~みんなで揃って昼食を~
宿の一階には、共用施設が集まっている。
中流貴族家向けの宿には、貴族である主人らが宿泊する上階の貴賓室と、従者の中でも上位者らが宿泊する中階の上級宿室。
更に、下位の従者らが宿泊する別棟が存在している。
別棟側にも共用施設があって、そちらには大浴場と酒場を兼ねた大食堂があり、平民の従者らでも気兼ねなく使えるように、町中にある平民向けの施設と大差がないようなものが提供されている。
とは言え、インスたちは基本的には主棟にある従者用の宿室を借りるので、利用する共用施設も主棟のもの。
主棟側は当然、貴族である主人らも利用するので、個室や半個室なども備え付けられている。
「あら? みんなも今から昼食?」
「「「「「……………………」」」」」
一階に下りてきたところで、茶室から出てきたばかりのジャンヌとファンに出くわした。
どうやら、ジャンヌたちも今から昼食らしい。
「……申し訳ありません。個室をお借りすることはできますか……?」
「確認いたします」
席の空きを確認していたインスは声をかけられた瞬間、食堂の案内係に個室の手配を頼む。
「あら? 一緒に食事するのはもしかして、初めて? いつも席が分かれていたものね!」
その様子を見て、ふと首を傾げたジャンヌが笑顔になる。
そう、これまでは、微妙に時間がズレていたり、道中の昼食の際には人数のせいで別のテーブルを利用することが多く、一堂に会して食事をするのは初めて。
「…………………」
無言でファンが睨みつけるのにアインがキュッと小さくなってインスの陰に隠れる。
それを、宥めるようにそっと頭を撫でて抱き寄せたインスは、ふわりと笑っていない微笑を向けた。
「……そうですね。本来なら、私たちは同席できる立場ではありませんが……」
その、インスの言葉になぜか周囲の空気がぴりつく。
((((((………………?))))))
ジャンヌは気づかなかったようだが、男性陣は全員がそれに気づいて、ほんの一瞬戸惑う。
サッと周囲の様子を確認するが、特に異常はなかった。
(……なぜ、皆さん、緊張を……?)
(……? 何だ? 今のは……?)
インスもファンも内心で首を傾げるが、クロードとステールは無言のまま。
アインは怯えた様子でますますインスの足にしがみつき、リオンは微かに眉を顰めて周囲を見回す。
「どうかした?」
「「……いえ……」」
そんな、インスたちの様子にジャンヌが首を傾げるが、インスもファンも何でもないと言葉を濁した。
「お待たせいたしました。奥の個室にご案内いたします」
そこに、中の様子を確認して来た従業員がこそっと案内係に声をかけ、案内係は一同を食堂の最奥、もっとも上等な個室に通すよう、指示を出した。
「ご案内いたします」
取次の従業員が一礼し、先導するように歩き出す。
それに続いて、まずはジャンヌ。
それをエスコートする形でファンが並び、後ろにインスとアイン。
リオンが続いて、最後尾をクロードとステールが無言で付いて来る。
「今日のランチは何かしら? ここのお昼は珍しいものが多くていつも楽しみなのよね」
ワクワクした様子のジャンヌがサッと視線を周囲に走らせ、テーブル席でランチに舌鼓を打つ他の客らのメニューを見た。
中流とは言え、貴族向けの宿の朝食や夕食は皇都の正統派のメニューが中心。
代わりに、昼食は交通の要衝らしく、様々な地方から集まってきた、珍しい食材を利用した創作メニューが供される。
どうやら、今日は少し灰色っぽい生地を焼いた物らしい。
四隅が折りたたまれて四角くなった生地にナイフを入れているのが見えた。
通された個室は、高価な透明ガラスも使った窓があり、真冬の短い日の光を目一杯取り込んでいる。
壁際の暖炉には十分な火が入っていて、室内は程よく温められていた。
室内の長卓には上質なクロスが掛けられ、人数分のカトラリーがセットされている。
窓際の上座にジャンヌが、その隣にファンが座り、入口から見て正面右手側、ファンの隣に位置する長辺の側にインスとアイン。
向かい合わせとなる正面左手側、ジャンヌの隣に位置する長辺の側にはクロードとステールという並びで座る。
最も下座に当たる入り口近く、ジャンヌとファンに向き合う場所にはリオンが腰を下ろし、三名もの給仕係が食前の飲み物をそれぞれの前に置いていく。
「いつも一泊しかしないから知らなかったけど、宿の食事って、毎回違うメニューが出るものだったのね。昼食のお料理って、変わったものがいろいろ出て楽しいわ!」
「……お嬢様、何かわからないものを不用意に……」
ワクワクした様子で本日のメニューが書かれたカードを見るジャンヌに対し、ファンは給仕係を半ば睨むように見ながら言葉を濁す。
給仕係の一挙手一投足を鋭い視線で睨みつけるファンの様子に、インスは内心で溜め息を吐いた。
どこの馬の骨とも知れない、何者かもわからない者が作り、身元も信用も把握しきれていない者が供する物に警戒するのは護衛の立場としては当然なのかもしれない。
しかし、そもそもの前提が間違っている。
「「「………………」」」
当然、給仕についている宿の従業員は面白くはない。
彼ら、彼女らは男爵家に所縁の夫人や令嬢、令息らなので内心では不満しかない。
だが、どう見ても中流貴族向け宿に宿泊する身分には見えないジャンヌとファンに文句を言えるはずもなく、ただアルカイックスマイルで緊張を隠し、粛々と業務を遂行するだけだ。
「……そう思われるのなら、皇都から持ち込んだ携帯糧食でも召し上がればいかがですか?」
「何……?」
「ええ~っ! せっかく珍しいものがあるのに、なんでわざわざ!」
冷ややかな笑顔でファンを見据えてインスが言えば、眉を顰めてファンは睨み返す。
文句をつけたジャンヌは周囲の様子を気にもせずに、スッとメニューが書かれたカードの一点を指さした。
「ねえ、ヴェローペって、どんな料理?」
名前を見てもどんなものなのか、今一つ想像がつかないジャンヌは首を傾げる。
「……ヴェローペは角黒麦を使った生地の上に具材を乗せ、四方を折りたたんで供される料理ですね……貴族の食卓に上ることはほぼありませんが、麦の栽培が難しい、西方の寒冷な地方などで救荒作物として栽培されています」
「あ! さっき見かけた、灰色っぽい四角いお料理ね!」
ファンの様子に呆れながらインスが解説すれば、個室への移動途中で他の客に供されていた料理の中の、どれなのかが分かって、ジャンヌはパッと笑顔になった。
第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回は、旅の途中では意外にも初めてとなる、全員そろってのランチタイムですWW
珍しい昼食にワクワクするジャンヌとは対照的に、何やら微妙な空気も漂っておりますが……まずはみんなで食卓を囲むことになりましたWW
果たして、本日の創作ランチはどんなお味なのでしょうか?
次回もお楽しみに!
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▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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ノリト&ミコト




