第6話・健気で尊い幼子に~カオスな朝に潤いを~
第1章 西へと向かう極寒の
第6話・健気で尊い幼子に~カオスな朝に潤いを~
早朝の宿の前で剣を片手に巨漢を追いかけ回す銀髪の青年。
あまりにもカオスな状況に、見送りに出てきていた宿屋の上級従業員たちが控えめな笑顔で固まっている。
それを横目に、溜め息を吐いたインスはここで、これ以上話をするのは無理だな……と察するとさっさと馬車に乗り込む。
「? アイン君?」
乗り込んで、一足先に馬車に運び込まれていたアインを見て微かに眉を顰めた。
「……インスさま……」
「……どうしたんですか?」
声をかけられて、びくりと身を震わせたアインはすぐにインスに近寄ると、ぎゅうううううっと抱き着く。
その、震える肩をそっと抱きしめて、そのまま抱き上げたインスは、いつも通り、馬車の座席に腰を下ろすと、アインを膝の上に座らせた。
「……大丈夫、でしたか……?」
「? ええ……もちろん」
不安そうに瞳を揺らしたアインがインスを見上げ、膝の上で上半身を捻って正面から抱き着いてくる。
「……ファン様に、乱暴、されて、ましたよね……?」
「! ……ああ。それで、心配してくれたんですね? 大丈夫ですよ……」
震える声が、囁くように告げるのに、インスはとろけるような微笑を浮かべ、そっとアインの頭を撫でた。
まあ、全く加減ができなくなっていたおかげで、まだ少し掴まれた肩は痛むが、初めてではないし、あの時よりは大分マシ。
わざわざアインに教えて、余計な心配をさせる必要もない。
以前、皇宮呪師殿で凄まれた時は、貫通傷の治療が終わった直後で。
しかも掴まれた腕を捩じり上げられ、壁に押し付けられて、更に身体を持ち上げられたものだから、今よりよほどひどい目にあった。
何しろ、その日、同席を頼んでいたウスニーに目ざとく気づかれて、回復魔法をかけて貰うまで、痛みと痺れが取れなくて、まともに動かせなかったくらいだったのだから。
それに比べれば、関節を外されたわけでもなし、今こうして問題なくアインを抱き上げ、抱きしめられるのだから何の問題もない。
と、そんなことを思っているインスをじっと見上げるアインの眼差しからは、不安や心配の色が一切消えない。
「……インスさまが、意地悪されるのは……嫌です……」
「……っ!!!!!?????」
ファンに対する怯えの色を覗かせながらも、不満そうに零したアインの言葉に、かちりとインスが固まった。
「……アイン君……っ」
「ぇ? わ……っ!? い、インスさま??」
直後、ぎゅううううううっと、アインを抱きしめたインスに驚いて、アインが小さく声を上げる。
「……君は、ほんっっっっとうに、いい子ですね……君がいてくれさえすれば、私は他に何もいりません……!」
「ぇ……? ええ……?? で、でも……っ!? ぼ、僕は……」
囁くように、けれども激重な感情を隠しもしないインスに、アインは嬉しさ半分、戸惑い半分でワタワタと身じろぎした。
「……ぼくは、インスさまを……」
「……言ったでしょう……?」
言葉に詰まって、涙目になるアインに、ふわりと微笑みかけて、インスはチョン、とアインの鼻のてっぺんに軽く人差し指を当てる。
「……君が、無事でいてさえくれれば、それだけでいいのです……」
「……インスさま……」
繰り返されて、アインもちょっと、泣き笑いのように笑顔を見せた。
それに微笑み返して、インスはさてと、といい加減、朝っぱらから怒声を発するポンコツを止めることにする。
「いつまでそうしているおつもりですか? 皆様のご迷惑になっていますよ?」
「……っ……!!??」
馬車の中から首だけ外に覗かせて、呆れを一切隠さない冷めた声で言ってやれば、流石にファンも頭が冷えたのか、ハッとしてステールを追いかけ回す足を止める。
よく考えるまでもなく、朝も早い時間に、街中で、抜身の剣を片手に身内である大男を追いかけ回している姿、など……
(……目立ちまくっているではないか……っ!?)
身分を隠して、お忍びで旅をしている筈なのに、どう考えても目立ち過ぎだ。
「……いえ……裏家業の人間の内輪揉めにしか見えませんよ……」
ズレた感想を抱いていそうなファンに、インスがますます冷たい声音で言ってやれば、見送りに出てきている宿の従業員たちの顔が、完全に引きつっていることに漸く気付く。
「なんかよく分からないけど……追いかけっこは終わったの? そろそろ出発できる?」
そこに、一切空気を読まないジャンヌの、大きく的を外した我が道を行く発言が重なって……
(……遊んでいるわけでは……!)
ファンが心の中でギリギリと歯ぎしりをし。
(……なんだかよく分からんが、落ち着いて下さったようだな……)
全く自分の非を理解していないステールがほっと安堵し。
(……あ、そういう……!)
インスの発言と宿の従業員の顔を見て、自分たちがどう思われているのかをリオンが漸く理解し。
(………………積み込み終わった……詰み、終わった……)
もくもくと荷物の積み込み作業に戻っていたクロードが真顔になり。
「…………っ…………」
インスに抱かれたアインが、極限まで自分の存在を消し去ってしがみついた。
第6話をお読みいただきありがとうございます。
嵐のような大騒ぎをよそに、先に馬車の中にいたアインは、乗り込んできたインスにぎゅっと抱き着きます。
ファンに対して怯えの色を隠せないアイン。
それなのに、目の前でファンに掴みかかられて痛い思いをさせられたインスを本気で心配し、ぽつりと不満を口にします。
自分の痛みはいくらでも我慢するアインが、インスのために、怖さを乗り越えて自己主張する健気さ。
そして、その尊すぎる一言にインスの過保護スイッチはフルスロットルで大暴走!
激重な愛情でぎゅうぎゅうに抱きしめ、アインを戸惑わせてしまう極甘なふたりのひと時です。
大人たちのカオスな騒ぎと、極限まで自分の存在を消し去ろうするアイン。
濃密で、ポンコツすぎる旅路はまだまだ続きます。
次回もお楽しみに!
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▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク
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ノリト&ミコト




