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皇宮呪師は護りたい!⑪聖皇国列伝秘聞~盤上《たびじ》で踏割《おど》る薄氷の檻枷《えにし》~  作者: norito&mikoto
第1章 西へと向かう極寒の

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第5話・三日目になって確かめて~ポンコツたちのお世話係~

第1章 西へと向かう極寒の



     第5話・三日目になって確かめて~ポンコツたちのお世話係~



 皇都を出発して三日目。

 


「……フロークス爵子は、身分を隠す気が本当におありなのですか?」


「……なんのつもりだ……?」



 早朝の宿の前で、首を傾げて問いかけたインスを、これでもかとばかりに険しい視線でファンが睨んだ。



(……一体全体、何をお考えなのでしょうね? この騎士団長様は……)



 この遠征を心の底から望み、強行しているのはジャンヌただ一人。


 むしろ、最上層部からはできるだけ早く引き返させろ、と命じられている。



 だというのに、昨夜の宿は、ファンの目利きの結果、豪商にも開放されている下級貴族向けの宿。


 当然、最上級のグレードの部屋を占拠し、優雅な一夜を過ごしたジャンヌは今日もつやつや。



 昨日、迎えてくれた時とは違い、見送りの列を作っている上級従業員は、上手く隠してはいるが、とてつもない緊張感を抱いているのが分かる。


 それなのに、わざわざ全員が表に出てきていた。



 明らかに、特別扱い。


 そのことを当然のように受け入れているのはジャンヌとファンの二人だけで、彼らの様子から、やはり何らか身バレしているのがはっきりしている。



 まあ、流石に、皇孫皇女御一行と確信しているわけではないだろうが、それでももしやと思われているのは確実だった。



「……いえ……昨夜といい、その前といい……()()()など一切感じられない様子ですので……」



 ふわりと笑みを浮かべたインスの明確な嫌味に、ファンの眉間の皺が深くなる。



 身分を隠す気があるなら、こんな宿の取り方はしない。



 それはインスからすれば言うまでもない、ごく当たり前のこと。


 だから、何らかの意図があるのなら、聞いておくべきかと思っただけ。



「……少なくとも()()が口を滑らせない限り、悟られるような真似はしていない……」



 しかし、ファンから返って来たのはそんな言葉。



 言外に、「たった今、お前のせいでバレた。」とでも言いたげな内容に、インスはきょとんと一瞬目を丸くした。



「………………え?」


「…………なんだ………?」



 パチパチと瞬きを繰り返すインスをねめつけるファンは、本気で気づいていない。



 初日に散々リオンから、「フロア二つも借り切る、何てしたらバレるに決まっている。というか、いきなり押し掛けて金貨なんぞ詰んだらそれだけでお忍び貴族と言っているようなものだ!」と疲れ切った声で言われたので、今回は事前に「最上級の部屋と()()()()を借りたいが可能か?」と確認している。



 だから、問題はない、と判断しているようだが……



 何となく、事情を察して、インスは頭痛を覚える。



「……………。まず、()()()()()()を希望した時点で、金銭的に余裕がある者、と見られます」


「……それがなんだ……?」



 深い深い溜め息を吐き、軽く指先でこめかみを押さえたインスが若干疲れた声で言うのに、ファンは苛立ちを滲ませた声で返す。



 こうもあからさまに呆れ果てているというのに、その理由に一切気づいていないのが分かって、ますます頭が痛くなる。



「更に、()()()()などという上等な部屋を()()押さえたい。と言われた時点で、()()()()()と悟られます」


「なっ!?」



 続けられた言葉にファンがギョッとして目を剥く。


 眼光鋭いファンの目が、珍しく……というより、一度も見たことがないほど大きく見開かれていて、ちょっと面白いと思ったことは内緒だ。



(……こんなに大きく目を見開くこともできたのですねぇ……)



 いつもこのくらい柔らかく見せれば、不用意に他人を怖がらせることもないのに……と、インスの思考が少し逸れかかった。



「……理由はお分かりで……?」


「………………」



 問いかけるが返事はない。


 インスは溜め息を隠さずに吐いて、聞き方を変える。



「……では、なぜ、フロア二つを借り切ったり、特定の部屋の周囲を借り切ったりなさったので?」


「それは当然、ひ……()()のあん……」


「待ってください。今、()()と仰いましたか?」



 しかし、その答えを最後まで聞かず、真顔になって遮る破目になった。



(……お嬢? どうしてそうなったのですか? 愛称でお呼びするなり、普通に「お嬢様。」でよいはずでは……??) 



 それなのに、なぜそう呼ぶことになっているのか、いつの間にそうなったのかが全く分からない。



 分からないが、宿の従業員らの異常なほどの緊張具合に、別に理由がある可能性を何となく察して、内心で頭を抱える。



「? ……それがどうした? ()()()()では問題があろう」


「だからと言って、なぜよりにもよって()()何ですか?」



 いきなりなんだ? とばかりに眉を顰めたファンが、当然のことと答えれば、真顔のまま詰め寄るインスが圧を増す。



 なぜインス(こいつ)はこんなにソレにこだわるのかと、不審気にファンは見下ろす。


 なぜ、この方は気づかないのかと、インスもまた真っ直ぐに見上げた。



 視線がぶつかり合い、ほんの僅かに眉を顰めたファンが、いかにも仕方がない、と言わんばかりに口を開く。



「ステールが主家のご令嬢をそう呼んでいると聞いた。それに倣って()()と呼んで良いかと伺いを立て、お許し下さったので私もそれに合わせることにしただけだ」


「…………………(あの……、脳筋護衛官……っ!!)」



 さも当然の口調で説明されて、一瞬、インスの思考が飛ぶ。


 直後、理解すると同時に、とんでもない殺気が漏れた。



「「「っ!?」」」



 向き合っていたファンだけではなく、荷物の積み込みをしていたクロードとステールも瞬時に剣に手をかけるのを目にして、怒りを飲み込む。


 ファンたちは一気に警戒するが、インスが怒りを飲み込んだことで一瞬にして殺気は立ち消えた。



 代わりに……



(れっきとした辺境伯家のご令嬢を「お嬢。」などという呼び方でお呼びしている?? ありえないでしょう!!)



 どれだけ脳筋なのだと考えながら、インスはゆっくりと体の向きを変える。


 満面の笑みを浮かべたインスが、一切笑っていない目で()()()()()見た。



「……ステールさんのご実家が仕えていらっしゃるお家は、どこぞで()()()でも営んでおいでで……?」


「「……は……?」」



 インスのその問いかけに、ファンは思考を停止させ、ステールはいきなり何を言っているんだ? と言わんばかりに首を傾げる。



「そんなわけないだろう? ()()()()()()お家柄だぞ?」


「ま、待てっ! なぜそうなったっ!?」



 呆れながら答えるステールと、思考停止から復活したファンの少し焦ったような声が同時に上がった。



「……っ……!?」



 思わずインスの肩を両手で掴み、向き直らせたファンが眉間の皺を複数に増やしてぎろりと睨みつける。


 いきなり掴みかかられて、しかも加減がされていないのか肩に思い切り指が食い込む。



「ちょっ!? 痛いんですけれど!?」


「黙れ……()()()とは、どういう意味だ……?」



 当然抗議の声を上げたインスに、低く押し殺した声で凄むファンは()()()()()に見えなくもない。



「後ろ暗い行いや、暴力的な手段で市井に働きかける……ぃっ!?」


「違う! 貴様! 分かっていて言っているのだろう!?」



 真面目に答えているのに掴みかかった手に更に力が加わって、顔を顰めたインスをファンが怒鳴りつける。



 どうやら、裏家業についてではなく、お嬢という呼び方について聞いていたらしい。



「……そういった方々をまとめている、いわゆる()()()()への呼び掛け方ですよ……」


「…………………」



 問いかけの意味を察して、溜め息を吐いたインスが告げた瞬間。


 ファンは真っ白になって固まる。


 いい加減、手を放して欲しいのだけれど……と思いながらも無言でいれば……



「……っ!!!!???? ステール=ベルン!! 貴様……っ!!!!」



 数呼吸の後、辺り一帯にファンは怒声を響き渡らせた。


 かと思えば、抜身の剣を片手にステールに斬りかかる。



「は? えっ!? い、いきなりどうなさったんですか!?」


「黙れっ!!」


「ちょっ!? 危ないじゃないですかっ!!」



 驚いたステールが焦って声を上げるが、一向に聞く耳を持たない。



「……???……ディアスってば、いきなりどうしたのよ?」



 いきなり始まったファンとステールの追いかけっこを、心底不思議そうに首を傾げるジャンヌと、漸く知ったか……とこっそり溜め息を吐くリオンがその様子を眺めるともなく眺めていた。

第5話をお読みいただきありがとうございます。


三日目の早朝。


宿を出発する前に繰り広げられるのは、身分を隠す気のない過剰な防衛策に呆れ果てたインスと、その正論に目を見開くファンの静かな(?)衝突。


隠密旅のはずが、最上級の部屋を借り切り、さらにその周辺の部屋をフロア二つ分も押さえるという、一般人とはかけ離れたファンの貴族的なお世話っぷり。


インスから容赦ない嫌味を叩きつけられ、初めてその理由を理解して驚愕するファン。


さらに、その言い訳の中で飛び出した「お嬢」という謎の呼び方。


ステール直伝のその愛称が、実は「裏家業の頭目の娘」を指す言葉だとインスに冷ややかに説明された瞬間、ファンは真っ白にフリーズ!


そして怒りの矛先は、元凶であるステールへと向けられ、抜身の剣を手にした大絶叫の追いかけっこへと発展WW


一歩も譲らないインスの極寒の笑顔と、常識のズレに気付いて本気でパニックになるファンの爆笑必至の掛け合いです。


次回もお楽しみに!


【シリーズ一覧はこちら!】


本編と番外編、それぞれのシリーズ総合リンクです。


過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!


▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク

https://ncode.syosetu.com/s7443j/


▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク

https://ncode.syosetu.com/s8365j/


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「インス、よく怒りを飲み込んだWW」「男たちの早朝追い駆けっこWWW」と感じていただけましたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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