第9話・不安と不満と心配と~ここぞとばかりに正論を~
第6章 ブルンの宿の朝
第9話・不安と不満と心配と~ここぞとばかりに正論を~
結局、インスは朝食を取ることまではできなかった。
「薬の効果がある程度出るまでは、食事は無理ですね……」
「は!? 意味がないだろう!!」
げっそりとして、片手で口元を覆いながら告げるインスに、ステールが眉を顰めて声を荒げる。
「……煩いですよ……」
びっくりしたようにアインが肩を竦めてインスにしがみつけば、インスは自身の腹部を撫でていた手を伸ばし、そっとアインを抱き寄せた。
「何も、ずっと食べられないわけではありません……」
それから、ちょっと睨むようにステールを見るとまずそう告げる。
「今は薬が効果を発揮して、胃腸の修復を急いでいる最中ですから、消化や吸収を行う働きをさせるわけにはいかない、というだけです……昼前には終わるでしょうから、昼食は食べられるはずです……」
要は、タイミングの問題。
本来、こんな薬を飲む予定も、こんな薬が必要になる予定もなかったのだから、飲むタイミングが遅くなり、朝食に間に合わないというだけ。
「……私は無理ですが、アイン君はちゃんと食べて下さいね……」
ふわりと微笑んで告げたインスは、けれどアインが一人できちんと食事できるのか不安を覚える。
いや、アインの食事のマナーが悪いわけでもなければ、好き嫌いが激しかったりするわけでもない。
むしろ、元々のアインは大人顔負けの、きちんとしたマナーで食事をすることができていた。
ただ、魔族によって左目の瞳の宝石を抜かれてしまった結果、失明してしまったせいで、距離感が狂い、カトラリーをうまく扱えなくて困惑することが多いだけ。
それを知っているから、普段はできるだけインスが隣に座らせて、アインの口のサイズに合わせて給仕している。
……たまに、クロードが無造作に差し出すものも口にしているが、それはそれだ。
「……クロードさんならともかく、ステールさんに任せるのは不安しかありませんね……」
「どういう意味だ! こらぁ!」
「……ひ……っ!?」
思わずぼそりと呟いたインスにステールが怒鳴りつけ、怯えたようにアインが短く悲鳴を上げた。
「……大きな声を出さないで下さい……」
「わ、悪い……アインに怒ってるわけじゃないからな……」
「……………」
眉を顰めたインスが軽くアインの背を撫でて落ち着かせ、少し焦ったようにステールが謝罪すれば、アインも無言で頷く。
「……あなたは大雑把すぎるのですよ……私の口に無理やり押し込む時も、大きすぎるというのに……同じようにアイン君の口に押し込んだりしたら、本当に窒息させてしまいます……」
「うるせぇ。そんなことするわけないだろうが」
溜め息を吐くインスに、怒鳴りたいのを堪えてステールが反論するが、インスもアインも無言で見つめてくる。
「……なんだよ、その顔は……」
「……常に窒息の危険を感じていますが……?」
「……ぇ……っと……インス様、いつも苦しそうです……」
眉を顰めたステールに、真顔のままでインスは言いきり、アインまでもが遠慮がちに告げた。
「っ!? そ、そんなわけ……」
「そもそも、元々私はあなた方ほど食べられないのです……きちんと自分の適量は食べています……医務殿で無理に食べさせられていた時だって、食べやすい状態にされたものを、ただただ大量に食べさせられていただけで、塊のロースト肉をひたすら押し込まれる、などということはありませんでしたよ?」
二人ともに言い切られ、ちょっと焦ったように言い訳するステールを遮るように、インスはにこりと笑った。
目は一切笑ってはいないが、表情は笑顔だ。
「はぁ!?」
しかし、そのインスの説明には納得できなくてステールは声を上げる。
「よく思い出してください……あなたが無理に押し込むよりも前に、私はちゃんと食事をしているでしょう?」
「あんなちょっとばかしじゃ全然足りてないだろ!」
「……何を根拠に? クロードさんはともかく、リオンさんだって、あなた方ほどの量は食べていません……ましてや、私は肉体労働者ではないのです。必要な量も栄養素も違って当然でしょう?」
まだ、消化のしやすいスープ類やパナードならばマシだが、塊の肉だの、大きめに切られた温野菜だのをほぼそのまま口の中に押し込まれても咀嚼するのも大変だし、胃がもたれて当然。
そもそも食事の絶対量が違い過ぎるというのに、自分と同じだけ食べろとでも言うかのように押し込まれても無理に決まっているのだ。
「い、いや……! でもお前……また痩せて……」
「過剰な量を押し込まれて吐き戻してしまうからでしょう? むしろ、あなたの雑な給餌のせいです」
「………………」
なおも食い下がろうとするステールに、スッと目を細めたインスが若干の殺気を込めて言い切る。
言われて、確かに食後に吐いてることがあるな……と思い至って口を噤んだ。
「……その結果、胃腸修復薬まで必要になってしまいましたが……?」
「…………わ、悪い…………」
極寒の笑顔に、流石にステールも小さく謝罪を口にする。
溜め息を漏らしたインスは、結局、クロードやステールと共に、アインの食事のために食堂に行くことにした。
第9話をお読みいただきありがとうございます。
薬効で胃腸の修復が続くため、朝食が取れないインス。
片目が不自由でカトラリーの扱いが難しいアインの食事を心配するインスは、大雑把すぎるステールに任せるのを不安視します。
さらに、過去に大きな肉の塊を強引に口へ押し込まれた「雑な給餌」のせいで吐き戻し、余計に胃腸を壊していたという衝撃の事実を極寒の笑みと正論で論破!
返す言葉もなく反省して平謝りするステールと共に、一行はアインの朝食のために食堂へと向かいますが……!?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




