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皇宮呪師は護りたい!⑪聖皇国列伝秘聞~盤上《たびじ》で踏割《おど》る薄氷の檻枷《えにし》~  作者: norito&mikoto
第6章 ブルンの宿の朝

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第4話・残滓に絡まれ落ちる夢~反射と連鎖の行き着く先は~

第6章 ブルンの宿の朝



     第4話・残滓に絡まれ落ちる夢~反射と連鎖の行き着く先は~



 ざわざわと、全身を這いまわるような怖気にインスの唇から微かに苦悶の吐息が零れる。



「…………ぅ……っ」



 震える我が身を固く抱きしめ、厭な感触の幻から逃れようと捩るが、幻であるせいか一向に消えてくれない。


 息が荒く乱れ、うっすらと浮かぶ汗に体が冷えた。



「……ん……? ……インス……?」



 微かな物音と気配に、壁にもたれて仮眠を取っていたステールが顔を上げ、様子を見る。


 眠ってはいるようだが、酷く魘されているのを見て取って眉を顰めた。



(……薬(どく)は完全に抜けたんじゃなかったのか……? 何だってま(・)だ(・)……)



 その様子が、神殿の治療院で『弱毒』の魔法が弱まった時の、飲まされた薬の影響に似ているのに気づいて、ステールは首を傾げながらも立ち上がる。



 どうやら、仮眠を切り上げて部屋を出たファンの代わりに、ジャンヌが使っている部屋の前で警備に立っていたはずのリオンは戻っていないらしい。



 部屋に三台しかないベッドのうち、一つは先に使っていたアインがそのまま眠っていて、一つは酷く魘されているインスを横たえたまま。


 ファンが使っていたベッドは空いたままだったので、自分が使っても問題はなかったようだ。


 恐らくは、ファンが気を利かせて、ステールがベッドで休めるようにと部屋を出て行ったのだろうが……



(……それならそうと言っておいてくれてもいいだろうに……)



 リオンかクロードが戻って来る、と考えて壁にもたれて仮眠を取る破目になったステールは内心でちょっと愚痴る。



 愚痴るが、とりあえず、今はそのことはよいとして、様子がおかしいインスの顔を覗き込む。



「……ぅっ……ぅく……っ」



 荒く乱れた呼吸。


 縋るように己を強く抱きしめ、震えながら身を捩り、苦悶の声を押し殺す。


 嫌悪に歪む顔は酷く青ざめ、薄く浮かんだ冷や汗がしっとりと額や首筋を濡らしていた。



 必死に噛みしめる唇を切りそうで、ステールはどうしたものかと顔を顰める。



 起こすべきか、このまま眠らせておくべきか。


 果たしてこのまま眠らせておいて休まるものなのか。


 あるいは、起こしても問題はないのかどうか。



(……無理に起こして、無意識でインスが魔力を動かすようなことになれば、呪いでア(・)イ(・)ン(・)が(・)苦痛に襲われる……)



 かといって、このまま寝かせておいても……


 眠ったままで魔力を動かしてしまう恐れもあった。



「……………インス……」



 そっと溜め息を飲み込むと、ステールは声を押さえて呼びかける。


 一瞬だけ躊躇って、その肩に手を置いた。



「……っ……!!??」



 途端にビクンっと身を震わせたインスが目を見開く。



「……ぁ……っ!?」


「……ぅあ……っ!!??」



 微かな驚きの声を、アインの短い悲鳴がかき消した。



「「……っ!?」」



 インスとステールが弾かれたようにアインが寝かされたベッドを見る。



「……ぁ……っ。……ぇ……っ……?」


「っ! アイン、く……っ」



 何が起きたのか分からない。


 戸惑ったような表情で、跳ねる身体を持て余すアインに、慌てて起き上がったインスはそのままくたりと崩れ落ちる。



「っ!? インスっ!!」


「っ!!?? ゃ……っ!!」



 ギョッとしてステールは咄嗟に抱き止めようと腕を伸ばすが、ヒュッと息を飲んだインスはその手を乱暴に振り払った。



「……ぅ……っ。ぉえ……っ」


「……ぇ……?」


「……いんすさま……?」



 そのまま頽れたインスは真っ青になって嘔吐き、目を丸くしたステールと、困惑したようなアインの声が明るくなり始めた室内にコトンと小さく音を響かせる。



 両手で口を押さえて震えるインスに答える余裕は一切なく、振り払われたステールは手を出していいかわからなくてただその様子を見つめた。



「「「……………」」」



 グッと眉を顰めたインスは覚束ない足取りで洗面室へと消えて行き、残されたステールとアインは言葉もなくそれを見送るだけ。



「……アイン……」


「……ぁ……は、はい……」



 微かに呻くような、くぐもった物音が漏れ聞こえる洗面室の扉を暫く見つめて、ステールはゆっくりとアインに向き直った。



 びくっと、小さく震えたアインが、不安そうに視線を揺らして、真っ白に青ざめた顔でステールを見上げる。



「……お前は、大丈夫か……痛いところは……?」


「……ぇ……? ……ぁ……」



 緊張で強張った表情になっているのは分かったが、ステールには取り繕えるだけの余裕がない。


 問いかけられたアインは、先ほど突然襲ってきた痛みの正体を知って大きく目を見開き、息を飲んだ。



「……ぁ……ぼ、く……は……」



 反射的に言葉を発しながら、自分の身体を見下ろす。



 今は、もう何ともない。


 けれど、ほんの一瞬。


 ピリッと痺れるような痛みが頭の先から足の先まで走って行って、しかも眠っていたからすごく驚いて……



「……っ……。ぼ、く……が……」



 反射的に魔力が動いた。


 それに思い至ってますます青ざめる。



「? アイン?」



 ガタガタと震えだしたアインに、ステールは驚いて眉を顰めた。



「……僕の、せいで……インス、さま……に……」


「っ!? 待て、アイン。それは違う」



 呆然とした呟きに、ハッとしてステールはアインが寝ていたベッド脇で膝を着く。



「……で、でも……っ!」


「落ち着け。魔力が動く」


「……っ……!?」



 じわじわと目の縁に溜まっていく涙に、悪いとは思いながらもステールはあえてそう言って無意識に魔力を動かしてしまわないようにと注意を促す。


 ひくりと息を飲み込んだアインは、グッと唇を噛んでこくんと頷いた。



「もう一度言うぞ。お前のせいじゃない」



 しゃくりあげるようにして涙を堪えるアインの頭をそっと撫でて、ステールは意識して声音を柔らかくする。



「…………っ」



 俯くアインは袖で乱暴に涙を拭いて、微かに首を横に振った。



「お前のせいじゃない。俺がインスを驚かせちまったせいだ……だから、お前のせいじゃないし、インスのせいでもない……」


「……ぇ……?」



 思いがけない説明に、アインは戸惑ったように顔をあげる。



「……驚かせて、悪かったな……」


「……っ……」



 眉を下げて告げるステールに、アインはぎゅっと唇を結んで、また首を横に振った。

第4話をお読みいただきありがとうございます。


過酷な出来事の疲労と残滓から、ベッドで酷いうなされ方に襲われるインス。


アインへの呪いの影響を危惧しながらも、見かねて声をかけたステールでしたが、その一瞬の動揺からアインへと痛みが伝わってしまい……。


パニックになり自分を責めて涙を流すアインと、倒れ込みながらも拒絶してしまうインス。


そんな二人に対し、ステールがかけた優しく切ない言葉とは――!?


次回もお楽しみに!


【シリーズ一覧はこちら!】


本編と番外編、それぞれのシリーズ総合リンクです。


過去の関連作品などはこちらからお読みいただけます!


▼ 本編【CCC】シリーズ 総合リンク

https://ncode.syosetu.com/s7443j/


▼ 番外編【STO】シリーズ 総合リンク

https://ncode.syosetu.com/s8365j/


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「呪いの連鎖が切ない…… 」「ステールの優しさが染みる……」と感じていただけましたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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